映画の1シーンのようなスローモーション映像を気軽に撮ることができる――そんなデジカメが、カシオ計算機の「EXILIM PRO EX-F1」。最高で毎秒1200コマ(1200fps)のハイスピード動画撮影が可能なデジカメだ。3月の発売から4か月が過ぎ、一般の人々が撮ったハイスピード撮影の動画が徐々に「YouTube」などにもアップされはじめている。以前から気になっていた製品でもあり、趣味として活動しているビデオジョッキー(VJ)としての創作意欲が刺激されたので、今回はVJ用の素材撮影という観点からこのカメラを使い、作品をつくってみた。

●職場が普段と違う世界になった「EX-F1」のハイスピード動画

 まずVJとは、「ビデオジョッキー」もしくは「ビジュアルジョッキー」の略語でラジオなどのDJの映像版といったところ。筆者の場合は仕事の傍ら、2-3か月に1度ほどのペースでイベントに参加し、クラブやライブで音楽にあわせた映像を流している。以前は月に1度の割合で活動していたのだが、最近はなかなか忙しく、ペースダウンしているのが悩みのタネだ。


 VJが映像をつくる手法は、CGや実写、プログラミングと様々だが、今回は「EX-F1」の特徴を最大限に生かすべく、実写と編集でやってみることにした。なお、撮影した動画はすべてアドビシステムズの「After Effects CS3 Professional(AE)」で編集後、デジタルステージの「motion dive.Tokyo(md)」を使用して出力し、それをキャプチャリングしている。

 さて、いよいよ「EX-F1」の出番だ。実際手にとってみると、小型の一眼レフという感じだ。どっしりとしていて持ちやすく、構えるときに非常に楽だった。常に持ち歩くには少し大きいが、電池のもちは非常に良い。約3日間、電源のon/offを繰り返しながら、合計で20分ほどの動画を撮ったが、その間は1度も充電しなかった。撮り方にもよると思うが1泊2日ぐらいの旅行で撮影するぐらいなら充電せずに使えそうだ。

 手始めに、毎秒1200コマの高速モードで職場にある自分の机を撮ってみる。少々汚いがこれが想像以上に面白かった。かなり適当にまわしたつもりだったが、普段とはまったく違った世界が見える。ただ、シャッタースピードが高速だからだろうが、蛍光灯の下だとフリッカー(ちらつき)が起こる。この点は注意しなければならない。

■: 机動画 1200fps、無加工


 第一印象で素晴らしいと感じた反面、不満だったのが映像が暗いという点。毎秒1200コマも撮るわけだから、シャッタースピードは少なくとも1200分の1秒以下。当然、普通のオフィスでは十分な光量を得られない。光を増やそうと思っても先述のフリッカーが起きてしまうために蛍光灯はだめ。屋内で明るい映像を撮影するのはなかなか難しそうだ。

●暑さにやられた撮影初日

 ということで屋外での撮影に切り替えた。天気にも恵まれ、光量は十分だ。縁起を担ぐわけではないが、まず神社に向かう。道すがらいろいろと動画を撮ったのだが、ここでひとつ発見。なんと手ぶれがまったく起きない。高速度撮影でのシャッタースピードの速さが幸いしたようだ。そのため、1コマ1コマがクリアに撮影できた。

 さて、本題に戻ろう。神社ということで緑が多かったため、スーパーマクロモードで木々の葉を撮ってみた。マクロで動画を撮るときも手ぶれが気になるものだが、今回はまったく問題ない。そのおかげもあり、我ながら神秘的な映像が撮れたので、よりファンタジックに仕上げるため、「AE」の出番。同じ動画を2枚重ねて上のレイヤーをぼかし、透明度を下げることでソフトフォーカス的な効果を与えてみた。

■:ハッパ動画 300fps、時間のみカット


■:完成ハッパ動画 加工後


 これで気を良くしたので、神社の地面に這いつくばって蟻を撮影。はたから見るとかなり怪しげな格好だったろう。なかなかいい動きをしてくれなかったが、普段ゆっくりと見ることができない蟻の動作をじっくり撮影できたのでよしとする。

■:蟻動画 300fps、時間のみカット


 ここで気温が上がって外がつらくなったため一時帰宅。ベランダに撮影場所を移す。ミルククラウンのイメージから水の表情がずいぶんと変わることが予想できたので手すりから水を垂らしてみる。すると、水滴のひとつひとつが通常では考えられないくらいの粘度をもち、生き物へと豹変。これに満足したため、この日の撮影はここで終了した。

■:水玉加工動画 300fps、時間のカット、トリミングとレベルの調整


●エアガン片手に撮影2日目

 2日目は車で出かけることにした。とりあえず近所の風景を車窓から撮る。すると――おお! 人が止まって見える! VJ用の素材としては使いづらいかもしれないが、面白いのでここに掲載。

■:街動画 600fps、時間のみカット


 そしてやはり欲しいのが、映画のような決定的瞬間。とりあえず公園で新聞紙を広げ、その上に置いた電球をエアガンで割ってみた。警察に通報されないか不安だったものの、想像以上の迫力あるシーンが撮れた。

■:球割れる動画 300fps、トリミング、時間カット、レベル調整


 ただ、撮れたはいいがVJ的な素材に仕上げるアイディアが出ない・・・しかし、電球の破片が飛び散る様子が見事であったため、落ち葉を集めて上からエアガンで撃ったりして、いくつか動画を撮影。それをつなげて仕上げたものが上、少し派手な色合いも欲しかったのでAEでかなり加工したものが下だ。

■:木の葉動画 300fps、時間カット及びレベル調整


■:木の葉加工後動画 300fps、輪郭検出、反転、ブラー(ガウス)+覆い焼き、ミラー


 と、ここで雨が降ってきたため、屋外での撮影をあきらめるはめに。また、雨雲のせいでだいぶ暗くなったので、それならばと炎を使ってみる。部屋に戻ると、固形燃料、ドライフラワーが目に付いたので、順番に燃やしてみた映像がこれ。

■:固形燃料 300fps、トリミング、透明度調整によるループ化


■:花燃え動画 300fps、トリミング、透明度調整によるループ化


 炎の揺らめきが非常に滑らかで驚いた。たまに炎が生き物のように見えることがあるが、このカメラではよりその印象が強くなる。暗闇と炎のコントラストに、くねくねとした動きが妖艶な美しさを醸し出している。続いて、去年買った花火に着火。2種類の花火を、焦点を変えながら、撮影してみた。

■:至近距離花火 300fps、複数色の花火、時間カットのみ


■:弾け花火 300fps、単色の花火、同じ動画を上下反転させ、色範囲による背景除去、時間カット


 すぐに思いつくアイディアはこんなところだろうか。撮影に関してはある程度満足できたので作成した動画を早速「md」に読み込んでみる。

■:最終動画


 今回、撮影した動画はひとつひとつは面白いのだが、いかんせん数が少ないため、正直なところVJ素材として役に立つかどうか不安だった。しかし「md」のテキストプラグインを使うことでどうにかそれらしくなってくれた。このテキストプラグインは実際にクラブイベントなどでロゴを用意できない際には非常に役立つ機能でかなり使える。今回も重要な役割を果たしてくれたといえるだろう。

 なお、VJと称すからには、このレビューで作成した動画には、音楽も付けておくべき。しかし、著作権の問題があるため音楽はご容赦願い、是非とも鑑賞時にいろいろな音楽を聴きながらご覧いただければと思う。PCのパワー不足のため、動画に激しいコマ落ちが出たのも悔やまれるところだ。

 VJや動画の制作を始めることは決して敷居が低いとはいえないが、「EX-F1」は、アイディア次第で十分作品として成り立つものが撮れる。また、「YouTube」や「ニコニコ動画」など自分の手でつくったものを気軽に発表できるようになり、Webでの作品公開という環境もずいぶんと整ってきている。このレビューを読んでくれた方が一人でも多く映像の世界に足を踏み入れてくれれば幸いだ。(BCN・鼓金時 つつみきんとき)