「BCN+R」編集部では年末企画として、編集長・編集キャップ・編集部員3名の計5名が今年のトレンドを振り返る座談会を実施しました。テーマごとに、5回に分けて公開します。本記事は2本目で、テーマがゲームを使った競技「e(エレクトロニック)スポーツ」です。小売業界や団体の動きを中心に、かいつまんで振り返ってみます。

18年9月に開催された東京ゲームショウ2018ではeスポーツステージが大いに盛り上がった

市場規模と認知が拡大した一年

 日本は“eスポーツ元年”と言われて久しいが、2018年はこれまでの年と比べて活況な元年となった。それは、多くの数字が明らかに示している。ゲーム情報誌「ファミ通」を発行するGzブレインは、18年の国内市場規模が前年比の約13倍にあたる48億3100万円になるとの推計を発表した。eスポーツのファン数は約383万人に上るという。
 
出典:Gzブレイン ※2018年以降の数値は、2018年11月時点での予測

 市場規模の拡大に伴って、認知度も向上している。Gzブレインは、18年7月時点で国内のeスポーツ認知度が41.1%だったと発表。前年9月の調査の約3倍で、女性の割合も伸びているとした。他方、ジャストシステムの調査では、eスポーツを「聞いたことはある」と63.1%が回答。eスポーツ大会「RAGE」を開催するCyberZによる調査では、49.8%がeスポーツを認知しているという結果になった。数字は異なるものの、どの調査でも昨年の2~3倍の数値が出ているほどの成長ぶりだ。

 認知度が急激に向上している背景には、メディア露出の増加がある。社会学者の加藤裕康氏によると、全国紙ではeスポーツ関連の記事の量が、今年上半期だけで昨年一年間の量を上回っている。テレビ番組でも、日本テレビの「eGG」や毎日放送の「YUBIWAZA」、フジテレビの「いいすぽ!」など、eスポーツを扱う番組が増えた。多数のインターネットメディアもeスポーツを追いかけている。

 eスポーツの注目が高まったきっかけは、17年末に話題になった「eスポーツ五輪競技化」の可能性と、18年2月に活動を開始した「日本eスポーツ連合(JeSU)」の存在だ。JeSUは、国内の3つのeスポーツ団体が合併して設立した、国内唯一のeスポーツ団体。IPホルダーであるゲーム会社が加盟するコンピュータエンターテインメント協会(CESA)と日本オンラインゲーム協会(JOGA)がバックアップに付いているほか、日本マイクロソフトやサードウェーブ、Tencent Japan、マウスコンピューターなども正会員として加わっている。
 

 同団体の岡村秀樹会長は、ホームページで「eスポーツ選手が日本や世界で活躍するための土壌の整備を進めるとともに、eスポーツの振興を通して、国民の競技力の向上及びスポーツ精神の普及を目指し、これをもって経済社会の発展に寄与することを目的とします」とコメントしている。
 
JeSUの岡村秀樹会長(12月13日の会見時)

 JeSUの大きな事業の一つは、2月に開催された大型のゲームイベント「闘会議2018」から行っている、プロライセンスの発行だ。「景品表示法による賞金制限の回避」「五輪やそれに準ずる大会への選手派遣」「プロゲーマーへのビザ発給」を目的に実施された。国内外で活躍できるeスポーツ選手の育成や地位の向上を目指すべく発行されたライセンスではあるものの、ライセンス発行の経緯や基準などが不透明だったことから、以前から国内にあったコミュニティからは反発の声が寄せられた。

 12月26日時点で、11タイトルのライセンスを認定。ジャパン・eスポーツ・プロライセンスを130人に、同ジュニアライセンスを1人に、同チームライセンスを8チームに発行している。JeSUはその他、国際試合の手配や、海外への選手の派遣、全国支部の展開、高額賞金付きの大会などを実施し、活動実績を積み上げている。

 例えば、五輪に準ずる大会「アジア競技大会」のデモンストレーションに採用されたeスポーツ大会に日本の選手を送り出したり、19年に開催される茨城の国体の文化プログラムにeスポーツが採用されたりしたことも、JeSUの功績といえる。
 
5月に開催された日本代表決定戦でウイイレの代表選手に選ばれた
SOFIA選手(左)とレバ選手

 五輪競技化については、現段階で可能性が低いと見られている。しかし、五輪のようなイベントや五輪に合わせたイベントなどは十分考えられるので、普及の起爆剤にはなりそうだ。

コンシューマーPC市場の新たな希望

 メディアからの注目度が高い影響が、小売業にも出ている。今年4月、ユニットコムの「パソコン工房 大阪日本橋店」の伊藤毅店長は、「ゲーミングPCの販売が好調で、ここ3カ月のPC全体の売上高が前年の約1.5倍で推移している」と語っていた。また8月には、サードウェーブの「ドスパラ大阪・なんば店」の西山洋介店長が、「休日は親子でゲーミングPCを買いに来る顧客も多い」と話していた。
 
家電量販店各社も新たなトピックとしてeスポーツに注目している
(写真はエディオン×DetonatioN Gamingのコラボレーション)

 「Fortnite(フォートナイト)」や「PLAYERUNKNOWN‘S BATTLEGROUNDS(PUBG)」といったゲームタイトルが人気を博し、eスポーツとしてマスメディアに取り上げられたり、配信動画が増えたりしたことで、「保護者がeスポーツについて調べてから子どもと一緒に来店する」といった機会も増えたという。

 メーカー側からも喜びの声があがっている。ゲーミングPCブランド「ALIENWARE」を手掛けるデルのフィル・ブライアント グローバルコンシューマー&スモールビジネス事業担当プレジデント兼ゼネラルマネージャーは、「日本におけるゲーミングPCの販売伸び率は前年比30%増でとても元気」と、弊紙のインタビューで答えていた。

 サードウェーブやソフマップはeスポーツ施設を設置し、誰でも気軽にゲーミングPCでゲームができる環境を整えようと尽力している。サードウェーブは、eスポーツ市場を活性化させるために3年間で20億円投資すると宣言。施設の他にも、同社は毎日新聞と組んで「全国高校eスポーツ選手権」を開催している。あわせて、eスポーツの部活化支援として高校にゲーミングPCを無償で貸し出す施策も打った。このほか、PC専門店や家電量販店がプロチームのスポンサーにつくなど、小売・メーカー各社は何よりも市場の定着を優先しているようだ。
 
4月21日にはeスポーツ施設「LFS池袋」で「PUBG 東京vs上海対抗戦」が開催された

相次ぐ異業種からの参入

 注目度の高さから、異業種からの参入も相次いでいる。毎日新聞社や日本テレビやフジテレビなどのマスメディアをはじめ、吉本興業、浅井企画などの芸能事務所、レオパレス、JTBなど多種多様だ。横浜F・マリノスや読売新聞社の「GIANTS」などリアルスポーツからも参入してきている。とりわけ、元朝日放送アナウンサーの平岩康佑氏は、独立してeスポーツ実況者の事務所「ODDYSEY」を設立し、eスポーツ実況に専念するという空前の転身をしている。eスポーツ市場の可能性が垣間見える事例だ。

 Gzブレインの調査によると、22年の日本のeスポーツ市場は約100億円まで拡大する見込みだ。試合観戦と動画観戦を合わせたeスポーツファン数は、785万5000人に上るという。収益の内訳は、チームや大会へのスポンサー料や広告費といった「スポンサー」の割合が多く全体の75.6%を占める。従来のスポーツ興行で主な収益となっている「チケット」「グッズ」「放映権」といた項目は、eスポーツでも大会数やファン数の増加に伴って成長していくと予測されている。

 さまざまな出来事がひっきりなしに起こった18年は、“eスポーツ元年”と言っても差し支えない。19年は、ゲーミングPC向け第9世代「Core i9シリーズ」の本格普及の可能性、「ゲーム障害」が認定される可能性といった、期待や不安が入り混じっているが、毎年“eスポーツ元年”と言われている状況から抜け出せるのだろうか。(BCN・南雲 亮平)