文化の根幹をなすのは「知の共有」だ――第4回【前編】

千人回峰(対談連載)

2007/02/05 00:00

富田倫生

富田倫生

青空文庫 創始者

リンク先では当人が発言している

 奥田 当時のエキスパンドブックって、マッキントッシュでしか動作しなかったんじゃない?

 富田 そうなんです。NECのことを書いていながら、マックでしか動かない。マイクロソフトの古川さんから、「ウィンドウズ版は?」と言われたのを良く覚えています。

 それでハイブリッド化にかかったんですが、当時はもう一方で、インターネットが急速に普及し始めていました。エキスパンドブックにも、リンクの機能が付いて、ウェッブページを開けるようになった。これだ!と思い、該当するところにはどんどんリンクを貼りました。コンピュータ業界にいる人たちですから、インターネットへの関心も高く、自分のキャリアを知ってもらいたいという意識もあって、リンク先はいっぱいあったんですね。

 とまあ、ここまで「パソコン創世記」の作り直しをやって、それなりの達成感はありました。ただもう一方で、物書きってなんだろうという疑問というか、挫折感のようなものが、作業を終わった直後から生じてきたんです。

 奥田 挫折感ってどういうこと?

 富田 リンク先には充実したところもあれば、簡単なものもありましたが、とにかく当事者が発言している。ライターである私は、世界を全部見てきたような顔で書いていますが、実際にやっているのは、聞き書きと資料からの推測です。これからはインターネットで、当事者が自分を語る時代がくる、そうなった時のジャーナリストってなんだろう、どこに存在価値があるんだろうと、そんなことを考えるようになりました。

「青空文庫」にのめり込む

 奥田 それで青空文庫になるわけ?

 富田 自分自身に何か語るべきものがあるかと考えたとき、唯一候補になりそうなのは、本とインターネットが結び付くところなのかなと。

 奥田 ジャーナリストは傍観者だけど、電子図書館なら当事者になれると?

 富田 ええ、まあそんなところかな。後からの理屈づけかもしれませんけれど。コンピュータの本質的な強みの一つは、複製にあると思います。ほとんどコストゼロでコピーが取れる。コンテンツを売る人にとっては、プロテクトをかけてもかけても破られる、地獄の世界でしょう。でも、モノは売らないと割り切れれば、コピー地獄はたちどころにコピー天国に変わる。今後、この分野では電子出版業と電子図書館が伸びていくだろうけれど、ダイナミックに発展するのは、どんどんコピーしてくれと言える電子図書館だろう。著作権切れを中心にそうしたものが育っていくだろうと思いました。

 ただ最初は、自分たちがそこでなにか役割を果たすといった意識はなかった。97年の春、電子本を通じて知り合った友人と相談して、取りあえずファイルをいくつか置いて、ヒマを見ては増やしていこうよ、というレベルでのスタートでした。 (つづく)

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Profile

富田倫生

(とみた みちお)  広島市生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。編集プロダクション勤務を経て、ライターに。ノンフィクションのさまざまな分野を取材対象としてきたが、次第にパーソナルコンピュータの比重が高まる。ボイジャーのエキスパンドブックを見て電子出版の可能性を本気で信じ込むようになり、「パソコン創世記」と名付けたタイトルを、コンピュータで読むことを前提に制作。このブック上の記述を、インターネット上のさまざまなホームページにリンクさせていくという作業を体験してからは、電子本への確信をさらに深めている。  著書に、「パソコン創世記」(旺文社文庫、TBSブリタニカ)、「宇宙回廊 日本の挑戦」(旺文社)、「電脳王 日電の行方」(ソフトバンク)、「青空のリスタート」(ソフトバンク)、「本の未来」(アスキー)がある。