カメラ生き残りのヒントは「チェキ」に学べ

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2022/07/24 19:00

 コンパクトデジカメに久々の大ヒット商品が誕生した。富士フイルムの「instax mini Evo」だ。昨年12月3日の発売直後から人気が沸騰。「当初計画の2倍以上売れている」(富士フイルムの後藤禎一 代表取締役社長・CEO)状態だ。このため12月、コンパクトデジカメで富士フイルムのメーカーシェアを26.8%まで押し上げ、一気にトップに躍り出た。機種別シェアでも14.9%とダントツ。翌1月はメーカーシェアこそソニーにトップを譲ったものの、機種別では13.8%でトップシェアを維持した。


 instax mini Evoはインスタントカメラとデジカメを融合させたハイブリッドカメラ。同社が1998年から連綿と販売し続けてきたインスタントカメラ「チェキ」にデジカメの良さを組み合わせた。デジカメとしての機能に加え、その場でプリントできる楽しさや手軽さを追求。シリーズで採用している、有機ELでフィルムを露光させてプリントするシステムも特徴のひとつだ。従来のアナログチェキ用フィルムがそのまま利用できる。

 クラシックカメラをイメージさせるレトロなデザインも目を引くinstax mini Evo。大ヒットの理由について、富士フイルムのイメージングソリューション事業部、高井隆一郎 統括マネージャーは「あえてアナログ感を演出した。レンズを回したりダイヤルを回したり、プリントする際にレバーを回したりというステップを増やした。使う面白さを入れ込んだ」ことが奏功したと話す。さらに「今までのチェキの中でも、ものすごく画づくりにこだわった。これまでにない、スマートフォン(スマホ)ユーザーを意識したエフェクトを100通り内蔵した点も受けた」と分析する。
 
富士フイルムの「instax mini Evo」

 ところが、あまりの人気に折からの半導体不足なども加わり生産が追い付かず、2月以降は販売が失速。品薄状態が続いている。富士フイルムのイメージングソリューション事業部、河野通治 副事業部長は「現在、増産体制を強化しており状況はかなり改善してきた。しかし店頭では、まだお待たせする状況が続いている。来年3月ごろまでには、品薄状況をなんとか解消できるのではないかと見立てている」と話す。足元ではinstax mini Evoの販売台数が戻ってきたこともあり、コンパクトデジカメのメーカーシェアも徐々に回復。この6月には19.7%のシェアを獲得し再び首位の座を奪還した。しかし2位ソニーとは、わずか0.3ポイント差の大接戦を繰り広げている。
 
スマホでもデジカメでもない唯一無二の製品を目指したと語る、
富士フイルムのイメージングソリューション事業部、高井隆一郎 統括マネージャー

 普段、写真撮影に使う機器といえば、現代ではまずスマホだ。誰もが持ち歩き、十分きれいな写真が撮れるばかりでなく、動画撮影も問題なくカバーする。おかげでカメラ市場は縮小の一途をたどっている。スマホに対抗するには、スマホにはない決定的な特徴が必要だ。instax mini Evoは、いろいろと操作も面倒でボディサイズも大きく邪魔だ。しかし何といっても紙のプリントがその場で出てくる。使う楽しみも味わえる。その存在感の大きさゆえ、被写体と一緒になって写真を撮る・撮られるという行為そのものも楽しめる。「スマホでもデジカメでもできない唯一無二の製品をつくろう、という製品企画が狙い通り刺さった」と話す高井 統括マネージャー。この言葉にカメラが生き残るためのヒントがある。(BCN・道越一郎)