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なぜ外食業界では動画が使われるのか、 今後どうなっていく?

暮らし

2024/04/14 12:00

【外食業界のリアル・8】 外食業界では、さまざまな飲食店がSNSを積極的に活用しており、複数のSNSを同時に運用していくことも当たり前になっている。近年では、いかにSNS上で動画を活用していくのかという取り組みが重要になってきている。そこで、外食業界と動画について語りたい。

飲食店が動画を使う理由

 飲食店がSNS上で動画を使う主な理由は、「集客」「採用」である。売り上げを伸ばすためには、多くの顧客に店の魅力を知ってもらって来店してもらうことが大切だ。以前は飲食店の情報を探すためにグルメ媒体を利用するのが当たり前であったが、今はSNS上で探す方が主流になっている世代もある。そのためSNS上で情報を発信することが求められ、その中での訴求力の高い動画は欠かせないものとなっている。

 また、集客と同じぐらい重要なのが採用である。人手不足が深刻な中、採用メディアに情報を掲載したからといって募集がくるわけではなく、同様にSNS上で店のことを知ってもらわなくてはいけないのである。

 飲食店の動画でよく出てくる要素は、「料理/ドリンク」「店内の雰囲気」「スタッフ」の三つが多い。ユーザーが店を選ぶときにどんなメニューがあるのかは、当たり前だが気にする。Webサイトでも、メニューページがコンテンツランキングで上位に必ず入る。

 特徴的なドリンクは、見栄えも含めて集客につながる魅力の一つだったりする。店内の雰囲気も重要だ。どんな内装でテーブルやイスはどうなっているのか、そこに料理が並んだときはどんなビジュアルになるのか、とユーザーが知りたいことは尽きない。店で働くスタッフも気になる。どんな人がどんな接客をしているのか、スタッフも含めて店内の雰囲気といっても過言ではない。

 動画については、集客と採用で中身が大きく変わるかというと結局は両方を兼ねている。SNS上で発信される店舗の動画を複数見ながら、「そのお店に行こうか」「このお店で働いてみたい」となるのである。

静止画は加工されて“盛られた”もの、動画はリアルに近い?

 スマホで撮影することが普通になった今、撮った写真をアプリで加工することは容易で、誰もが当たり前のように行っている。人物であれば美肌にして好みの顔に調整することもできるし、料理もおいしそうに見せることもできる。そのため、静止画は“盛られた”ものであるという認識が浸透している。

 動画についても加工できるのだが、静止画よりも「リアル」に近いという感覚がまだある。飲食店を選ぶ際にSNSの動画を参考にするユーザーは増えているが、一方で店ではなくユーザーが投稿した動画を複数チェックすることで、リアルな店の雰囲気を確認するといった行動につながっていることも面白い。動画では料理やドリンクはもちろんのこと、店内やスタッフ、テーブル、イスなどの様子も確認することができる。

 動画を見ることで実際に自分の目に近い形でお店を見ることができ、それは店の口コミやレビューを確認するのと同じような位置づけになっている。脚色された文章や“盛られた”写真よりも動画の方が情報量は多く、客観性が高いものとなっていると思われる。

縦型動画は飲食店と相性が良い?

 スマホでSNSを見る際は、縦にして使う方が多い。その方がタイムラインに表示される投稿が多いし、縦型動画を売りにしたSNSもあったりするので、縦の方が快適である。そのため、SNSの動画は縦型のものが主流となっている。そして、飲食店が伝えたい情報というのは縦型動画と相性が良いと思う。

 縦型動画は端末全体で動画が再生されるため、その世界観に没入しやすいといわれている。飲食店では料理やドリンク、店内の内装や装飾などを通して、店の世界観を作っていくことに努めている。家で食べるご飯とは違って、外で食べる食事というのはある種の非日常を楽しむ場所であったり、料理を雰囲気と一緒に味わってもらうことでおいしく感じてもらったり、と世界観は重要なものであるが、それを文字だけで伝えるのは難しい。

 動画であれば、それをストレートに表現することができる。そして縦型動画であれば、その世界観に入り込みやすくなるのである。また、横型の動画では高さに限りがあるため、料理を食べている人を撮ろうとすると料理と人を同時に写すのが難しく、カメラを動かしたり、引きで撮らざるを得なくなったりする。縦型であれば食べている様子が撮りやすいし、周囲の人も写り込みにくいので適しているということもある。

外食業界の動画はどうなっていく? 

 外食業界において、動画での情報発信は今後も増え続けるであろう。一方、動画の生成AIも広がっており、簡単に精度の高いものが創れるようになってきている。極論をいえば、撮影をしなくても飲食店の動画を作成して発信することもできるようになる。だが、動画自体がある種の「口コミ」になっていることを考えると、その動画が生成AIではなく、“盛られた”ものではないリアルなものであるかどうかをユーザーは気にしていくのではないだろうか。生成AIがリアルな動画を創ることを目指す一方、飲食店の動画ではそれが加工されたものではないことをいかに伝えていくかが問われるというのは皮肉である。(イデア・レコード・左川裕規)