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K1ファイターも使う少額送金プラットフォーム「pring」、口コミでじわじわ広がる

経営戦略

2019/09/05 18:55

 スマートフォン(スマホ)決済サービスが20%ポイント還元など、ド派手なキャンペーン合戦を繰り広げる中、ユーザー間の口コミでじわじわと広がっているアプリがある。「お金コミュニケーションアプリ」というキャッチフレーズを掲げる「pring(プリン)」だ。K1ファイターからお年寄りまで、だれもが簡単に使えるUI(ユーザー・インターフェース)が特徴で、既存のスマホ決済サービスとは一線を画す。pringの荻原充彦代表取締役CEOは「ニッチだけど働き方が多様化して、マルチワークが広がるにつれて支払い形態の変化がわれわれのサービスに追い付いてくる」と語り、社会の変化を先取りしたサービスに自信を示す。

「お金の通り道の摩擦をなくす」というビジョンを掲げるpringの荻原充彦代表取締役CEO

お金にまつわるストレスを解消

 pringの創業は2017年5月。メタップスとベンチャーキャピタルのWill、みずほ銀行などの出資によって立ち上げた。アプリの開発や資金移動業の申請・登録、銀行との接続などを終えた約半年後の18年2月にサービスをスタートさせた。

 メタップスの社員だった荻原CEOは、最初から独立を意識して取り組んでいたという。「『お金の通り道の摩擦をなくす』というビジョンを掲げて、お金にまつわるストレスを解消するためにpringを開発した」と語る。

 ATMの振込手数料や時間外にお金を引き出すとかかる手数料、クレジットカードで初年度は年会費が無料でも、2年目から気づかずに年会費を払い続けていたなど、だれもが経験のあるお金にまつわる疑問や損をしたような感覚。こうしたストレスをなくすため、無料送金ツールのpringを開発した。

 ちなみに、pringというネーミングにはプレゼントやペイ(Pay)などお金を送ったり払ったりするときに生まれる価値交換の輪(ring)を広げるという意味が込められている。そのため、スイーツのpuddingとは綴りが異なる。

 アプリのホーム画面を見れば、その使いやすさはすぐに分かる。「お金をおくる」「お金をもらう」「お店ではらう」の三つから自分がしたいアクションを選ぶだけ。「お金をおくる」場合は、送りたい人を選んで金額を入力して送るだけだ。三つのアクションが全てツーステップでできるように設計されている。
 
「おくる」「もらう」「はらう」の三つから選ぶだけ

「メッセージ」が個人の信用を示す

 また、お金を送ったりもらったりしたときにチャット機能でメッセージが添えられるのもポイントで、二つの狙いがある。まずはコミュニケーションをしやすくするため。飲み会費用を立て替えた際に、後日、個別に回収するのが面倒だったり、直接、言いにくかったりする。チャットなら自分の隙間時間にメッセージを送って、相手のタイミングで支払うのでスマートになる。
 
お金を送ったり、もらったりしたい人を選んで金額を入れてメッセージを添える

 実際に格闘家でK1ファイターの小澤海斗選手もpringユーザーの一人。意外なのだが、K1選手は知り合いのチケット代を自分で立て替えて、当日の試合後に現金を回収したりするケースがあるという。当日にドタキャンして来なかった人や会場が広くてなかなか会えないなど、試合後の疲れた身体で回収するのは大変な作業だ。

 また、その日に現金の持ち合わせがなく、後日振込をお願いする際、振込手数料について言い出しづらかったりするそうだ。pringを使うことで、こうしたストレスがなくなり、身体のメンテナンスに集中できるわけだ。

 K1選手以外でも、日雇いのアルバイトに報酬を支払ったり受け取ったりする際、通常は現場ではやりとりせず、事務所に行かなければいけない。pringなら、離れていてもスマホで報酬の支払いや受け取りが可能なので無駄な時間が省ける。

 もう一つが、メッセージそのものがその人の「信用」をあらわしてることだ。きちっと支払ってくれる人なのか、支払いの悪い人なのかなど、メッセージの履歴を見ればわかってしまう。仲のいい2人だけのやりとりなら問題ないかもしれないが、アルバイト代の支払いなど多数の人とお金のやり取りをする際は、メッセージが信用そのものになるのだ。

 「支払いが少額になればなるほど、しらばっくれられやすくなる。そうしたときのエビデンスや証拠がメッセージ機能。人のことを信じるいい人が、得はしなくても損をしない世の中にしたいという思いもある」と、荻原CEOはメッセージ機能に込めた思いを熱く語る。
 
「いい人が損をしない世の中にしたい」と語るpringの荻原CEO

雇用形態の変化がpringを後押しする

 企業が働き方改革に取り組んだり副業を認めたりするケースが増えているのも、pringにとって追い風だという。「副収入や夫婦で別歳入、ファンクラブとか投げ銭など、いろんな形の少額支払いが増えている。2025年から30年にかけて人々の働き方や暮らし方が大きく変わると、さらに多様化してくる」と荻原CEOは読む。

 GoogleやAmazon、Facebook、アップルなどいわゆるGAFAに代表される巨大IT企業による市場や富の寡占化が指摘されているが、荻原CEOは「それと同じぐらい新しい働き方が生まれている」と語る。確かに、ユーチューバーやインスタグラマー、SNSを使ったインフルエンサーなど、影響力や能力のある個人は企業などの組織に属さず、自由なスタイルで仕事をしている。土、日の休みだけスポット的に自分の能力を提供するケースもあるだろう。

 さらに、これまでは価値として認められなかった個人の特技が、対価を支払うに値するケースも生まれているという。「ある会社の事務で働く女性は、メールでのスケジューリングやリマインド、素早い返信、丁寧な文章などに長けていて、ある社長の秘書としてその部分だけを請け負っている」と荻原CEOが語るように、個人の働き方が多様化している。

 そうしたときの少額報酬のやり取りに、いちいち個人の口座を申請したり登録したりするのは面倒だし現実的ではない。pringがあれば一発で解決できる。

 「いまの金融システムは、遠隔地に住む人同士で100円や500円の少額でやりとりしようとすると途端に不便になる。100円を銀行振込で送金するとかはありえないだろう」と荻原CEOが指摘するように、遠隔での少額決済にこそpringの力が発揮される。逆にいえば、現状のままの金融システムは、個人の多様な働き方を推進する上でボトルネックになりかねない。

 口コミでじわじわと広がっているpringは現在、「二ケタ万人の登録ユーザーと月に60億円分の送金が行われている」(荻原CEO)という規模にまで成長した。

 ほかのスマホ決済のような派手はキャンペーンは打っていないが、他のサービスがあれこれ機能を盛り込んで複雑になればなるほど、「お金のやりとり」だけに特化したpringの使いやすさが際立つ。

 「70歳のおばあちゃんが何の説明をしなくてもpringを使えた」という実績こそが、ユニバーサルサービスとして認められる自信につながっているのだろう。人々の働き方が変わるにつれて、pringの利用シーンが増えていきそうだ。(BCN・細田 立圭志)