東京オリンピックが異例の1年延期になった。中止は過去5回あったが、延期は初。パラリンピックも同様に延期された。新しい日程は、オリンピックが2021年7月23日~年8月8日、パラリンピックが8月24日~9月5日。いずれも、もともとの日程と同じ曜日の開催とし、日付は1日早くなった。新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)の世界的な拡大によるもので、やむをえない措置だ。しかし、たった1年の延期で、果たして開催できるのだろうか。

 国際オリンピック委員会(IOC)は3月30日、臨時理事会を開き延期を決めた。東京2020組織委員会の森喜朗会長が「選手の選考、予選、準備などには一定程度の期間を要する。輸送、ボランティア、そしてチケットホルダーにとっては夏休み期間中が望ましい。新型コロナウイルス感染症の状況などを勘案すると1年延期の夏開催が望ましい」と提案、IOCが受け入れた。
 
体作り、練習、予選、選考などを考えると、来夏では間に合わない

 3月30日時点で世界の新型コロナの感染者数は79万人。その後4月末時点では300万人。死者も4万人から20万人に急増。感染者数の累計グラフを見ると、延期決定直後、4月に入って爆発的に感染者数や死者数が増えていることが分かる。日程を協議していた3月末と比べると、感染者は4倍、死者は5倍に激増した。新型コロナの状況は完全に変わった。IOCや東京2020組織委員会は、これほどまでに世界的に感染者が増加することを予測していたのだろうか。

 発生源の武漢では4月8日、76日ぶりに都市封鎖が解除され、27日に上海や北京で3カ月ぶりに学校が再開。中国では、すでに「アフターコロナ」のフェーズに入ったとアピールしている。しかし、マスク着用義務は変わらず、随所で体温測定をするなど、厳戒態勢は続いている。海外からの帰国者には、依然として2週間の隔離が待っている。いわゆる感染の第2波・第3波を防ぐためだ。

 国立感染症研究所では、およそ5億人が感染したとされるスペイン風邪について次のように解説する。1918年、北半球の春から夏にかけて発生した第1波は致死性が低かった。しかし、晩秋に襲った第2波では10倍の致死率に強毒化、さらに翌19年の始めに第3波が襲った、と。100年以上前の出来事だ。

 今回も、そのまま当てはまるとは限らない。医学は進歩した。生活も豊かになった。しかし、逆に世界的な往来は容易になり、グローバリズムは比較にならないほど進んだ。良きにつけ悪しきにつけ、こうした変化が、今回はどんな結果を招くか、まだ分からない。
 
3月から4月にかけて、新型コロナの感染と死亡者は急増した
(出典:worldometer.info)

 中国での経過を見ると、世界で猛威を振るう新型コロナ第1波は、夏ごろにはいったんその勢いを弱めるだろう。しかし、秋以降、第2波、第3波が襲ってくることは想像に難くない。もちろん、それを阻止するために2度、3度と外出自粛を繰り返し行うことになるだろう。仮にスペイン風邪と同じような経緯をたどるとすれば、来年の夏ごろには、新型コロナの影響はだいぶ薄れているはずだ。東京オリンピックも「開会式だけ」ぐらいなら、開催は可能かもしれない。

 問題は完全な形で「競技」が可能かどうかだ。オリンピックは世界中から選手が集まるスポーツの祭典。来年の夏までに、季節が逆の南半球も含めて、新型コロナは終息しているだろうか。しかも、森会長の言葉通り「選手の選考、予選」にも時間がかかる。それ以前に、自粛で休んでいた体を再起動し、オリンピックに備えてしっかりと練習を積むには、もっと時間がかかる。現時点では、代表クラスのトップアスリートですら、十分な練習はできていないだろう。準備には少なくとも終息後、1年程度は必要ではないのか。来夏の開催には到底間に合わない。2年の延期が必要だ。

 問題はある。アスリートの年齢だ。2年はアスリートにとってとても長い。旬を過ぎてしまう選手もいるだろう。もっと切実な問題はパラリンピックだ。進行性の病と闘う選手もいるという。2年という時間の経過で、競技そのものができなくなってしまう恐れもある。

 しかし、マスクをしながら練習し、予選に臨むことはできるのか。できたばかりで安全性の検証が十分でないワクチンを打って、競技に参加するのか。しかも全世界から観客を集めて……。いずれも無理な話だ。ここは涙を飲んで2022年開催だ。
 
メインスタジアムの新国立競技場は19年12月に完成したが、
現在はまだフェンスで囲まれている。施設は準備万端だったが……

 大会組織委員会はBCNの取材に対して、「新たな開催日程については、大会へ臨むアスリートへの配慮、大会運営サイドの事情を勘案して提案し、IOCも完全に合意したもの」として、21年開催を目指し準備を進めると回答。新型コロナ対策については、「IOCとは情報交換の枠組みを作り、WHOも参加の上、緊密な連携」をとりながら「関係機関などと密接に連携し、必要に応じて対策について検討を進めていく」とした。販売済みのチケットに関しても「原則そのままご利用いただけるよう検討を進める」という。

 一方、21年開催時の競技会場の手配状況はどうか。大会組織委員会は「2020大会と同じ会場で、同じスケジュールを踏襲することが望ましい」としながら「会場については、相手方があることであり、慎重に、かつ、丁寧に相談をしていきたい」とし、使用予定の競技会場とはまだ交渉段階であることを明らかにした。

 やむを得ない事情があるとはいえ、1度ならず2度までも各競技会場の使用予約を反故にすることは許されないだろう。交渉の途上なら、まだ間に合う。

 森会長は、「再延長は絶対にない」と発言し、2年後に再延期することを強く否定した。しかし、今は全世界が未曾有の苦難に立ち向かいウイルス戦っている最中にある。刻々と状況は変化している。君子であるなら豹変してほしい。今すぐにでも22年開催に向けて舵を切るべきだ。(BCN・道越一郎)