日・台の架け橋から、音の文化の守護神へ――第14回

千人回峰(対談連載)

2007/09/25 00:00

韋文彬

韋文彬

日本エム・イー・ティ 社長

タイムドメイン理論でスピーカー開発

 奥田 再び転機を迎えたわけですか。

 韋 私自身、光ディスクには賭けてましたから、ショックは大きかったですよ。いろいろ考えましたが、ITを主戦場としている限り、体力戦に巻き込まれる。それに、台湾と日本を結ぶ架け橋役も、双方の国の企業がそれぞれ独自ルートを構築しつつあり、私の出番は少なくなるだろう、とも思いました。

 そんな時、タイムドメイン理論を知ったのです。

 奥田 タイムドメインですか。どの世界の用語なんですか。

 韋 音楽の世界です。オンキヨーにおられた由井(よしい)啓之さんが考えられたんです。音響の世界ではそれまで周波数理論(フレケンシードメイン)が主流で、アンプにしてもスピーカーにしてもこの理論を基に開発してきたんだそうです。ただ、この理論ですと、原音を忠実に再現するには一台数百万円といったものすごいコストがかかる。そこに由井さんは、時間領域理論、つまりタイムドメインを考えつかれ、これを応用したスピーカーを商品化したんです。商品化に当たっては、西和彦さんがアスキー総合研究所(現・アスキー未来研究所)のオーディオ・ラボ所長に招聘して協力したそうです。由井さんは、1997年にタイムドメイン社を設立、2000年6月にYoshi9を発売しました。

 私も、奈良の高山サイエンスプラザまで聞きに行きましたが、音の素晴らしさに感動しました。

音楽の文化を後退させてはいけない

 奥田 韋さんは音楽愛好家だったんですか。

 韋 ジャズが好きで、ギターは自分でも弾きます。そうした私から見て、技術の進歩は、こと音楽に関しては逆行しているなとしか思えませんでした。メディアは、LP、CD、DVDと進化してきました。その過程で、通信が入ってくることによって、MP3などの圧縮技術も発達したわけです。でも、圧縮というのは、間引くことなんですよ。間引けば、原音とは違ってくる。技術の進歩が、音楽文化を後退させている、何とかしないといけないという思いは、光ディスクに夢中になっている時にも感じていました。光ディスクというのはインプットデバイスですが、アウトプットデバイスも重要だなと思っていたんです。

 奥田 そこにタイムドメイン理論を知り、スピーカーをやろうと思ったわけですか。

 韋 そういうことです。タイムドメイン社のYoshi9は31万5000円です。これを10分の1の価格で作れないかと考えたんです。私の考えに共鳴してくれたのが、ある精密機器メーカーにいた栗田真二さんで、当社に来てもらい、技術開発部マネージャーとして実際の開発を行ってもらいました。彼が3年間の苦闘の末開発したのがボザール(BauXar)マーティ(Marty)101で、2005年の年末に発売にこぎ着けました。価格は2万8000円です。

 当社のWebサイトには、http://www.met.co.jp/で入ることができます。タイムドメイン理論の紹介なども行っていますので、是非一度訪ねてください。

 奥田 本当に波乱に富んだ人生ですね。これからも頑張ってください。

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Profile

韋文彬

(い ぶんひん)  1949(昭和24)年、台湾新竹に生まれる。高校は日本、大学はアメリカで学び、74年、工学院大学大学院修士課程卒業。76年パターン認識のコンサルタントを行うデジタル工業設立。81年日本MET(エム・イー・ティ)設立、台湾の工業技術研究院、電子工業研究所の技術顧問に。88年イメージファイルの開発でリコーと共同研究、95年光ディスクの製造でMETテック設立。05年タイムドメイン理論に基づくスピーカー「ボザール(BauXar)マーティ(Marty)101」を発売。