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ナニワ商会の塩山知之社長、新たな成長の道筋をアジアに見出す

インタビュー

2017/08/25 18:00

 量販店の激安競争が熾烈を極めた1980~1990年代、大阪のテレビで毎日のように聞かれた「カンカンカメラのナ・ニ・ワ」というCMソング。かつて拡大路線をとった多くのカメラ量販店が、一部の勝ち組を残して消えていったのに対し、ナニワ商会は創業の原点であるカメラ販売に立ち返ることでデジタル化の時代を生き延び、今年創業70周年を迎えた。3代目・塩山知之社長は、新たな成長の道筋をアジアに見出しているという。

取材・文/日高 彰  写真/松嶋優子


ナニワ商会の塩山知之社長

写真への回帰で生き残り
アジア市場で再び成長する

1.フィルム激減というピンチからの脱出

―― 「カメラのナニワ」は、今でいうカメラ量販店のビジネスモデルを作り上げた、業界では草分け的な存在です。かつてはパソコン・携帯電話などの家電やブランド商品も取り扱い、心斎橋では複数の店舗が“ナニワ村”を形成するほどでした。

塩山 当社は写真機器の卸売業として創業し、その後、小売業にも進出した会社ですが、長らく大きな収益源だったのがフィルムの販売と現像・プリントです。一時期は、フィルム販売量が日本一といわれたこともあったようです。しかし、私が入社した2004年はまさにデジタルへの転換期で、フィルム販売が毎年前年比マイナス10%、20%という恐ろしい勢いで減っていきました。親父(塩山高之会長、当時社長)からはずっと「そろそろ会社を継げ」といわれていましたが、「嫌や」といって断っていました。「このままいったら、この会社つぶれるやろ」と思っていましたから(笑)。

―― 量販店業界が競って拡大・多角化に突き進む中、ナニワ商会はその方向へ行かなかった。今から考えると、正解だったのではないでしょうか。

塩山 はい。しかし、それも結果論で、規模拡大のための資金が続かなかったので、それ以上量販の世界にはついていけなかったというほうが正しいかもしれません。ただ、当時確かに借金はめちゃめちゃ多かったのですが、返済にあてられる資産もそれなりにありました。ですので、財務体質の改善を図るとともに、ナニワの強みは何かを突き詰めて考えました。結果として、原点の写真・カメラに回帰するしかないという判断に至ったわけです。

―― 社長に就任されてからは、中古カメラ事業の強化に加えて、撮影スタジオをグループ各店に展開されました。

塩山 撮影サービスで今最も収益が大きいのは、いわゆる「子供写真館」の業態なのですが、当社はそのような記念写真の事業には進出せず、手がけるのはあくまで就活・婚活用の「証明写真」です。なぜそこにこだわるかというと、記念写真は当社のB2Bのお客様である写真館のビジネスですので、競合するような事業はしたくないという背景があります。国内の証明写真市場はここ数年ほぼ横ばいなのですが、街中のDPEショップなどが減少しており、証明写真サービスを提供するプレイヤーは減っているため、需給バランスは今後も安定していると期待できます。そして、記念写真に比べ証明写真は客単価が低いので、それだけをやろうとすると収益性はよくないのですが、当社はカメラ店の従業員が撮影も兼務するので、効率的なオペレーションが可能なのです。

2.アジアは労働力だけでなくマーケットとしても有望

―― 海外事業を成長戦略に据えられているということですが、具体的にどのようなビジネスを展開されているのでしょうか。

塩山 グループ会社の事業として、家庭に眠っている昔の写真をデジタル化する、「節目写真館」というサービスを、海外拠点を活用しながら提供しています。この事業は、もともと押入れにしまい込まれていた写真ですから、短納期を求めるお客様が少ない一方、フィルムや紙焼きの写真を1枚1枚スキャンするので、非常に労働集約的な仕事になります。そこで、労働力が安価なベトナムに「スキャン工場」を作り、そこに箱いっぱいに詰めた写真を船便で送ってスキャンして、データはクラウド経由で、元の写真はまた船便で戻してもらう。返却までは数か月かかりますが、かなりの低コストで写真のデジタル化サービスを実現しています。

―― 東南アジアの労働力を活用して、国内向けサービスの提供を効率化するということですね。

塩山 それだけでなく、私は次の段階として現地のマーケットで勝負したいと考えています。賃金が低いので市場規模自体は小さいのですが、富裕層に限ってみれば、日本のお金持ちよりもよっぽど消費意欲が旺盛です。そこで今年、ホーチミンシティに「子供写真館」を開く予定です。2020年までにはベトナムの他の主要都市へも広げたいと考えています。

―― これからカメラ市場や、写真の楽しみ方はどう変わっていくとお考えですか。

塩山 ドローンが登場したり、CMや映画も一眼レフカメラで撮るようになっていたりと、技術革新は加速しています。紙焼き写真の市場がさらに縮小するのは避けられないと思いますが、写真そのものの重要性が減っているかというと、インスタグラムの流行からもわかるように、まったく逆なんです。
 プロのカメラマンや写真家は、より専門的な技術や高いクオリティを求められるようになっていくでしょう。その一方、YouTubeで面白い番組をつくる人とかがどんどん出てきていますよね。今後、本当に消費者の心に響く写真や映像を生み出すのは、プロだけではなく、YouTuberやカリスマブロガーかもしれません。こういう時代に、写真・映像の世界にいる皆様をサポートし、つないでいく、それが流通の立場である私たちの役割だと考えています。
 

<ベトナムの活気に成長市場を感じる>に続く

 
1973年生まれ。兵庫県西宮市出身。95年、キヤノンに入社し、韓国、米国市場での営業に従事。キヤノンUSA時代にはニューヨークに駐在した。2004年、ナニワグループ本部に入社し、情報システム開発室室長に就任。07年にレモン社代表取締役社長(現任)、08年にナニワ商会代表取締役社長に就任。
 
 40代半ばとまだ若い塩山社長だが、「本当に大きな仕事は、自分が現役のうちにあといくつもできるわけではない」と話す。アジアでの事業展開は、その大きな仕事の一つと位置付けており、本気度を尋ねると「ライフワークとしてあきらめずにやりたい」と力強い答えが返ってきた。厳しい市場環境下でも生き残りの道筋を見出す“浪速商人”らしいしぶとさと、海外ビジネスの経験で磨かれた大局観は、ナニワ商会を80年、100年続く企業に導いていくに違いない。(螺)
 
※『BCN RETAIL REVIEW』2017年9月号から転載