未来は補聴器とともに 超福祉展の対談企画にオーティコン木下プレジデントが登場

イベント

2017/11/10 12:30

補聴器はオシャレ 須藤氏の体験をきっかけに対談が実現

 後半の対談パートでは、まず「可愛い・かっこいい・ヤバい」という超福祉展のコンセプトと「Opn」が目指す補聴器の新しいイメージの近似性を須藤氏が指摘。須藤氏は12年にNPO法人ピープルデザイン研究所を立ち上げ、さまざまなマイノリティをクリエイティブに解決していくことを目的に活動を行っている。主催する「超福祉展」もその一環だ。

 今回の対談が実現したきっかけは、須藤氏の友人という補聴器ユーザーの存在がある。「ダンサーをやっている友人なのだが、補聴器をデコレーションしてオシャレの一部にしていた。初めて見たときは、補聴器というより前に『かっこいい』という印象を抱いた」。その友人が使用していたのが、オーティコンの補聴器だった。
 

NPO法人ピープルデザイン研究所の須藤シンジ代表理事

 須藤氏の母親はかつて補聴器を使用していたが、効果が薄く、逆にそれが原因で人前に出るのを嫌がるようになってしまったという。当時、装着していた補聴器はまだ一方向だけを指向したもので、大勢の中で声をはっきりと認識することができず、ショックを受けてしまったそうだ。

 これは木下プレジデントがセッションの前半で語った「補聴器ユーザーにとって最も困難な状況」にあたる。即ち、四方に人がいて一方向の音だけに注意を向けることが難しいシーンだ。

 そういった経緯もあり、須藤氏は「『Opn』の全方位の音を聴き分ける技術を待ち望んでいた人は多いはずだ」と、その価値への理解を木下プレジデントに伝えた。
 

大勢が集まる場で従来の補聴器は一方向からしか集音できなかった。
「Opn」は全方向を指向することで、音だけでなく世界の見え方そのものを変えた

 須藤氏は「IFTTT」との連携にも感嘆した様子で、「かつて眼鏡は牛乳瓶の底のようなものしかなくかっこ悪かったが、今ではオシャレなアイテムに様変わりしている。補聴器もそれと同じようにかっこいいアイテムになるのではないか」と感想を語った。

 「オシャレとして受け入れられることで、高齢者の方がもっとアクティブになれば」と木下プレジデントもその意見に共感。「話をしなくても安否を確認できるなど身近なメリットを実感してもらえれば、IoTに対する敷居の高さも解消されるはずだ」とコメントした。
 

対談中の会場の様子

補聴器は認知症対策にも有効? 最新の研究で検証進む

 対談では、認知症の予防策としての補聴器にも話題が及んだ。15年に厚生省が発表した認知症施策推進総合戦略、通称・新オレンジプランには認知症の危険因子に「難聴」が挙がった。実際に聴こえにくいことが認知症を引き起こす原因になっているのではないかという研究は近年進んでいる。

 木下プレジデントは「聴こえないことで脳の聴覚野の機能が低下し、それをフォローしようと脳の他の部分が補完する。それが脳全体の疲労につながり、最終的に認知症を引き起こすのではないか」という仮説を紹介。25dBの聴こえの違いで認知症の発症が7年遅れるという調査結果もあるという。

 いよいよ補聴器は利便性という面でも、健康志向という面でも有効だということが証明されつつある一方で、須藤氏から高価であることがいまだにハードルとして残っているという問題提起もあった。一般的な補聴器の価格は20万~90万円と、低いレンジでも値が張る。地方自治体によっては保険が適用される場合もあるが、日本は世界的にみても、保険適用のハードルが高い国に分類されるそうだ。

 木下プレジデントは「保険が適用されるのは重度の障がいをもつ方だけで、およそ8割は全額を自己負担」と現状を説明。さらに「Opn」のようなハイスペックのものはそもそも保険の適用外なのだという。

 補聴器が秘める将来への可能性と健康への作用、そして課題に対する活発な議論が交わされた対談は、「より手軽に補聴器の力に頼ることができる社会」という目指すべきビジョンを浮かび上がらせて終了となった。
 

対談後のNPO法人ピープルデザイン研究所の須藤シンジ代表理事(左)とオーティコンの木下聡プレジデント(右)

 実は今回のセッション中にも、バリアフリーの仕掛けがあった。須藤氏の隣に設置されたモニタ。これは聴覚に障がいのある人が視覚で内容を理解できるよう、話者の発言をモニタに表示する「LiveTalk」という技術だ。音声認識と翻訳・テキスト変換を複合したダイバーシティ・コミュニケーションツールとして富士通が開発した。
 

富士通が開発した「LiveTalk」で発言内容をモニタに表示

 また、オーティコンは会場入口に健聴者でも「Opn」による聴こえの改善を体感できるVRコーナーを設置。視界の外の音が聴こえないといかに不安な気持ちになるか、また聴こえることがどれだけの安心をもたらしてくれるのか知ることができるコンテンツで、来場者に補聴器に対する理解を促していた。
 

会場入口のオーティコン展示ブース

 11月11日にはサテライト会場のケアコミュニティ原宿の丘で開催している「超福祉の学校」で親子で楽しみながら補聴器や認知症に対する知識を学ぶイベントも開催予定だ。(BCN・大蔵 大輔)

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