リコーは9月13日、プロ仕様のコンパクトデジカメ「GR DIGITAL」を10月21日に発売すると発表した。昨年9月にドイツ・ケルン市で開かれた世界最大の映像機器展示会「photokina2004」で、「デジタル版GR1」の今秋発表が予告されていただけに、かつて銀塩の「GR1」に魅せられたカメラ愛好家の間では、GR1がいったいどんなデジタルカメラに生まれ変わるのかと、その発表が待望されていた。当日は、記者発表とは別に、ブログで募集した一般ユーザーに向けてもスペシャル発表会も行われた。その模様をレポートする。

●集まったのはフツーの人たち。でも手にしたカメラは…

 9月13日午後6時、東京・有楽町の東京国際フォーラムに、「GR DIGITAL」の発表を待ちこがれていたファンおよそ100名が集まった。彼らは、デジタル版GRのためのリコー公式ブログ「GR BLOG」でのみ告知・募集されたイベントへの参加資格をもつ、応募総数1000名を超える抽選に当たった幸運な人たちだ。


受付に並ぶ発表会参加の皆さん

 筆者は、銀塩GR1がプロやハイエンドアマチュア向けのカメラだっただけに、そのデジタル版に期待を寄せる者も、ある程度年齢の高いカメラ愛好家がほとんどなのではと思っていた。しかし実際に集まった人たちは、大学生ふうの男性や若い女性がかなり多く、とても趣味性の高いカメラを愛好する人たちの集まりとは思えなかった。


会場ロビーには、A3サイズで出力された「GR DIGITAL」の作例写真を展示(左)

 ただ、イベント参加資格として、「カメラボディに『G』または『R』のロゴがあるカメラを持っている人。フィルム、デジタル、メーカーは不問」という条件が課せられていたため、それぞれが手にしているカメラは、なかなかマニアックなものが多く、さすが伝説の銀塩コンパクトカメラ「GR1」の名を継ぐデジカメの発表会だけのことはあるな、と改めて思わされた。

●スペシャルゲストとして、リコー愛好家で写真家の田中長徳氏が登場

 発表会場は、前方に大型スクリーン、その両脇には「GR DIGITAL」のマークを配したパネルが立つレイアウト。ステージに向かって左端に、白いベールに隠された「GR DIGITAL」が置かれていた。会場後方には、リコーデジタルカメラ10年の変遷や、銀塩GR1シリーズ、それに、「GR DIGITAL」の開発過程がわかるモックアップやプロトタイプなどが展示されていた。

 発表会はまず、リコーのパーソナルマルチメディアカンパニー・湯浅一弘ICS事業部長兼販売室室長による「GR DIGITAL」開発の経緯と、その特徴についての解説からスタートした。湯浅氏に続いてステージに上がったのは、リコーカメラといえば誰を置いてもこの人、というくらい有名なリコーユーザーの写真家、田中長徳氏。実は、湯浅氏は記者発表でも登場したが、長徳氏のトークショーは、一般ユーザー向け発表会だけのスペシャルプログラム。マスコミより一般ユーザーのほうが厚遇されていたのかもしれない。


「GR DIGITAL」開発トップである湯浅一弘氏

●「GR DIGITAL」は世界の果てまで連れて行きたくなるカメラ

 リコーとは長い付き合いという田中長徳氏にも、この「GR DIGITAL」の正体はずっと秘密だったらしく、実際に手に取ったのは発表会が始まる1時間ほど前、ということだった。そのため、詳細なインプレッションまで踏み込むことはできなかったが、長徳氏は、まず第一印象として、グリップ部分のラバーコーティングを絶賛した。

 銀塩GR1の開発時に、長徳氏はラバーグリップにすることを主張したのだそうだが、部材調達の関係で間に合わず、結局実現しなかった。それがようやく、「GR DIGITAL」で10年越しの希望がかなったわけで、「指先に吸いつくようなこのグリップの感触はすばらしい。これならホールディング性もバッチリ」と大喜び。そして、圧倒的高画質とコンパクト性を両立した「GR DIGITAL」の登場で、「ポケットに突っ込んで、世界の果てまで連れて行きたくなるカメラをようやく手に入れた」と評した。

 田中長徳氏はまた、熱心なライカユーザーとしても有名だが、イベントでは、自著『さらば、ライカ』を5名の来場者にプレゼントした。その5名の選定方法がユニークで、「今日持ってきているカメラで、これは珍しいぞと自信のある人」という条件を出し、長徳氏の眼鏡にかなった人が選ばれていた。


スペシャルトークショーを行った写真家の田中長徳氏。
珍しいカメラを持ってきたユーザー5名には、長徳氏の著書『さらば、ライカ』が手渡された

 ところが会場には、なんと、1964年発売の35mmレンズシャッターカメラ「リコー オートショット」を持っている人がいたりして、これには長徳氏もリコー関係者もびっくり、という一幕も。「今日はまあ、言ってみれば『GR BLOG』オフ会、GR友の会みたいなものだから」という長徳氏の言葉どおり、和やかな発表会となった。

●メーカーとユーザーを近づけるブログプロモーション

 プロモーションにもさまざまな手法があるが、新製品の発表会に一般ユーザーを招待する、それもブログを使って参加者を募集する、というのはかなり珍しいケースではないだろうか。リコーの総合経営企画室・コーポレートコミュニケーションセンターの轡田(くつわだ)正郷広報部長にたずねてみると、「リコーとしても初めての試み」だという。一般ユーザーを招いた発表会は過去にも例があるそうだが、ブログを使ったプロモーションは、「GR DIGITAL」が初めて。

 リコー公式ブログ「GR BLOG」のスタートは8月30日。リコー社員の書き込みに、一般ユーザーがトラックバックを付けるかたちで展開してきた。「予想をはるかに超えるトラックバックがあって、正直驚いた」と轡田氏が言うように、このブログを通じて、社員の中から「えみっふぃー」や「ちっちさん」といったブログアイドル(?)が生まれ、「GR DIGITAL」発表を前に盛り上がっていった。

 「ブログという手作り感のある媒体は、『GR DIGITAL』のクラフトマンシップに通じるところがある。それに、『GR DIGITAL』は決して万人に受け入れられるデジカメではないことも承知している。だからこそ、口コミによる宣伝を期待するところが大きい。その点でもブログは最適だと考えた」と轡田氏。今回、一般ユーザーを集めて発表会を行ったのも、そうした“口コミ”効果を狙ってのことだったと打ち明ける。


スチロールのモックアップやコンセプトモデルなどを展示。
10年にわたるリコーデジタルカメラの変遷が一目でわかる


 轡田氏によれば、「『GR DIGITAL』は口コミで評判になって売れて欲しいカメラ」だという。しかし口コミは、ときに悪評も広めてしまうことがある。「その点はもちろん承知している。口コミに頼る、ということは、それだけ我々が『GR DIGITAL』に絶大な自信を持っていることの証でもある」と轡田氏は胸を張る。実際、発表会後の「GR BLOG」には、「質感がすばらしい」「12月のボーナスで買いたい」などトラックバックが多数寄せられている。このことからも、リコーの自信作はユーザーに十分受け入れられたと言えそうだ。「GR BLOG」は、製品発売後の11月末まで続く予定。リコーでは、ユーザーから寄せられる多くの意見や希望、期待に耳を傾け、今後の商品開発、第2、第3世代の「GR DIGITAL」の検討に生かしていきたいとしている。

 発表会場には、「えみっふぃー」や「ちっちさん」もいたらしいのだが、最後まで正体は明かされなかった。そんなところにも、長徳氏の言うように、「『GR BLOG』オフ会」的な雰囲気の一端があらわれている。メーカーとユーザーの距離を一気に縮めるブログ。うまく活用すれば手作り感のある製品訴求やプロモーションができる。そんなことを感じた発表会だった。(フリーカメラマン、榎木秋彦)


「GR DIGITAL」本体と、オプションのビューファインダー、
21mmワイドコンバージョンレンズと専用花形フード