豊島区長「西武池袋本店存続に関する嘆願」の背景を読む

 12月14日の区長会見で、東京都豊島区の高野之夫区長は、西武鉄道の親会社である西武ホールディングス(西武HD)社長に「西武池袋本店存続に関する嘆願書」を提出したことを明らかにした。この事実が報道されるや否や、インターネット上では賛否両論が巻き起こっている。

豊島区の中心地「池袋」駅周辺
 

豊島区は「豊かなまちづくりのためのパートナーシップ協定」と結ぶ

 セブン&アイグループ傘下のそごう・西武が運営する「西武池袋本店」は、西武鉄道の西武池袋線 池袋駅に直結し、豊島区長によると西武池袋本店の土地の約50%は西武HDが所有しているという。
豊島区「これからの池袋のまちづくり」より

 既報の通り、そごう・西武は、家電量販店「ヨドバシカメラ」、アウトドア用品店「石井スポーツ」を運営するヨドバシホールディングス(ヨドバシHD)をビジネスパートナーとして迎えた米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループが買収することが決定している。譲渡は2023年2月1日の予定。ヨドバシHDは「そごう・西武の百貨店と連携した新たな店舗の出店をはじめ、より一層、価値ある店づくりに努めてまいります」とのコメントを発表している。

 請願書の全文は豊島区のウェブサイトで確認できるが、区長は西武池袋本店の低層部(1~4階)へのヨドバシカメラの出店に異を唱えており、「池袋駅の改札を出たところが、街に出る第一歩。まさに池袋の街のイメージを決めるといっても過言ではない」と言い切っている。駅の改札から0~1分で行ける家電量販店は、駅や路線のイメージが下がるとの主張だ。対して記者は、乗り換えのついでにモバイルバッテリや電池、文房具などの小物が買えるため便利になり、ブランドイメージの良さから、ヨドバシカメラの出店は大いに沿線価値を高めると感じる。
西武池袋駅に直結する西武池袋本店(記者撮影)

 豊島区は22年10月6日に、家電量販店のビックカメラと「豊かなまちづくりのためのパートナーシップ協定」を取り交わしている。ビックカメラにとって、21年9月15日に行った群馬県高崎市との「包括連携協定」に次いで二つめの自治体となり、10月18日には千葉県千葉市と「包括的な連携に関する協定」を結んだ。高崎市はビックカメラの創業の地であり、千葉市は今年11月1日に、JR千葉駅前の複合商業施設「マインズ千葉」の1~7階に「ビックカメラ千葉駅前店」がオープンしたばかり。一方、千葉駅周辺には「そごう千葉店」と「ヨドバシカメラ 千葉店」があり、今後、仮にヨドバシカメラが現在の建物から、そごう千葉店内に移転すると、千葉もまた、いま以上に家電量販店の競争激しいエリアになると予想されている。

 豊島区長は、要するにECが普及するなか、ECでは体感できない百貨店の強みである「デパ地下」や「海外ブランドショップ」と家電量販店が調和せず、豊島区外に買い物客が流出することや、過剰な値引き競争などによる家電量販店の共倒れを危惧しているのだろう。しかし、西口と東口の行き来に時間がかかる池袋駅の構造上、西武池袋本店への家電量販店の新規出店による競争激化は、むしろ既存の家電量販店にとってプラスの効果をもたらすと記者は考える。いずれにしても正式発表を待とう。(BCN・嵯峨野 芙美)
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