「デジタルニッポン再生論──ITトップが説く復活へのラストチャンス」#1:Dynabook 覚道清文 代表取締役社長兼CEO

 ビジネスのデジタル化は、今日の日本経済にとって喫緊の課題。日本社会全体も、DX(Digital transformation=デジタルトランスフォーメーション)という横文字で表現される「変革」を求められている。しかし、その中身は一体何なのか……。分かっているようでよく分からない。かつて、IT先進国と言われていた日本。いつしか、周回遅れと表現されることも多くなってきた。変わらなければならないことはうっすら分かる。しかし、何をどう変えればいいのか。それぞれの立場から、それぞれの見え方がありそうだ。そこで、IT業界のトップに率直に訊いて歩いた。第1回はDynabook(ダイナブック)の覚道清文 代表取締役社長兼CEOだ。

薄くて軽くて堅牢なPCという点ではずっと世界をリードし続けてきたと語る
Dynabookの覚道清文代表取締役社長兼CEO

 アメリカのコンピュータ科学者、アラン・ケイが1972年に提唱した理想の個人向けコンピューター「DynaBook」。これを大胆にも自社の小型PCのブランド名として採用したのが、東芝だった。89年に世界初となるA4ファイルサイズのPCとして発売したDynaBook J-3100SSは、アラン・ケイの理想との隔たりは大きかったものの、現在あるノートPCの原型だ。以後、数多くのノートPCを世に送り出してきた。それから30周年の節目を迎えた今年、1月に東芝グループからシャープ傘下に入り、社名も「Dynabook」と改め再出発した。

 小型PCを中心にものづくりに取り組んできた同社。覚道社長は、「薄くて軽くて堅牢なPCという点では、ずっと世界をリードし続けてきた」と語る。「PCを持ち運べるようにして、オフィスでの働き方を変え、時間の使い方の変革に貢献してきたという自負がある」と話す。今で言う働き方改革に不可欠なモバイルPCを、30年以上も前からつくり続けていることになる。覚道社長はDXをどう捉えているのか。

 「DX本質は、人々の暮らしをよりよくするものだと考えている。Dynabookは、『コンピューティングとサービスで世界を変える。』を社是としている。人々の生活と社会を変え、よりよく変える提案をしていくのが私たちの仕事だ」。覚道社長はそう話す。デジタル技術はツールに過ぎず、よりよく変えることがDXの本質だとの指摘だ。DXの推進の結果、数多くの社会課題を一つずつ解決していくことにつながる。ITの会社ならデジタル技術を使って課題解決に挑戦することになるわけだ。同社ができることの一つは、「オフィスの働き方改革への貢献だ」という。
 
オフィスの働き方改革と現場の働き方改革でDXに貢献すると語る
覚道社長

 小型PCによって、まずオフィスの中でPCを持ち歩けるようにしてワークスタイルを変えた。さらに小型化を進め、インターネット接続も可能になった。進化したノートPCは、働き方改革を推進するエンジンの一つと言っても過言ではない。まさにDyanabookが歩んできた道だ。働き方が変わることによって、「時間の使い方が変わり、少しでも興味ある知的なところにより時間を使えるようになる」わけだ。どこにいても仕事ができ、無駄な移動を省き、本当に必要なところにしっかりと時間を割く社会の実現も、DXの成果の一つだ。

 Dynabookにできるもう一つの貢献、それは「現場の働き方改革だ」という。「少子高齢化が進み、現場の労働力が減少していく中、どうやって労働力を確保し、熟練の技能を継承していくかは大きな課題」として「コンピューティングを使った遠隔支援の仕組みを訴求していきたい」と覚道社長。メガネ型のディスプレイ「AR100」と、手のひらサイズの小型PC「DE100」を組み合わせた究極のモバイルPCともいえる提案だ。同社では、これをモバイルエッジコンピューティングと称し、dynaEdge(ダイナエッジ)というブランド名で展開している。
 
現場の働き方を変える手のひらサイズのWindowsPC
「dynaEdge DE100」(右)とハンズフリーで画面を確認できるメガネ型ディスプレイ「AR100」

 「PCの形は、タブレット端末を筆頭にさまざまなものを模索しなければならない。一般的なノートPCの形であるクラムシェル型ではない、別のものも、当然必要になってくるだろう。その一つの形が、AR100とDE100を組み合わせた、ウェアラブルPCだ」という。利用シーンとしては、例えば全国に展開する立体駐車場のメンテナンスに活躍しているという。PCを身に着けつつ両手が自由に使えるため、本部のエンジニアからの指示やマニュアルをメガネ型ディスプレイを活用して確認しながら作業ができる。

 このシステムを利用したメンテナンス会社では、東北から九州まで70以上の拠点で5万以上のパレットを管理しているが、熟練技術者が複数の現場に対して遠隔で指示を出せるため、素早く効率的に故障原因を特定して対処できるようになったと評判だ。まだ実証実験段階のものがほとんどだが、その数は400社ほどに積みあがっている。遠隔業務の支援をはじめとした、こうした取り組みは、倉庫や工場にも応用可能で、限られた労働力の生産性向上に貢献する。ハードウェアの進化を顧客の新たな価値創出につなげていく、DXの好例だろう。

 シャープ傘下になったことで、超高精細の8Kディスプレイや、次世代通信技術の5Gを生かした技術連携も進行中。「すでに、8KディスプレイのPCに着手している。8K映像の編集や、複数ウィンドウを表示させ情報量を増やしつつマルチタスクで動かすような用途も想定しながら開発を進めている」という。5Gについても、同様に扱える情報量が劇的に増えることから、さまざまな応用が期待できるが「まず、5Gを使える場を提供すること」から始め、特に期待の大きい海外からの需要にも対応していく計画だ。こうしたハードウェアの新しい形もDX推進を後押しする。
 
すでに8KPCの開発を進めていると話す
覚道社長

 ハードウェアからスタートした同社とはいえ、それ以外のアプローチにも力を入れ、特に中小企業のビジネスデジタル化もサポートしていく。大きなIT部門をしっかり持てないような企業向けに、PCの運用を管理する「ライフサイクルマネジメント」や顧客が利用する状態でソフトウェアをセットして出荷する「キッティング」サービスなどを展開。「ハードウェアから関連サービスをワンストップで提供できる点は差異化要因」だという。さらに、サーバー構築やクラウドを活用したシステム開発ニーズにも対応していく。

 とはいえ、「ハードを切り離して、ITソリューションだけで生きていくことは考えていない」と覚道社長。「ハードとそれに付随するサービスを両建てでこなしていくことが重要。ハードからソフトにシフトしていくということではない。どの時代にあっても、両輪を生かしてビジネスを展開していきたい」と結んだ。

 クラウドサービスの急速な立ち上がりと進展・普及が、DXによるビジネス変革を支える一つの要素だと考えられている。一度に莫大なシステム投資をせずに、小さな部分から少しずつ試したり、失敗したりしながらビジネスのデジタル化を進めることができるからだ。

 そこでは、PCはクラウドで展開されるサービスを人間とつなぐ端末になる可能性が高い。データ処理を担う機械としての重要性は徐々に薄れていくだろう。しかし、なくなることはない。PCの次、タブレット端末の次、スマートフォン(スマホ)の次を探す動きが盛んだが、まだ決定的な次世代の端末は登場していない。今後ハードウェアビジネスの役割は、人間とクラウドをシームレスに接続できる機器の開発と展開に変化していくだろう。(BCN・道越一郎)