<特別座談会>「BCN ITジュニア賞」受賞校の先生に聞く――第106回(上)

千人回峰(対談連載)

2014/03/06 00:00

いずれは、校内ベンチャーから世界へという時代がくる

構成・文/谷口一
撮影/津島隆雄

週刊BCN 2014年03月03日号 vol.1520掲載

 「BCN ITジュニア賞」を開始するときに、悩んだことが一つある。特定の生徒・学生を褒め称えて、それが子どもたち全体のプラスになるのかと。いろいろな人にお話をうかがい、考えて、自分のなかで腑に落ちたのが、普通の子どもたちのなかからヒーローが誕生し、次にはそのヒーローを目指す子どもが現れるということだった。そして、日本に次々とヒーローが誕生していけば、そのヒーローのなかから、スーパーヒーローが現れて世界を目指す。必然的にITを目指す子どもたちの底上げもできる。「BCN ITジュニア賞」は今年で9回目の開催になった。まだまだ、積み上げていかなければと思っている。(BCN会長・ITジュニア育成交流協会ファウンダー・奥田喜久男) 【取材:2014.1.17 東京都千代田区のBCN本社にて】

2014.1.17 東京都千代田区のBCN本社にて
 
 「千人回峰」は、比叡山の峰々を千日かけて歩き回り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借しました。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れることで悟りを開きたいと願い、この連載を始めました。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
株式会社BCN 会長 奥田喜久男
 
<1000分の第106回(上)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。

出席者<発言順>
東京工業高等専門学校
情報工学科 教授 松林勝志氏

宮城県工業高等学校
情報技術科 教諭 加藤健一氏

鳥羽商船高等専門学校
制御情報工学科 准教授 江崎修央氏

北海道札幌国際情報高等学校
情報技術科 教諭 山本克郎氏

福島県立郡山北工業高等学校
情報技術科 教諭 佐藤恒夫氏

鈴鹿工業高等専門学校
電子情報工学科 准教授 青山俊弘氏
 

脳を活性化するためにアメは切らさない

奥田 先生方は、子どもたちとどういうスタンスで接しておられますか。受賞常連校の東京工業高専を率いておられる松林先生、いかがでしょう。

松林 昨年、人事交流があって、沖縄高専で1年間教えていたのですが、あちらでも学生とのつき合いがうまい先生がプロコンの指導をやっておられて、いい成績を収めていました。沖縄高専の先生をみていると、おもしろいからやっておられることがよくわかります。割り当てで担当する顧問じゃなくて、自分も楽しみたいからやっている。そういう面があると思います。

奥田 宮城県工業高校の加藤先生はいかがですか。

加藤 4年前に転勤してきて、この学校で平子英樹先生と出会い、技術の競技大会で勝つ喜びを初めて体験させていただきました。目標があって、その目標に向けてどう挑戦していくかというところは、われわれの指示がある程度必要ですが、子どもたちのなかで先輩が後輩を指導するというサイクルができていて、いいかたちで流れが生まれてきていることを実感しています。うちの部活は、体育会系文化部と呼ばれていて、礼儀作法などにもとくに注意を払っています。「U-20プログラミング・コンテスト」では、開成や灘という全国に名の轟いている学校が出場していますが、そんな有名校の子どもたちと戦うことにも非常に魅力を感じています。

奥田 鳥羽商船高専の江崎先生はいかがでしょうか。

江崎 私が大切にしていることは、食べ物と睡眠時間をきちんと摂ることと安全の確保です。なので、研究室に売店を設置して、カップラーメンとかお菓子やジュース、アイスクリームなんかを100円で買える環境をつくっています。学生が作業を始めるのは午後4時過ぎからで、その頃にはお腹がぺこぺこ。そうすると脳みそに糖分が回らないので、まずはお菓子なんかを食べてから作業を始めようというわけです。また、女子もいますので、帰りは遅くならないようにと指示しています。帰宅した後に何をするかというと、グループウェアなどを使って、情報共有をやっています。そういう対応をしていることもあって、顔を合わせるよりも密につながっているという気がしています。

奥田 アイスクリームは余分じゃないですか(笑)。

江崎 いや、夏場は必需品ですね。200個とか買っても、プロコン最盛期だと一週間ももたないかな。

松林 私も同じようなことをやっていて、アメとかチョコレートは、頭を使うので切らしません。プロコンの前になると、スケジュール管理をするために差し入れをすることもあります。例えば、この日は完成したソフトウェアをグーグルにアップロードする日だから、「午後4時からはピザパーティーをやるぞ」と、学生をけしかけたり。

奥田 モチベーションを高めるために利用される?

松林 全体のプロジェクト管理はリーダーがやっていますが、それでもずれてくるので、私が差し入れで歯止めをかける、と。
 

 

子どもたちが自主的に取り組むのを待つ

奥田 モチベーションを高めるという点で、他の先生はどうですか。北海道札幌国際情報高校の山本先生は?

山本 食べ物は与えていませんね。材料や課題などはしっかりと準備していますが……。

奥田 子どもにとっては、そういう環境というのがうれしいわけですね。

山本 たぶん、喜んでいるのじゃないかと。うちの学校は大人数のなかで生徒が切磋琢磨するかたちではないので、特殊かなと思っています。三人が手を挙げてきたので、簡単な予選をやって、二人に絞って練習を積んできました。皆さんは、体育会系の訓練を積んでやっておられるような感じなんですが、僕はそういうかたちじゃなくて、70点から80点しか狙わないんです。まあ8割ぐらいを狙って、運がよければ優勝という。なんかこう、無理矢理やらせても仕方がないなというところもあるし……。

奥田 山本先生の70~80%というのは、よその100%を超えているんじゃないですか。モチベーションを高めることについて、郡山北工業高校の佐藤先生はいかがですか。

佐藤 先ほど松林先生がおっしゃったように、自分自身が楽しいですね。まだつくられていないシステムをつくってみないかとか、こんなものができるとおもしろいだろうねとか、そういうふうなことを生徒たちと考えていくのが好きですね。山本先生のお話のようなかたち、組織的というのじゃなくて、コーヒーを飲みながら子どもたちとおしゃべりして、アイデアを出していく。そういうふうにやっていくほうが私は好きです。ただ、昔は中学校でベーシックをやって、高校でどんどんプログラムをつくる。そういう子どもたちがいましたが、最近は少なくなった印象を受けますね。「U-20」で優秀な成績を残している超進学校の子どもたちが、小学校あたりから始めているという実態があります。

奥田 鈴鹿工業高専の青山先生のところはどうでしょう。学生たちを育てるノウハウみたいなものは?

青山 基本的には、無理にやらせません。自主的に動くのを待つという姿勢で臨みます。無理にやらせてもあまりいい結果が出てきません。いかに自分からやりたくなるように仕向けるかというところに気を使っています。学生たちは割とゲンキンですから、お菓子や賞で釣ることができる子もいますね。学生によって違いますが……。後は、役割分担を意識づけをさせるというくらいですね。優勝が狙えるときは、実力のある子たちなので、あまり口を出さないほうがいいかなと思っています。

奥田 80%主義、それも育てる極意なのですね。

青山 できる子はそれでいいですが、普通の子をできるようにしたいというのが、私の気持ちです。賞を取っている子どもたちは、技術力をもっていたりコミュニケーション力があったりしますが、そうでない子がたくさんいて、どちらかというと、私はそっちを引き上げてやりたい。

奥田 普通の子を育て上げたいと、私も同感です。普通の子を底上げしてこそ、世界に挑戦するようなスーパーヒーローが生まれてくると、私は確信しているんです。(つづく)

 

BCN ITジュニア賞とITジュニア育成交流協会

 BCNは、技術立国日本の次代を担う若い世代にものづくりの情熱を伝え、IT産業に一人でも多くの優秀な人材を招き入れるために、2006年に「BCN ITジュニア賞」を創設し、毎年1月に若きITエンジニアの卵を表彰式に招待しています。ITジュニア育成交流協会は、全国のITコンテストで優秀な成績をおさめた、すぐれた技術をもつITジュニアの皆さんを「BCN ITジュニア賞」の候補者として推薦し、表彰式の運営も担っています。

 9回目となった「BCN ITジュニア賞 2014」では、「全国高校生プログラミングコンテスト」「高校生ものづくりコンテスト全国大会」「全国高等専門学校プログラミングコ ンテスト」「U-20プログラミング・コンテスト」の入賞者から、計5チームと個人5人を「BCN ITジュニア賞」の受賞者として選出し、表彰しました。