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店内一等地を「Apple」から「蔦屋家電+」に変更、蔦屋家電の今を追った

 東京・世田谷の「二子玉川 蔦屋家電」がオープンしたのは2015年5月。リアル店舗がアマゾンなどのネット通販に攻め込まれる中、雑誌と家電を融合した新しい小売業の形を世の中に示した。国内で「コト提案」をいち早く具現化した店舗といってもいいだろう。あれから5年、今ではオフラインとオンラインをより緊密に連携させた新たな取り組みを「蔦屋家電+(プラス)」で挑戦している。蔦屋家電の今を取材した。

2019年6月に2階から1階の一等地に移動した「蔦屋家電+」のコーナー

売り上げノルマのない蔦屋家電+の仕組み

 蔦屋家電+は、国内外のスタートアップやクラウドファンディングで資金調達中の企業などの尖った商品が実際に体験できるコーナーとして、19年4月にオープンした。オンラインが主体のスタートアップにとって、画面だけでは伝わらないプロダクトの使い心地や便利さが体験できるリアル店舗はありがたい存在だ。最初は二子玉川 蔦屋家電の2階の一角で開始したのだが、2カ月後の6月に1階の正面玄関から入ってすぐ左にあるコーナーに移動した。
 
2019年6月に正面玄関の左のコーナーがAppleから蔦屋家電+に変わった

 従来より1.5倍の82平方メートルのコーナーは、表通りからもガラス越しに見える一等地だ。蔦屋家電+にかける力の入れようが伝わる。しかも、1.5倍に拡大したにもかかわらず、商品の展示数は従来の32アイテムと変わらない。1商品当たりの面積を広くする贅沢な使い方だ。なお、Appleコーナーはオーディオ家電と売り場を統合し、スマートフォンなどデバイスを通じたエンターテイメントの楽しみ方が、より直感的に伝わる売り場へと進化させた。
 
広さは1.5倍に拡大したが商品展示数は従来と同じ32アイテム

 ちなみに、蔦屋家電+の運営会社は、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が18年4月に家電の企画・卸売事業を分社化して設立した蔦屋家電エンタープライズ。新会社設立から1年間の構想を練った末に、蔦屋家電+をオープンした。販売員による売り込み色を極力排除して、来店客に体験や体感してもらう点は蔦屋家電スタイルを引き継ぐが、蔦屋家電+はそれをさらに先鋭化させたといえる。

 というのも、小売業なら「商品を売ってなんぼ」で売上高にこだわるはずだが、蔦屋家電+のスタッフに売り上げのノルマはない。むしろ、店に来た客は気に入った商品があれば、ネットの最安値で購入してもかまわないほど。スタッフは、商品の開発ストーリーやユーザー視点の暮らしの中での利用シーンなどを説明することにこだわる。重視するKPIも、1日に接した顧客との回数だ。

 では、どこで儲けをひねり出しているのか。それが冒頭の写真にあるように、幅60センチ、奥行き45センチの1区画に1商品を展示するスペースにある。これを30日間、25万円という出展料で貸し出している。期間は60日間、90日間のプランもあり、期間に応じて出展料はディスカウントされる。そして、単なるスペース貸しではなく、蔦屋家電+は出展社に対して店舗で得られた定量や定性のマーケティングデータを提供することで、企業のマーケティング活動を支援する。

 ここまでの流れで、8月1日に新宿と有楽町にオープンした米国・サンフランシスコ発の「b8ta(ベータ)」に似ていると思った方はかなり小売業に通じているといえるだろう。確かにビジネスモデルはb8taに似ていて、実際に参考にした点もあるというが、蔦屋家電+ではリアル店舗で培ってきたアナログ的なノウハウにこだわりがあるという。

 具体的に仕組みをみていこう。まず、商品の横にあるタブレットは、製品のストーリーを簡潔に説明する「トップ」と、静止画や動画で紹介する「ギャラリー」、そして製品の主な「スペック」の三つのコンテンツで構成されている。
 
タブレットでは「トップ」「ギャラリー」「スペック」の三つのコンテンツから構成

手書きPOPの要素をデジタルにも反映

 とりわけ「トップ」では、ユーザーに使ってもらいたいシーンや開発ストーリーをQ&A形式で紹介するとともに、開発者のこだわりと、最後に商品の目利きとなる蔦屋家電+で「キュレーター(学芸員)」と呼んでいるスタッフからのおすすめポイントを紹介している。キュレーターは、まさにコーナーを美術館や博物館に見立てて出展する商品を選定するキーパーソンだ。そのために、出展社にインタビューやアンケートなどを実施する。

 蔦屋家電+のプロデューサーで蔦屋家電エンタープライズ 商品部商品企画Unitの木崎大佑新規事業チームリーダーは「キュレーターによるおすすめポイントの説明は、TSUTAYAのパッケージソフトに店長のおすすめなど手書きのPOPが張っているのと同じ感覚」と語る。出展社とのインタビューから得た情報を、自分たちの言葉に変換して来店客に伝えるなど、アナログ的な要素を今風にアレンジしている。
 
蔦屋家電エンタープライズ 商品部商品企画Unitの
木崎大佑新規事業チームリーダー/蔦屋家電+プロデューサー

 先述した商品の区画サイズも厳密ではなく、広いスペースを要する商品や、通常の小売店の売り場でもっとも目立つ「エンド」と呼ばれる棚の先端も、同じ出展料で対応する。木崎チームリーダーが「われわれは売る立場ではなく、魅せる立場にある。人気のない商品を、あえていい場所に展示することもしている」と話すように、商品の展示場所の権限は、あくまでも店舗のスタッフが握っている。

蔦屋家電+に年間50万人を呼び込む力

 もちろん、タブレットにAIカメラを搭載するなど、最新のリテールテクノロジーも駆使する。しかし、そこから得るデータは「性別」「年代」「滞在時間」「滞在人数」の四つだけだ。画像の個人情報は0.6秒で消去するため、録画はしていない。「男性/10代/30秒/1人」などの数値が残り、これを出展者はリモートから確認できる。このテクノロジーは、オプティムのマーケティングデータ取得ツール「OPTiM AI Camera for Retail CE」を採用している。
 
タブレットのAIカメラで「性別」「年代」「滞在時間」「滞在人数」の四つを収集する

 こうしたデジタルのマーケティングデータも大切だが、木崎リームリーダーがより重視しているのが、接客から得られる来店客の生の声だ。スタッフは顧客との会話から得られた情報をテキストデータに打ち込み、それを出展社と共有する。この定性データに対する出展社の評価が高いという。

 「友だちが使っているからほしいとか、デザインが気に入ったなど、お客様との会話の中からしか得られないアナログ情報は、デジタルツールではまだ十分に取得できない」と説明する。蔦屋家電+では、出展期間が終了したときに定量と定性データを付け合わせたレポートを出展社にフィードバックしている。

 また、蔦屋家電+にとって最大の援軍は二子玉川 蔦屋家電の集客力そのものだ。19年の蔦屋家電+のコーナーに立ち寄った客数は50万人に及ぶという。年間50万人が訪れるコーナーから得られる顧客の生の声は、出展社にとっても魅力だろう。もっとも新型コロナウイルスの影響が一切ないとはいえないが、以前から訪日外国人客は数%に満たないなど、もともとインバウンドに頼っていなかったことも集客力の維持につながっているようだ。
 
平日も利用客が多い「二子玉川 蔦屋家電」

クラウドファンディングは「出展料」が無料に

 最後に、CCCグループのクラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING」との連携もオンラインとオフラインによるユニークな取り組みだ。キュレーターが選定した商品の中で、クラウドファンディングで資金調達中の商品の場合、出展料は無料になる。

 アイデアやコンセプトはあるが開発資金がない企業にとって、イニシャルコストが無料で年間50万人の来客数を誇るリアルの売り場に商品を展示できるのは心強いだろう。サイトで目標調達金額が達成したとき、約20%弱の手数料がGREEN FUNDINGや蔦屋家電+に支払われる仕組みをとっている。
 
GREEN FUNDINGに出品中の企業は無料で展示できる

 蔦屋家電+を全面に打ち出した取り組みは、アナログ的な要素を取り入れた日本版RaaS(Retail as a Service=サービスとしての小売業)の確立につながるだろうか。蔦屋家電のオフラインとオンラインを融合した新たなチャレンジは、国内小売業の今後の行方を占う上でも注目に値する。(BCN・細田 立圭志)

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