給与支払いデジタル化解禁・早期実施に賛成する理由

オピニオン

2021/04/21 18:30

 4月19日開催の厚生労働省の労働政策審議会(労働条件分科会)は、資金移動業者の口座への賃金支払について検討を行い、資料として「資金移動業者の口座へ賃金支払を行う場合の制度設計案(骨子)」を公開した。過去の審議会の開催概要や検討資料も、厚生労働省のウェブサイト内で公開されている。

資金移動業者の口座へ賃金支払を行う場合の制度設計案(骨子)
 
賃金の「通貨払の原則」

 資金移動業者とは、銀行など預金取扱金融機関以外の決済サービス提供事業者を指し、PayPayなどが該当する。2020年の資金決済法改正によって、現行類型に加え、新たに高額類型と少額類型を設け、送金額に応じた規制を適用する。高額類型は認可制、現行類型・少額類型は登録制。
 
資金移動業者の分類(従来・法改正後)

 経費精算や福利厚生の一部について、既にPayPayやSuicaでの支払いが行われており、タイムリーな受取りが可能、アプリから送金・受け取り履歴が確認できて便利、経理業務の効率化といったメリットがある。

 分科会が出した制度設計案(骨子)をみると、賃金支払先の資金移動業者に求める条件が過剰過ぎるのではないかと感じるものの、この骨子をベースに実施されると仮定して、「賃金の資金移動アカウントへの送金(給与支払いのデジタル化)」に賛成する理由を挙げる。

1. キャッシュレス決済サービス事業者による特典進呈
2. 銀行口座や現金からのチャージ不要による、利便性の向上
3. 自治体窓口や医療機関などのキャッシュレス決済導入の後押し

 銀行口座や現金からのチャージが不要になると、PayPayやメルペイ、FamiPayなど、主に銀行口座からチャージする方式のスマートフォン(スマホ)決済サービスは格段に便利になる。また、銀行口座からしかチャージできない「J-Coin Pay」などの銀行系Payは、チャージ残高を無料でいつでも戻せるメリットが強みとなり、選ばれやすくなるだろう。なお、PayPayはPayPay銀行のみ出金手数料を無料化している。
 
資金移動アカウントを利用する場合の資金の流れのイメージ

 厚生労働省が議論を進めている給与支払いのデジタル化は、給与を支払う企業と給与所得者の選択肢を増やすための施策であり、決して義務化ではない。選択肢の一つとして、さまざまな業種・店舗でお得に使える「○○Pay」があってもいいし、従来の銀行振込を選ぶと手数料分だけ振込額が減って損するくらいになった方が、スマホ決済サービス・電子マネーを恒常的に利用している働く世代にメリットがあるはずだ。

 検討を機に、キャッシュレス決済への対応が遅れている、自治体の各種証明書発行手数料・施設利用料、税金、水道料金などの支払い(実際は自治体や運営主体によって対応状況が異なり、東京都はPayPay・LINE Pay自動車税・固定資産税の支払いが可能、他県は不可など、地域間格差が生じている)、病院・クリニックの診察代などのキャッシュレス決済導入の後押しになると考えられるため、大いに歓迎したい。
 
東京都の上下水道料金は「PayPay請求書払い」などのスマホ決済サービスの請求書払いに対応済み。都税は、PayPay・LINE Payに続き、新たにau PAYd払い、J-Coin Payなど5サービスにも対応し、2021年5月6日から支払い可能になる

 利用終了時に返金されるコイン式ロッカーやコイン式カートなど、100円硬貨を前提としたシステムがある限り、ATMからの現金引き出しは必要だが、銀行口座からのチャージ不要による、スマホ決済サービス・事前チャージ型電子マネーの利便性の向上と、マイナポイント並に各社競い合うと思われる「入金特典」にメリットを感じるので給与支払いのデジタル化の実施に賛成だ。(BCN・嵯峨野 芙美)