夏休み最後の土曜日となった8月27日、よく晴れた夏空の下、兵庫県神戸市にある松下電器産業の神戸工場に、朝から大勢の親子連れが集まった。子どもたちが「Let's note T4」をみずから組み立てるという、年に1度、工場を挙げて行われる一大イベント『手づくりLet's note工房』に全国からやってきた生徒たちとその家族だ。果たしてノートPCは無事動くのか? 子どもたちと神戸工場社員たちが分かち合った「ものづくり」の喜びとその奮闘ぶりをレポートする。

 夏休み最後の土曜日となった8月27日、よく晴れた夏空の下、兵庫県神戸市にある松下電器産業の神戸工場に、朝から大勢の親子連れが集まった。子どもたちが「Let's note T4」をみずから組み立てるという、年に1度、工場を挙げて行われる一大イベント『手づくりLet's note工房』に全国からやってきた生徒たちとその家族だ。果たしてノートPCは無事動くのか? 子どもたちと神戸工場社員たちが分かち合った「ものづくり」の喜びとその奮闘ぶりをレポートする。



●4年目を迎える『手づくりLet's note工房』とは?

 参加した子どもたちは、「Let's note T4」(CF-T4GW5AXP)を約1時間半かけて自分の手で組み立て、午後は自ら出荷検査を行い、自分で包装・梱包して当日に持ち帰ることができる。「教材」に「Let's note T4」が採用されているのは、軽量・長寿命バッテリー・タフなボディーというシリーズのコンセプトがもっともはっきりしたモデルだからだ。参加費用は、パソコン代・昼食代などを含め、パソコンを組み立てる子ども1人につき12万円。決して安い金額ではないが、実は「原価を割っている」という。いくら子どもたちが組み立てるからといっても、T4の価格を考えると無理もない。

 02年にスタートして今年で4年目の『手づくりLet's note工房』。今年は、50人の募集に、青森から宮崎まで約700人に上る応募があった。その中から抽選で選ばれたのは男の子27人、女の子23人。一番小さい子が9歳の小学生、最年長で18歳の高校生だ。なかなかの「狭き門」だが、実はスタッフも希望者が多すぎて「抽選」で選ぶのだという。神戸工場の社員たちも年に1度の「工房」を、とても楽しみにしている。日ごろ生産の現場で働いている彼らが、子どもたちと一緒に「ものづくり」を体験できる貴重なイベントだからだ。

 神戸工場は、国内外に出荷するすべての「Let's note」と「TOUGHBOOK」の生産を一手に担っている、パナソニック製ノートパソコンの唯一最大の生産拠点。操業開始は1990年。当初はワープロの生産工場だった。その後の阪神大震災後にも耐え、97年からは独自の「セル生産方式」を導入。現在、「Let's note」と「TOUGHBOOK」合わせて1日3000?4000台を生産している。これだけの生産量を誇りながら、直販サイトからの「Let's note」のカスタマイズ注文にも迅速に対応。「セル生産方式」により、カスタマイズ品も受注後約3日で出荷できるという。その神戸工場が、全社員一丸となって開催する年間最大のイベントが、この『手づくりLet's note工房』なのである。

●子どもが自力でパソコンを組み立てられるようあらゆる工夫が

 朝10時に開校式がスタート。子どもたちと家族は別々の席につく。主役はあくまで子どもたちだ。その後の組み立ての場面でも親は見守るだけ。部品を支えたりする「助手役」になることはできても、組み立てには手を出さないのがルールとなっている。それだけにサポートする社員たちは大変だ。さまざまな場面で、子どもたちにも十分理解してもらえるように、あの手この手の工夫を凝らしている。開校式では、スクリーンを使ってパソコンの仕組みについて説明するのだが、そこでは、ネズミのチュー太くんや物知り博士に扮した社員が登場して、寸劇仕立てで説明を行う。子どもたちの笑いを誘いながら、この日行う組み立て作業がどんなものになるのかをわかりやすく伝えていく。



 30分後、子どもたちは2人1組のグループに分けられ、組み立て作業に移った。それぞれのグループに指導員役社員である「先生」が1人ずつ付いてサポートする。作業は、神戸工場内の実際の組み立て現場に設けられた特設作業場で行われる。まわりをすべて本物の生産設備に囲まれて、本物の「Let's note T4」を組み立てるのだから、これはかなり貴重な体験となるだろう。



 参加した子どもたちは9歳から18歳までと、年齢にも体格にも開きがある。そうした点も考慮してグループ分けが行われているが、さらに、事前に子どもたちの身長を聞いておき、背の低い子どもには、それぞれの身長に合わせた踏み台を用意しておく、という念の入れようだ。作業台で無理なく安全に組み立てができるように、という配慮がここでも徹底されているのである。

 子どもたちは、静電対策エプロンを身につけ、アースバンドを手首に巻いてから、組み立て作業に取りかかった。3人の社員が同時進行で同じ作業を行い、その模様は3つのスクリーンに投影されている。子どもたちがどの位置からでもスクリーンが見やすいように、全員がそろって同じペースで作業が進められるように、とスタッフ全員で取り組んでいる。子どもたちの手元には、作業手順を写真とイラストでわかりやすく図解した説明書が配られている。これも毎回すべて社員が手づくりしているものだ。そして、指導員役の社員が子どもたちのそばでマンツーマンに近いサポートを行っていく。



 「Let's note T4」は、心臓部である基板やCPU、メモリなどは、ボディの中に組み込まれた状態で子どもたちの目の前に置かれている。組み立て作業の中心は、HDDの組み込み、液晶モニタの取り付け、トップカバーとキーボードの取り付け、という大きく3つのプロセスとなる。これらを約1時間半で行うわけだ。ドライバーを使ってビスを止めることすら初めてという子どももいるわけで、決して時間的余裕のある作業内容ではない。子どもたちのチャレンジ心をしっかり刺激するイベントなのである。



●子どもたちの夢一杯の真剣なまなざし

 上田馨くんは小学6年生。両親と兄と、家族4人で福岡から参加した。「Let's note」ユーザーのお父さんが製品ホームページでこのイベントを見つけて子どもたちに話したところ、末っ子の馨くんが「ぜひやってみたい!」と声を上げたので、申し込んだのだそうだ。お父さんは自作パソコンを組み立てる趣味を持っており、子どもと同じ趣味を共有したかったという。馨くんは、自分でつくったパソコンでインターネットをしてみたいのだそうだ。ただ、完成した「Let's note T4」は最終的にお母さんにプレゼントするのだという。「だんだん出来上がりの形になっていくのがうれしいです。つくるのは難しいけど、教えてくれる人がいるのでなんとかできそう」と馨くん。

 天野志保さんは小学5年生。両親と妹と、こちらも家族4人での参加。この日は島根県松江市の自宅から、お父さんの運転する車で神戸工場までやって来た。今朝は4時起きだったそうだ。このイベントは、お父さんがネットのニュースサイトで見つけたという。去年も応募したのだが、残念ながら落選。今年も6月くらいから、お父さんは募集開始を待ち構えていてのだそうだ。応募手続きを終え、カレンダーの8月27日のところに「もしかして神戸?」と印を付けて、家族みんなで抽選結果を待った。当選の知らせに、家族で大喜びしたそうだ。志保さんは、学校でもパソコンを使っている。この夏も、自由研究のためにお父さんのパソコンを借りて、インターネットで調べものをしたという。完成した「Let's note T4」は志保さんを中心に、家族みんなで使うパソコンになるようだ。さらに、「離れて暮らすお祖父さんに、お父さんがノートパソコンを買ってあげたので、私はこのパソコンからテレビ電話みたいにしてお祖父さんと話してみたい」と志保さんは夢を語ってくれた。

●ついでに、Let's noteの今後について話をきいてみた

 組み立て作業が順調に進む作業場の一角には、『行列のできる? パソコンなんでも相談コーナー』というのが設けられていた。「Let's note」やパナソニック製パソコン周辺機器はもちろん、パソコンに関するあらゆる質問に答えるコーナーだ。担当するのは、「Let's note」の商品企画を手がけるスペシャリスト。

 組み立てに熱中する子どもたちを見守るご家族に、何かサービスできないだろうかと考えて2003年からこのコーナーを始めたという。この日もさまざまな相談が持ち込まれていた。「Let's note T4」でどんなことができるのか、自分の手持ちの周辺機器は「Let's note T4」でも使えるのか、といった質問が多いが、なかには調子の悪いパソコンを持参して、「どこに問題があるのか調べてほしい」という相談も。何しろ現場が工場だけに、こうした要望にも迅速に応えることができるのだ。簡単な修理なら、その場で対応することもできるという。

 ついでと言っては失礼だが、せっかくなので、Let's noteの今後、とくにキータッチのさらなる改善とトラックボールの復活についてうかがってみた。「キーボードは重量と剛性のバランスが難しい。しかし新しいモデルを出すたびに少しずつ進化させている。ぜひ今度の新シリーズのキーボードを店頭で確かめてほしい。トラックボールは(苦笑)……。昔は確かにタッチパッドの性能が不十分で、トラックボールを採用したという経緯がある。しかし現在のタッチパッドは十分な性能があると考えている。確かにトラックボールは魅力的なディバイスだが重さが……」と残念そうな声。

 今回の取材対応を引き受けていただいた、パナソニックAVCネットワーク社・ITプロダクツ事業部・国内マーケティンググループ・マーケティングチームの岩松主事によると「Let's noteには『重くなる』という選択肢はありません。性能を上げるためであろうとなんであろうと『重くする』ことは誰も考えないでしょう」とのこと。徹底的に軽さにこだわった設計姿勢は全セクションに染み渡っているようだ。

●世界にたった1台のパソコンが完成! 最初の起動はとにかく緊張の瞬間

 正午前、全員の組み立てが終了。いよいよ自作の「Let's note T4」の起動だ。バッテリーを取り付け、恐る恐る電源を入れる子どもたち。ほどなく液晶モニタに「Panasonic Let's note」の見慣れたロゴマークが表れた。あちこちの作業台から、歓声が、拍手が、湧き上がった。その瞬間の子どもたちの喜びの表情は、とても言葉では表せないほど輝いていた。ものづくりのすばらしさが伝わった瞬間だ。そして、実は「先生」社員たちの表情も負けずに輝いていた。

 昼食は神戸工場の食堂で特製弁当が用意された。その間に、完成した「Let's note T4」は通常工程と同じように製品検査の準備を行う。いわゆるエージングだ。食後の時間を利用して、神戸工場や「Let's note」に関するクイズ大会が開催された。上位3位に入った正解者には、閉校式でポロシャツやSDカードなどが賞品として贈られた。

 午後はまず、グループごとに工場見学へ。「Let's note」や「TOUGHBOOK」の耐久試験設備、プリント基板の印刷装置などを見学する。気温80度、湿度95%の試験室の中で正常に稼働を続ける「Let's note」、雨の中でずぶ濡れになっても、1mの高さから落としてもびくともしない「TOUGHBOOK」を目の当たりにして、子どもたちは一様に驚いていた。



 その後、組み立て現場へ。製品検査を終えた自分の「Let's note T4」を手にした子どもたちは、指導員に教えてもらいながら自分の手で出荷前の最終動作チェックを行う。最後に、バーコードリーダーで製品番号を読み込んで、出荷手続きを完了。梱包は全員で行うので、全員の出荷手続きが完了するまで、子どもたちは電動ドライバーでのネジ締め体験や、100kgの重さにも耐える「Let's note」のボンネット構造を体験するコーナーなどを楽しんだ。そして梱包前、「Let's note T4」の底面にネームプレートを貼り付ける。ステンレス製のネームプレートには、各自の名前がローマ字でレーザー刻印されている。神戸工場全社員からのささやかな贈り物だ。これを貼り付けることで、文字どおり世界にたった1台、自分だけの「Let's note T4」が完成するのである。

 午後3時、閉会式。手づくりの「Let's note T4」、世界でたった1台だけの自分だけのパソコンを納めたパッケージを机の上に、どの子も満足感にあふれていた顔をしている。子どもたちが組み立てた「Let's note T4」には、故障した場合に神戸工場に直送される特別保証が付いていることが説明された。といっても、これまでこのイベントで組み立てられた「Let's note」は、ただの1台もトラブルを発生してはいないという。最後に全員で記念写真を撮影して、2005年度の『手づくりLet's note工房』は終了した。



●子どもたちと分かち合いたい「ものづくり」の喜び

 イベントの合間に、パナソニックAVCネットワーク社システム事業グループITプロダクツ事業部プロダクトセンター藤田尚住所長にお話をうかがうことができた。藤田氏によるとこのイベントは、「これが社員の自発的な試みから始まったものであり、すべてを社員たちが自分たちの手でつくり上げている」ものだという。この日、イベントの運営に携わったのは100人あまりの社員たち。しかし準備も含めて、神戸工場の全社員がこのイベントに関わっている。開会式での寸劇も、どこからどこまでを子どもたちに“手づくり”してもらうのかも、すべて社員が自発的に考え、活動しているのだ。参加費は徴収するものの完全な赤字のこのイベント。彼らをそうさせるのは何か? そこには、「ものづくり」にかける並々ならぬ情熱があった。

 日本の製造業に空洞化が叫ばれて久しいが、IT業界でも生産拠点の海外移転が進んでいる。部品製造や製品の組み立ては海外に任せ、国内では設計や商品企画のみを行うメーカーも多い。そうした中で「Let's note」は、プリント基板からすべてを神戸工場で製造・生産しているのである。自分たちの依って立つべきところは「ものづくり」であり、「ものづくり」の基本を見失ってならない、という強い信念が神戸工場にはあるのだ。社員1人ひとりが「1つ1つの部品からつくり上げていく大切さ、楽しさ、ものづくりの喜びと誇りを、次代の日本を背負っていく子どもたちにも伝え続けていきたい、という思いを持っている」のだと藤田氏は言う。

 昨年の『手づくりLet's note工房』に参加した子どものアンケートに、「もっと難しい工程にもチャレンジしてみたかった」という感想があったことから、今年は組み立て作業を見直し、細かい配線や部品のビス止めも工程に組み込んだ。その分、指導員役のスタッフを増やして、子ども2人に指導員1人、という体制を組んだ。藤田氏によれば、こうしたこともすべて、社員の発案で行ったものだという。イベントとしてうまくいけばいい、ことではなく、ものづくりにこだわる気持ち、そしてそれを子どもたちに伝えたいという想いがあふれている。「組み立てる時の真剣な目、完成時の喜びにあふれた子どもたちの瞳。あの瞳は私たちにとって何よりの報酬であり、つくり上げることの喜びを知ってもらえた証。あの笑顔をみると、またこれから1年間がんばっていいものをつくっていこうと思う」と藤田氏は言う。

 手を振る社員たちに見送られながら、神戸工場をあとにする子どもたち。この『手づくりLet's note工房』に参加した子どもたちの中から将来、日本の「ものづくり」を支え、IT業界を牽引するリーダーとなるような人物が現れるのかもしれない。(フリーライター・中村光宏)