中国で成功しなくては、将来はない――第57回

千人回峰(対談連載)

2011/10/27 11:27

小澤 秀樹

キヤノン(中国)有限公司 社長 小澤秀樹

構成・文/谷口一

 「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく…」は、作家井上ひさしの金言。小澤さんが説く営業に関する言葉の数々は、まさにやさしく、ふかい。そしてその根本にあるのは赤く燃える「パッション」。キヤノンの中国ビジネス躍進の秘密は、そのあたりにあるようだ。一石二鳥、いや一石三鳥をも狙う販売ノウハウを熱く語っていただいた。【取材:2011年6月23日 キヤノン(中国)のオフィスにて】

「私が中国へ来た6年前には、ウェートレスもタクシーの運転手もゴルフのキャディも、誰一人としてキヤノンを知りませんでした」と小澤さんは振り返る
 
 「千人回峰」は、比叡山の峰々を千日かけて歩き回り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借しました。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れることで悟りを開きたいと願い、この連載を始めました。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
株式会社BCN 社長 奥田喜久男
 
<1000分の第57回>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
 

中国には100万都市が270余ある

 奥田 今日は、日本の企業経営者の方々に「中国のビジネスって、やっぱり進めなければいかんなぁ」という気持ちをもっていただけるようなお話を期待しています。

 小澤 まだそんな意識をもっていない人がいるってこと自体が信じられないですね。

 奥田 日本にいるとなかなか中国市場の有望性がみえないんですかね。

 小澤 だけど、もう、中国にくると明らかにわかります。中国って、やっぱり活気があるんですよ。私が言っているのは、北京・上海・広州などの大都市だけじゃなくて、どこへ行っても熱気や活気に溢れているということです。今、中国には100万都市が270超もあります。それぞれの100万都市で相変わらず好景気が続いている感じですね。北京・上海・広州というような1級都市だけではなくて、2級3級4級の都市でもそうですよ。この間、お客さんに会いに広東省の東莞(トンガン)へ行ったんですが、あそこは3級都市ですよ。田舎だから大したことないかなと思ってたところ、大したこと大有りで…(笑い)。

 奥田 大したことというのは?

 小澤 その時は2社訪問しましたが、両方とも立派な店をもってますよ。それもチェーン店でそれぞれ20店くらいもってるんですね。ローカルで。

 奥田 ほう、ローカル都市でもそうですか。

 小澤 それぞれの代表店をのぞいてきましたが、東京にもってきてもまったく遜色ありません。立派な店ですよ。店頭装飾なんかも含めて。すごいですよ。

 奥田 その東莞が3級都市……。

 小澤 だから、うちはもう1級2級の都市を攻めるのと同時に、もっと3級4級を攻めろと。今、どんどんそういう地域に入っていますよ。

 奥田 どんなふうにして入っていくのですか。

 小澤 組織を作って、チャネルを構築して、その先のお客様にアプローチしていく。

 奥田 その繰り返しというわけですね。

 小澤 大都市といわれる北京・上海・広州だけでなく、どこの都市へ行っても活気があります。高いビル群と、常にトンカントンカンやっている建築現場。すごいですよ。これはもたもたしていられないぞ!と。中国にはキヤノンを知らないお客様がまだ何億人もいますから。
 

販売会社のオーラが出ていない!

 奥田 そうなんですか。キヤノンを知らない人が多いとは、意外な感じを受けますね。

 小澤 私が中国へ来た6年前には、ウェートレスもタクシーの運転手もゴルフのキャディも、誰一人としてキヤノンを知りませんでした。

 奥田 そういうなかで、キヤノンの知名度や売上高をすごいスピードで上げてこられたのが小澤さん。どこをどう変えられたのでしょうか。

 小澤 広告やPR活動、社会貢献活動、イベントのスポンサーと、いろんなところにキヤノン、キヤノン、キヤノンを露出して認知度を上げる活動をとことんやってきました。それと、もう一つ力を入れたのは、企業風土の改革です。

 奥田 ほう、それは何かきっかけがあったんですか。

 小澤 6年前にここへ来て、会社の雰囲気をパッと見て感じたのは、これはダメだな、ということ。これは販売会社じゃない、モノを売る会社じゃない。そういうオーラが出ていない。日本人社員も、中国人社員も。これはお客様に接して、モノを売ったり、サービスしたりする会社の雰囲気じゃないな、と思ったんですよ。

 奥田 販売会社の雰囲気ではないというのは、どういうことでしょうか。

 小澤 お客様と接する最前線のここがお役所のイメージであるのはまずい。競合には勝たないといけない、お客様に近づいていって、キヤノンのよさを知ってもらい、買ってもらわなくてはいけないわけです。なのに、お役所みたいな感じで、こりゃ勝てない、と。何としても企業風土を変えなきゃいけないと思ったわけです。

 奥田 具体的には、どんな動きをされたのですか。

 小澤 まずは人です。その人が、やる気を高めて目標意識をしっかりともって、情熱的に仕事をこなすことが重要だと考えました。うちの会社は、香港もシンガポールも販売会社なんです。お客様にハード・ソフトをひっくるめて売るという役割を担っています。じゃあ、ここにいる人たちがそういうマインドになっているのかと考えたとき、こりゃダメだなと。挨拶をしないし、感謝の気持ちも現れていなかった。

 奥田 挨拶はビジネスの基本中の基本ですものね。

 小澤 そもそも、挨拶もしないし、感謝もしない人間が販売できるのか。みんな頭ではわかっているんです。でも、行動に出ていない。ここから徹底的に変えてやろうと思いました。私の企業風土改革の原点は「挨拶」と「感謝」にあります。

 奥田 でも、それを行動に移すのは大変だったのではありませんか。

 小澤 皆、頭では理解していても行動に出ないので、これはからだで覚えさせなければダメだと考えました。それからです、毎朝、挨拶運動をやりはじめました。ローテーションで毎朝10人、多いときで30人くらいがチームを組んで、幟を立てたり団扇を手にして、すべての部署を回るんです。「ニーハオ」「ニーハオ」って。それを6年間、ずっとやり続けていますよ。シンガポールに赴任していた頃からだと7年になります。

 奥田 シンガポールは今も?

 小澤 やっています。私の統括するアジアの販売会社はみんなやれと指示していますから。香港もインドもタイも同じです。この挨拶運動は世界的にもないんじゃないですか。だから、中国のテレビ局に2回ほど取材を受けました。この挨拶隊は無礼講だから、重要な会議をやっていようが、お客様とお会いしている最中だろうが、どんどん入ってきてもいいと言っています。

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