キヤノンは12月20日、カラビナ風新感覚デジタルカメラ「iNSPiC REC」の一般販売を日本でも開始した。先行して出資を募っていたクラウドファンディングサイト「Makuake(マクアケ)」で頼んでいた分が、しっかり発売日前に届いたので、早速ファーストインプレッションとテスト撮影の結果をまとめた。一体どんなカメラなのか。明らかにする。

 保守的な大企業というイメージが強いキヤノンだが、この製品は「攻めている」。最大の特徴は「ディスプレイがない」ということだ。

 数年前、あるカメラメーカーの重鎮に「ディスプレイなしの本体にすればだいぶ薄くなるのでは」聞くと、答えは「今の時代、ディスプレイがないカメラをつくったら殺されます」だった。それを外した。写す範囲は本体の「枠=ファインダー」を覗いて判断する。「写ルンです」方式だ。当然、本体だけでは撮影した画像を確認することすらできない。
 
キヤノンの「攻めた」新感覚デジカメ「iNSPiC REC」

 結果的に撮影に集中できるので、これはこれで面白い。撮影が終わってから、スマートフォン(スマホ)やPCでまとめて結果を確認する。「ちゃんと撮れてるかな……」ちょっとしたワクワク感も楽しめる。

 はっきり言ってカメラとしてのスペックは低い。一般的なスマホにも及ばないレベルだ。しかし、これまでのカメラとは全く違うノリがある。まず、これをリリースしたキヤノンの勇気に大いなる拍手を送りたい。さて、このカメラ。どこまで受け入れられるのか。

 iNSPiC RECは2017年、米キヤノンが主導して企画を立ち上げた。18年の初頭に最初のモックアップを作成。6月にYouTuberがカリフォルニアのアナハイムに集結する動画の祭典「VidCon」でプロトタイプテストを実施。今年の2月に横浜のCP+でプロトタイプを一般公開した。

 7月11日に米クラウドファンディングサイトindiegogoに「IVY REC」という名称で出品。わずか数時間で目標の100台を達成し、数日で522台を完売した。10月17日、マクアケで1000台に限り出資の募集を開始。これもあっという間に完売した。

 価格はフェイスジャケット3枚付きで税込み1万4850円。今回一般向けに発売したダイレクトショップ価格が1万5180円。フェイスジャケット3枚セットが2178円なので、マクアケでゲットした人たちは少しだけお得だった。
 
「iNSPiC REC」からフェイスジャケットを外して、着せ替えジャケットを並べた。

 防水で耐衝撃性も備える。microSDカード込みで実測91gと軽量で手のひらにすっぽり収まるサイズ感。持ってみると質感は良く、意外にも適度にズッシリしており、トイカメラのようなチャチな感じはない。枠がカラビナ風の構造になっているのも面白い。ズボンのベルト通しやカバンの手提げに引っかけたりして持ち歩くともできる。

 今や、写真といえばスマホで撮るのが一般的だが、取り出して認証してカメラを立ち上げてという面倒な手順をすっ飛ばして、とっさの時にもさっと撮れる。スマホですら撮影を躊躇するような豪雨の中でも、平気で撮れる。スマホよりさらに下。とにかく常に持ち歩けるカメラ、使い倒すカメラ、という位置づけだ。
 
右肩にあるシャッターボタン。少々重いが、場所が絶妙でぶれにくい設計

 表面にはレンズとロゴのみ。ロゴが記された部分は、プレートになっていて交換できる。「フェイスジャケット」という名称だ。着せ替えるとだいぶ印象が変わる。

 背面はモードダイヤルとスピーカー、パイロットランプ、リセット穴のみ。シャッターボタンは他のカメラと同様に右肩にある。押した感じはやや重い。ぶれやすいのではと心配したが、ボタン配置が絶妙で、落ち着いて押せば手ぶれはだいぶ軽減できそうだ。写真モードでは手ぶれ補正機能はない。いい加減に押すとぶれやすいのは変わりない。

 レンズは35mmフィルムカメラ換算で25.4mm。かなりの広角だ。写る範囲は、枠を覗いて見たよりさらに広めに写る印象だ。ISO感度はオートで100~3200。絞り値は2.2固定。

 シャッタースピードは非公開だが、テスト撮影時のEXIFデータによると、1/15秒~1/800秒の範囲で変動した。ISOとシャッタースピードを組み合わせて、完全オートで露出をコントロールする仕組みだ。ピントも固定。50cm以遠にピントが合う。いわゆるパンフォーカスカメラだ。
 
裏面にはモード切替ボタンはあるが、ディスプレイはない。カラビナ風の構造でとこかにひっかけて持ち歩ける

 撮像素子は、1/3インチ・1300万画素のCMOSセンサー。大多数のコンパクトデジカメの1/2.3インチよりもサイズが小さく、画質はあまり期待できない。PCのモニタで等倍にして画像を確認すると、お世辞にもきれいとは言えない。

 しかし、スマホやタブレット端末で見る程度なら、ギリギリ普通の画質は確保できている。晴天の屋外など、いい条件であれば、まずまずの画質は期待できるだろう。実際の画質は、この記事の最後につけた作例をみて判断していただきたい。「BCN+R」上で写真をクリックすると、オリジナルの画像が確認できる。

 カメラとしての不満は少なくない。一番はシャッターのタイムラグだ。シャッターを押し実際にシャッターが切れるまで、ワンテンポ遅い。押して離すタイミングでシャッターが切れる感覚だ。これはいただけない。

 ここ、というところで押しても間に合わない。ぜひとも改善して欲しいポイントだ。せっかくスマホとは違う撮影機材としての位置づけであるのだから、せめてスマホよりは速くシャッターが切れてほしい。

 また、スマホとの接続がスムーズではない。最初にペアリングし接続を確認して、後に再度つなごうとしても、つながらないことが多かった。周囲のWiFi環境や機器の相性問題もあろうが、このあたりは徹底的なブラッシュアップが必要だろう。
 
不満も少なくないカメラだが、一切肩はこらない

 バッテリの持ちも悪い。スペック上では、CIPAガイドライン準拠で静止画撮影可能枚数が約1000枚とある。感覚的にはこれに及ばない。朝、満充電で出かけ、スイッチをオンのまま放置。3分するとスイッチが切れる設定だ。

 ところどころ撮影しながら歩き、時々スマホで画像確認、という使い方で、150枚しか撮れなかった。フィルムカメラのスタイルだから、フィルムカメラ同様、バッテリを気にせず「押せばすぐに撮れる」スタイルを目指してほしい。

 これ一つ持って街を歩きながら気になったものをパシャパシャ撮ってみた。一切肩がこらない。肉体的、というより精神的に。まったく気軽で気負いゼロ。身軽な街歩きがなんとすがすがしいことか。そんな思いを強くした。最後に一言添えるなら、このカメラは「楽しい」。(BCN・道越一郎)
 
あいにくの曇天、中野駅ホームから
(iNSPiC REC ISO=100 SS=1/240 f/2.2 写真をクリックするとオリジナル画像をご覧いただけます)
 
朝の神田西口商店街入り口
(iNSPiC REC ISO=100 SS=1/120 f/2.2 写真をクリックするとオリジナル画像をご覧いただけます)
 
居酒屋の赤提灯。魚とあるのはあまりみかけない
(iNSPiC REC ISO=500 SS=1/240 f/2.2 写真をクリックするとオリジナル画像をご覧いただけます)
 
とあるホテルのエントランス。今気付いたけど生花じゃないかも
(iNSPiC REC ISO=320 SS=1/120 f/2.2 写真をクリックするとオリジナル画像をご覧いただけます)
 
移動弁当販売店はオフィスの街のオアシス
(iNSPiC REC ISO=200 SS=1/120 f/2.2 写真をクリックするとオリジナル画像をご覧いただけます)
 
コンクリートと椅子とテーブルと。モノクロ風カラー撮影
(iNSPiC REC ISO=320 SS=1/120 f/2.2 写真をクリックするとオリジナル画像をご覧いただけます)
 
東京の人は歩く速度が速い
(iNSPiC REC ISO=500 SS=1/60 f/2.2 写真をクリックするとオリジナル画像をご覧いただけます)
 
幾何学模様のクリスマスツリー
(iNSPiC REC ISO=320 SS=1/120 f/2.2 写真をクリックするとオリジナル画像をご覧いただけます)
 
花屋の店先にて
(iNSPiC REC ISO=640 SS=1/60 f/2.2 写真をクリックするとオリジナル画像をご覧いただけます)
 
正面に回ったら、像の下にでっかく「愛」と記されていた
(iNSPiC REC ISO=100 SS=1/120 f/2.2 写真をクリックするとオリジナル画像をご覧いただけます)
 
夕暮れの冬、東京駅
(iNSPiC REC ISO=100 SS=1/120 f/2.2 写真をクリックするとオリジナル画像をご覧いただけます)