もうPC周辺機器メーカーとは呼ばれたくない――第92回

千人回峰(対談連載)

2013/10/18 00:00

竹田 芳浩

竹田 芳浩

ロジクール 代表取締役社長

構成・文/谷口一
撮影/清水タケシ

セールスとマーケティングプランは日本でも考える

奥田 ロジクールさんの製品は、ハイエンドのクラスを狙っておられるということですが、その意図のようなものはあるのでしょうか。

竹田 そうですね。ハイエンドのもののほうが品質のよさを伝えやすいということがあります。例えばマウスにはコードレスのものとコードの付いているものがありますが、コードの付いているものは、ほとんど日本では扱っていません。なぜかというと、コード付きのものは、価格が店頭で500円とか400円で、言い方は悪いですが投げ売りされているものも結構あります。そういう製品は発展途上国でも売っていますが、そこに私どもの製品を置いたら、今まで培ってきたロジクールのブランドというものが、下に引っ張られるのじゃないかという思いもあります。そのあたりの価格の製品を買われる方は、品質へのこだわりが、高額な製品を使う方に比べると少ないのじゃないかと分析しています。ただ一方で、われわれも2年前にやろうとして、結果的に今一つだったなと思うことがありまして……。

奥田 低価格で打って出たということですか。

竹田 コードレスで安いマウスを出したのです。戦略としては、コードレスの高いマウスの品質を下げるのではなくて、コード付きを使っているユーザーに、あと500円とか400円を足してもらえれば、コードレスのエントリーレベルが買えますよという狙いで、下の価格帯の製品の質を引き上げるという考えでやったつもりでしたがね。

奥田 おもしろい戦略ですね。それで、結果は……。

竹田 逆に上のものが下に落ちてきたという状況があって、そこはちょっとわれわれの意図とは違うマーケットの動き方をしたという感がありました。

奥田 そういった商品化とか販売戦略というのは、結構日本でできるものですか。

竹田 セールス&マーケティングプランに関しては日本でかなり自由にできます。

奥田 マーケティングプランのなかで、これは的中したなというのはありますか。

竹田 的中というのか、Bluetoothのスピーカを今もいくつか出していますが、最初に出した2年ほど前は、鳴かず飛ばずの感があったのに、草の根的な活動を続けて、半年間くらいやり続けた後はものすごい角度で売り上げが伸びてきて、販売数が1位になった製品もあります。

奥田 草の根的な活動とは具体的にはどんな手だったのですか。

竹田 家電量販店の店頭にはいろいろな製品が置いてありますので、私どもの製品も埋もれてしまいます。それを少しでも目立つようにしたりだとか、デモンストレーションも、お店の人はやってくれませんので、あまりお金をかけないでやり続けるにはどうしたらいいかとかを考えたり。ほんとうに地道な活動を継続してやってきました。そういった積み重ねですね。

奥田 継続してやり続けるというのがキーポイントなのでしょうね。

竹田 あと、TVカムと呼んでいるのですけど、PCにつなぐものではなくて、テレビにつないで使うカメラがありまして、それは市場自体がほとんどなかったのですが、われわれが1年くらい前に開拓して、市場をつくり上げているところです。現在、すでに意図している数量は売れてはいるのですが、まだまだ5倍、6倍は売りたいと思っています。

軸足をワールドワイドで動かして新たなものをつくる

奥田 さて、PCからスマートデバイスに急速に移行している現在、どう舵を切られるのか、そのあたりのお話を聞かせてください。

竹田 ご承知のとおり、PC周辺機器のマウス、キーボード、ウェブカメラというのが当社の事業の柱になっているのですが、われわれは今、軸足をワールドワイドで動かそうとしていまして、もうPC周辺機器メーカーと呼ばれたくないと思っています。

奥田 そうですか。大きな舵切りだと思いますが、具体的にはどう動いておられますか。

竹田 以前、ミュージック系の製品をつくっているUltimate Ears(アルティメット イヤーズ:UE)というブランドを買収しました。そこはヴァン・ヘイレンというアメリカのハードロックバンドにおられた技術系のディレクターの方が個人でつくった会社なのですが、アメリカでかなりシェアをもっているすばらしい製品を出しています。われわれも日本で展開していたのですが、そのラインアップをかなり増やしました。まずそういった音楽系のものに力を入れていきたいと思っています。また、PCよりもタブレットやスマートフォンが世の中で必要とされていますので、──もちろん、PCのマウス、キーボード、ウェブカメラを軽視するわけではありませんが──スマートデバイスで使えるような、キーボードなどにも力を注いでいきたい。あとゲーマー向けですね。インターネット上でやるゲーム用のマウス、キーボードは結構ハードに使う人が多いのですが、うちの製品はみなさんに高い評価を得ているので、ゲーマー向けのものも力を入れていきたいと思っています。その三つに注力します。

奥田 既存のPC周辺機器プラス三つの柱を拡大していくということですね。

竹田 そうです。さらにもう一つはBtoBです。オフィスで使われるような商売があまりうまくできていない実情があって、そこに向けた製品を順次出していきます。今までのイメージからかなり軸足を動かしながら、新たなものをつくっていこうとしているところです。

奥田 BtoBは今、全体の何%ぐらいですか。

竹田 日本でも世界でもまだ数%です。ただ、OEMビジネスもあり、東芝や富士通のマウスとかキーボードは弊社が入れているものですが、それをBtoBと捉えると、パーセンテージはもっと上がります。その伝統的なものを除くと、今はまだ本当に少ない数字です。逆にいえば、伸びしろがあると捉えていますが……。

奥田 では、全体の売り上げに占める今のシェアと将来のシェアはどうお考えでしょうか。

竹田 構成比ですね。現状はPC系のものが8割以上だと思います。今後もマウス、キーボード、ウェブカメラも伸ばしていきながら売り上げ全体の円を大きくしようと思っています。そのなかで音楽系のものは今よりも5倍、6倍くらいにはしたいですね。スマートデバイス向けも確実に伸ばしていく。ゲーマー向けのものも、すでに高いシェアをとっていますが、この市場はまだまだ伸びますので、年間30%くらいの成長は続けていきたいです。全体の売り上げを伸ばしながら、新しい三つの柱の構成比を伸ばしていこうと考えています。

奥田 しっかりしたものづくり、今後も期待しております。

「結局は、継続してやり続けるというのがキーなのでしょうね。」(奥田)

(文/谷口 一)

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Profile

竹田 芳浩

(たけだ よしひろ)  1968年1月、東京生まれ。91年、立命館大学法学部卒業。トーメン(現豊田通商)で世界各国の海外営業を担当した後、セイコーエプソンに入社。エプソン・インディアを設立し、社長に就任。その後、日本ヒューレット・パッカード に転じてコンシューマ&ウェブソリューション統括本部長などを歴任。2010年4月、ロジクール代表取締役社長に就任。09年3月、東京理科大学大学院で技術経営修士(MOT)取得。