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自助自立の風土で日本ならではの付加価値をつける――第83回

竹下 泰平

NECパーソナルコンピュータ 生産事業部 事業部長 竹下 泰平

構成・文/谷口一

奥田 それはシェアをとっていくうえで、重要な要素になっていきますか。

竹下 私の個人的な意見ですけど、お店では土日に一番変化が起こるわけですから、ここをポイントに生産計画を組み立てています。ですから土日の変化が大きく変わらない限り、現状の1週間サイクルで十分だと今は思っています。

奥田 コンシューマ市場ですとBCNランキングでデータをとっていますから、デイリーで売れ筋の状況がみえます。当日ではなく前日のデータですが。翌日の午前中にはみえているんです。それを提供することはできます。そうすると、それがシェアの変化に影響するかどうかですね。

竹下 可能性はあると思います。

奥田 新商品の発売のあとの2週間は影響があるかもしれませんね。

竹下 どれが売れ筋か見極めるということですね。そういう使い方はありますね。新商品が出た2週間か3週間は、生産のサイクルを短くして……。

奥田 そうすると収益に影響が及ぶかもしれませんね。だいたい3週間くらいですね、新商品の見極めは。

竹下 おっしゃるとおり、3週間から4週間で売れ筋が決まりますね。

奥田 初期の3週間はデイリーで情報をとって、生産計画に反映するというのは、あるかもしれませんね。われわれもデータを提供できればと思っています。それで少しでもメーカーのみなさんが収益を上げていただければというのが、正直な気持ちです。日本のものづくりをそういう形でも応援できればと思っています。

中国の生産力に創意工夫で勝ち抜く

奥田 3日でデリバリというのはすごいですが、どんな創意工夫がありますか。

竹下 米沢では6mほどの短いラインで、3、4人で生産しています。多数の機種を生産しますから、長いラインでは、段取りや部品の入れ替えが追いつきません。小さいラインをいっぱいつくって、いろんな機種をつくるというやり方です。ラインのなかでは、各人の作業が決まっていなくて、横通しでバランスをとりながら、重なって作業します。そうすると、3人の平均のパフォーマンスが出ます。このやり方を「応受援」といっています。

奥田 それは生産技術用語ですか。

竹下 生産の指導を受けているトヨタの生産革新用語です。

奥田 中国の工場でも「応受援」で製品をつくっているのでしょうか。

竹下 私が知る限りはないですね。5年、10年をかけてのスキル習得が必要ですし。

奥田 5年の差だと、人件費も中国に比べてかなり高くなりますね。それは収益面ではマイナスになってきます。それでも、やはり日本でつくるほうがいいのでしょうか。

竹下 絶対的なコストを比較されたら、まったく中国にかないません。ですから、少しでも中国より生産性を上げて、コストを下げる。中国では5人かかるところを1人でやれば、同じことになりますね。それと、中国にはできない改善とか、彼らには気がつかないような不良を見つけるとか、コストが高くても、それに見合うだけの価値をつける。価値があれば、ここでやっていく意義はあります。日本の市場を一番知っているのはわれわれです。ですから、それに合わせた製品もつくれます。もちろん、NECでつくっている製品の品質は、中国でも日本でもレベルの差はありません。よく中国から「これはできません」という話がきます。こちらで現実にものをつくっているわけですから、「つくれないはずはない、なんだったら、うちの技術が行くよ」というと「わかりました。もう一回やってみます」ということになるのです。そこの睨みがきくのも、米沢で製品をつくっているからこそです。

奥田 中国で生産している人たちは、スポーツでいえば、ものづくりという競技の同じ選手ですね。そこで勝つために、中国を意識されているわけですか。

竹下 1年前にレノボと一緒になった時、実際に何もいわれたわけではないのですけれど、この工場はどうなるだろうという不安があって、われわれができることは何だろう、われわれの価値ってなんだろうと、見つめ直しました。そういうなかで、自主的に活動することが、より積極的になりました。一つのラインだけじゃなく、工場全体で底上げしていこうという意識が強く現れてきました。

奥田 レノボの件が危機意識を生んだということは、いいことですね。最後に、少しいじわるな質問ですけれど、全部やめて中国で生産したほうが効率的なのじゃないか、もしくは米沢の頭脳を上海へ移したほうがいいのでは、というデシジョンについてはどうでしょうか。

竹下 相当いじわるな質問ですね(苦笑)。日本市場が求めているものは、短納期と1台からの生産です。それを3日で届けるといった途端に、中国で生産するということはあり得ないことになります。人が中国に異動するということに関しては、生産現場で各自が自立してやるという文化は、中国には根づいていないと思います。いわれてやるのではなく、自分たちでやるという力は、米沢の人には確実にあります。ここは上杉鷹山公の「なせば成る」の土地柄ですし。そういった無形の力があります。非常にまじめですし。

奥田 そこは、米沢人だけの価値ではなく、日本人の価値でもあると、私は感じているのですが……。

竹下 そうかもしれませんね。

奥田 今後、中国の生産力が上がって可処分所得が増えれば工賃も上がり、彼らの現状のアドバンテージはなくなります。そうすると日本人と並びます。少し時間軸は長いですが、そこから日本の生産力が輝かしくなるとみています。だから、今、辛抱して生産を続けてくださいという結論なのです。まじめで自分たちで改善していく能力、それがものをつくり上げていく日本人の価値ではないでしょうか。

竹下 その通りです。そこが大きな価値ですね。

奥田 国民性の価値がクローズアップされるのは、そう遠くないと感じています。

「まじめで自分たちで改善していく能力、それがものをつくり上げていく
日本人の価値ではないでしょうか」(奥田)

(文/谷口 一)

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Profile

竹下 泰平

(たけした たいへい)1963年、福井県生まれ。88年、金沢大学大学院修士課程(機械工学)修了。同年、NEC入社。95年、NEC米国工場に赴任。2003年よりNECパーソナルプロダクツ(現、NECパーソナルコンピュータ)米沢事業場で、主にパソコンの生産技術を担当。07年、生産プロセス技術部長。12年、生産事業部統括マネージャに就き、13年4月1日付で同部事業部長に就任。