一部上場も単なる「通過点」 大事なことは、次に何をやるかだ――第127回(上)

千人回峰(対談連載)

2015/01/22 00:00

葉田 順治

葉田 順治

エレコム 取締役社長

構成・文/小林茂樹
撮影/津島隆雄

週刊BCN 2015年01月19日号 vol.1563掲載

 2013年3月に、東証一部上場を果たしたエレコム。14年3月期には売上高、利益とも過去最高の数字を記録し、周辺機器メーカーのリーダー的存在になりつつある。かつて業界の異端児と称された葉田順治社長も還暦を過ぎたが、意気軒昂なご様子とマシンガントークは以前とまったく変わりない。上場して何が変わったか、そしてこれからのエレコムの目指す場所はどこなのか、久しぶりにじっくりとお話をうかがった。(本紙主幹・奥田喜久男)

2014.12.1/東京・千代田区のエレコム東京支社にて
 
心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
株式会社BCN 会長 奥田喜久男
 
<1000分の第127回(上)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
 

海外事業のターゲットを新興国に絞る

奥田 今、葉田さんが興味をもっておられるのはどんなことでしょうか。例えば、会社関係とそれ以外のトピックをピックアップしてみると……。

葉田 そうですね。まず会社以外の話題だと、なぜ電気自動車を日本の家電メーカーがつくらないのかということです。燃料電池だと大きな投資が必要ですが、電気自動車なら比較的手を出しやすいはず。実は、おととし、シリコンバレーでテスラに乗せてもらったのですが、これがなかなかすごい。なぜ、こういうものにチャレンジしないのかと思います。

奥田 家電メーカーが参入しやすい理由はどんなところに?

葉田 簡単にいえば、モーターやリチウムイオン電池などは、家電メーカーの事業領域に入っていますし、車体は冷蔵庫や洗濯機のプレス技術を応用できます。本家の自動車会社も組立産業ですから、自社でタイヤをつくっているわけではありません。そう考えれば、日本の家電メーカーなら、テスラ並みのものがつくれるのではないかと思います。

奥田 テスラは購入されたのですか。

葉田 会社で買おうと思ったんですが、大人5人、子ども2人乗りの仕様で社用車にできないので、見送りました。ちょっと残念でしたね。

奥田 会社関係では、どんなことが挙げられますか。

葉田 30年近く苦戦してきた海外事業が、ようやく立ち上がりつつあることです。海外でも収益の上がるビジネスモデル、独自のビジネスモデルを開発しないといけないわけですが、残念ながらヨーロッパを中心とした先進国での展開はうまくいきませんでした。それで苦しんだ挙句、ターゲットは新興国だと思い至ったわけです。

 先進国には、エレコムのライバルとなる既存のコンペティターがたくさんいます。その一方、新興国での競争はスクラッチでヨーイドンですから、それだけ可能性が大きいわけです。

奥田 新興国でなら、横一線でスタートを切れるということですね。

葉田 東証一部に上場してから外国人アナリストが、エレコムという会社はひと言でいうと何の会社なんだと聞くんです。つまり、わかりにくいと。それに対して、うちの持ち味はダイバーシティ(多様性)であり、俊敏性だと答えました。もともと私のビジネスモデルというのは、真似されないようにわざとわかりにくくしていますから、よそからみたらわけがわからない。それで新興国に店をつくり、ハイテクもローテクも、周辺機器からスマートフォンケースまで、多様な商品をエレコムワールドとしてドカンと一気に出せば、コンペティターは真似できません。つまり独自のビジネスモデルができて、自社ショップ(エレコムショップ)でまずブランドイメージを高めて、そこから流通させていくということです。それが、今、一つの大きな関心事ですね。

奥田 もう少し具体的に海外事業についてうかがいますが、今、海外の売り上げは何割くらいあるのですか。

葉田 3%か4%ほどですから、まだ全然です。新興国でのパートナーは、30代から40代前半くらいの熱心な若手経営者です。展開エリアは東南アジアと中南米。東南アジアがメインですね。国でいうと、タイ、ベトナム、フィリピン、韓国、シンガポールなどで、インドネシアとマレーシア、それに中国もこれからです。

奥田 海外での事業展開については、ご自身で戦略を立てられたのですか。

葉田 いえ、いろいろな方の話を聞いて勉強しています。私にとっての海外展開の師匠は、良品計画(無印良品)の松井忠三会長とアシックスの尾山基社長。このお二人は本当にすごいです。尾山さんはむちゃくちゃインターナショナルで、日本のことなんか考えていませんね(笑)。それと、松井さんもすごい。無印良品のいわば中興の祖で、自分で海外への出店戦略を立てて、自分で商品コンセプトと経営理念をつくって組み替え、見事復活を果たしたんです。あんな人はちょっとみたことありません。

奥田 「MUJI」は世界ブランドになっていますね。

葉田 個人的には私の趣味とは異なりますが、それをあれだけ売ってしまうのが松井さんのすごいところですね。
 

「周辺機器のアップルストア」を目指せ

奥田 ところで、世界の中で日本の周辺機器は決して強いとはいえません。日本メーカーのシェアがどうしてもっと高くならないのかと思うのですが、それは何が原因で、どこを改善していけばいいと思いますか。

葉田 インターナショナルな製品づくりをしてこなかったことが原因ですね。ハードディスクでもNASでもネットワーク製品でも、海外にはすぐれたコンペティターがいます。国内にはそこそこの需要があるために商売できていた部分があったわけですが、それはしょせん日本でしか売れない製品であって、ビジネスモデルなんです。つまり、そのまま海外に出ても通用しない。シェアがとれないわけです。

 エレコムは、そういうことをほとんどやっていません。自分たちのコアとなるアクセサリや、周辺機器でもニッチなもの、例えばミラキャストとかリッピングCDを海外で展開しています。エレコムは、国内では売場の提案などを通じて大きくなってきた会社です。そのため、海外では単品で勝負することは難しかったわけです。ところが、さまざまな品目をそろえて提案すれば、お客様に選んでいただける。だから、私はアジアや中南米にエレコムショップをつくったんです。

奥田 今はどのくらい出店されているのですか。

葉田 通常店舗から小さな売場まで合わせると世界に25か所ほどあります。香港、ベトナム、シンガポール、フィリピンあたりが主力です。1店舗の規模はスペースで20・50㎡ほど。まだ小規模ですが、今後店数を増やしていく予定です。「周辺機器のアップルストア」を目指せと。

奥田 いいキャッチコピーです。楽しみですね。

葉田 何が起こるかわかりませんが、おもしろいですよ。(つづく)

 

パテックフィリップの腕時計

 いわずと知れたスイスの高級腕時計だが、葉田さんはふだん身につけることは少ないという。無粋にも値段を問うと、「海外出張のときに、値切りまくって買ってきたんです」と煙に巻かれてしまった。

Profile

葉田 順治

(はだ じゅんじ) 1953年10月、三重県生まれ。76年3月、甲南大学経営学部卒業。86年5月、エレコムを設立し、取締役に就任。92年8月、常務取締役。94年6月、専務取締役。94年11月、取締役社長(代表取締役)に就任。現在に至る。趣味は読書、ゴルフ。