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<Special Report>売り場でロボットはどう働く? 人とロボットの未来の関係

インタビュー

2016/06/24 18:00

 ロボットの法人利用が加速している……とはいうものの、リテール分野ではほとんど浸透していないのが現状だ。「将来はロボットに仕事を取られてしまうのでは?」と漠然とした不安を抱えつつも、いまいち具体的なイメージが沸かないという販売員は多いだろう。今回は、ロボット運用のパイオニアとしての知名度を上げつつあるハウステンボスで技術の責任者を務める、富田直美経営顧問&CTOに、人とロボットの未来の関係を聞いた。

ハウステンボスの富田直美経営顧問&CTO

不完全だからこそ意味がある、ハウステンボス流のロボット運用

 まず、ハウステンボスが昨年夏にオープンした、ロボットがあらゆる業務を担う「変なホテル」について話を聞いた。「お客とのコミュニケーションで問題は発生していないのか」という質問に、富田氏は「もちろん、問題だらけです」とあっさり認めた。「あらゆる問題が発生しているが、それこそ望むところ。宿泊代を払っている人に『ここが悪い、こうした方がいい』を言ってもらえる環境は、ロボットを進化させるうえで最高だからだ」。「変なホテル」には文字通りの「変」だけでなく、「変化していく」という意味も含まれている。実地でしか本当に使えるものは生まれないというのが富田氏の考えだ。

 富田氏はロボット開発・運用における“アジャイル”の重要性を説く。“アジャイル”とは、簡単に言えばトライ&エラーの繰り返しで改善をしていくこと。ハウステンボスはその言葉通り、完全ではない試作機を積極的に園内に出している。「ロボットを運用するわれわれだけでなく、開発者、サービスを享受するユーザー、すべてを巻き込んだ“ウィン・ウィン”を生み出すのがわれわれの“アジャイル”」。富田氏に言わせれば「Pepper」も「ただ店頭に出ているだけで善」とのこと。ただの受付係でも、暇つぶしの相手でも、実際に人間とコミュニケーションをとる場数こそが、次なる進化につながるという。
 
「ロボットは実用(実験)のなかでしか成長しない」と語る

人間とロボットの共存する売り場とは?

 では、実際の売り場でロボットが実用化されたとき、それはどんなカタチになるのだろうか。ロボットがお客を入口で出迎え、おすすめの商品を案内し、レジで会計してくれる?

 富田氏の回答は「ノー」だ。「ロボットはある特定の仕事に特化するようになる。例えば、多数の商品のなかから一つの商品を探し出すなら人間よりロボットの方が得意。しかし、ロボットは人間にセンサの数ではまったく敵わない。したがって、すべての仕事を代替えすることはとてもできない」。産業用ロボットと異なり、接客ロボットには瞬間瞬間で膨大な情報を処理し、判断することが要求される。まさに場数と処理能力の高さと正確さが必要なのだ。インテルをはじめとする大手IT企業が、ここ数年でセンサの研究に力を注いでいる理由もここにある。

 人とロボットの付き合い方について、富田氏が分かりやすい例としてロボットならではの制約を挙げた。「人間が目の前にいると安全性を考慮して停止してしまうという仕様なら混雑する店頭では使い物にならない。進路を妨げる人間に道を空けるよう促す、愛嬌のあるプログラムを組み込むなどのアイデアが必要だろう」。ロボットはある意味で人間を超えた存在だ。しかし、主導権はあくまで人間側にある。“彼ら”と売り場で共存していくことは不可能ではないようだ。(BCN・大蔵 大輔)