いわゆるオフィス互換ソフトのEIOfficeが好調だ。イーフロンティアが2月末に発売した「USBを挿すだけで使えるオフィスソフト EIOffice2009 +1PC」は、価格が5000円前後と安いことに加え、USBメモリで販売していることもうけて、オフィス製品でマイクロソフトに次ぐ販売本数シェアを半年間維持している。そこで、企画開発統括部・製品企画グループの佐藤健二氏に、好調の要因や戦略を聴いた。

ネットブックの拡大が互換オフィス市場を立ち上げた



 ワープロや表計算ソフトなど、主に仕事や勉強で使用頻度の高いソフトをまとめた、いわゆるオフィス製品は、マイクロソフトのMS-Officeが事実上の標準。「BCNランキング」でオフィス製品にあたる「統合ソフト」のメーカー別販売本数シェアを集計すると、マイクロソフトが50-80%を占めている。その寡占市場で、このところ勢いがあるのが互換ソフトメーカーだ。中でも「EIOffice」を販売するイーフロンティアは、09年4月にメーカー別販売本数シェアで8.6%を獲得し2位に浮上。以来、9月までマイクロソフトに次いで、統合ソフトで第2位のシェアを維持し続けている。


 メーカーシェアを押し上げたのは3月末に発売した「USBを挿すだけで使えるオフィスソフト EIOffice2009 +1PC」。5280円と格安ながらMS-Officeとの互換性が高く、光学ドライブがなくてもUSBメモリからインストールできる。さらに「USBを挿すだけで……」の製品名の通り、インストールをしなくてもUSBメモリをPCに挿すだけでそのまま使えるのが特徴だ。もちろん、MS-Office2003と2009のファイル形式に対応しており、ワード、エクセル、パワーポイントのファイルが読み書きできる。

 好調の背景について「互換オフィスが売れ始めたのは去年の夏ごろから。まさにネットブックの拡大にあわせて伸びてきた」と語るのは、企画開発統括部・製品企画グループの佐藤健二氏。「ネットブックのように安価だがオフィスが非搭載のパソコンを買ったとき、高価なソフトにはなかなか手が出ない。そんな人たちに選ばれている」と分析する。「とにかく何でもいいという人は、無料のオープンオフィスを使う。サポートもあり、もう少し信頼性のある製品を求める人は互換オフィスを使っている」ようだ。

企画開発統括部・製品企画グループの佐藤健二氏

好調なUSB版に加え、さらに低価格なCD版も



 同社は「USBを挿すだけで……」で初めてUSBメモリ版を発売したが、その経緯について佐藤氏は、「ソースネクストのUSBメモリ版のソフト『Uメモ』シリーズの売れ行きが好調だったことから、対応する必要があると考えた。しかし、単純にUSBメモリを使っただけでなく、インストールせずにUSBを挿せばそのままソフトを立ち上げられるようにした。これで他の互換オフィスソフトとの差別化も図った」と語る。もちろんPCにインストールして使うこともできる。最新版ではソフトの設定がUSBメモリに保存できるようになり、どのマシンでも同じ設定でアプリケーションが利用できるようになった。

 「当初、ソフトの立ち上げはUSBメモリからのみできるようにして、PCにインストールできない製品にする予定だった。しかし、それだけでは受け入れられるかどうかは不安があったので、PCへのインストールにも対応し、ユーザーが使用法を選べるようにした」という。
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 さらに、10月22日には特別価格のキャンペーン版を発売。「USBを挿すだけで使えるオフィスソフト EIOffice2009 +1PC キャンペーン版」を4280円、「USBを挿すだけで使えるオフィスソフト EIOffice2009 +3PC キャンペーン版」を7980円、「EIOffice2009 +1PC CD-ROM キャンペーン版」を3780円で販売し低価格路線をさらに推し進める。

10月22日発売の「USBを挿すだけで使えるオフィスソフト EIOffice2009 +1PC キャンペーン版」

安さの秘密はコストだけでなく、日本の特殊性も



 EIOfficeは中国のEvermore Software(永中資訊公司)が開発している製品だ。中国国内ではかなり普及しており、特に政府や官公庁、研究機関、学校などではおよそ8割がEIOfficeを使っているという。「中国では、高額なMS-Officeのライセンス料がなかなか払えないことから、以前は海賊版の利用が横行していた。しかし、国際社会の一員としてそれではまずいということで、独自の製品を目指して作られた」と佐藤氏は明かす。

 プログラム言語はJAVA。ゼロから書き起こした。ファイルの互換性以外にもアイコンの配置やデザインはMS-Officeと似た部分は多い。さらに、オフィスソフトとしてわかりやすいように「パッケージもMS-Officeにあえて似せている」という。しかし「現在はアメリカでも販売しており、独自の機能も多く、ソフトの著作権を始めとする法的な部分に関しては問題ない」としている。

 EIOfficeの魅力は、なんといっても価格の安さ。しかしそもそも、なぜこんなに安くできるのか? 佐藤氏は「中国製であることは大きな理由。確かに人件費は安く、それが製品の安さにつながっている」と語る。しかしそれ以上に日本市場の互換製品に対する「値ごろ感」の影響も大きい。

 「日本で販売するためには、このぐらいの価格でなければ売れないというマーケティング的な側面から価格が決まってくる」という。「日本では、あまり値段が変わらなければ安心感と普及度合いからMS-Officeが選ばれる傾向が強い。しかし、これだけ価格差が大きければ、互換Officeでも受け入れられる」わけだ。

 Evermore Softwareは製品の品質に自信とプライドを持っており、もっと高く売ってほしいという意向があった。実際、台湾などでは日本円にすると約3倍の1万5000円程度で売られている。しかしイーフロンティアは現在、低価格路線のユーティリティーソフトも販売しており、これらの価格帯と日本市場の特殊性も考慮に入れて交渉。結果、現在の価格で販売できるようにしたという。

EIOfficeは互換性が高い。MS Office Excel 2007(左)とEIOffice2009 スプレッドシート

互換ソフトは仮の姿、第2のOfficeを目指して



 佐藤氏は「EIOfficeは、見栄えよくドキュメントを作る、という点ではまだ苦手な部分がある。特に日本語の文字組み、文字間、行間、句読点の位置などに関しては若干弱い。そういった面ではMS-Officeのほうが優れていると思う」と素直に認める。しかし、「現状で求められているのはビュアー+α。どのファイルでも開けることは当然だが、誰かが作ったドキュメントをある程度編集できればいいという用途が多い」とみている。例えばネットブックでドキュメントを作成したり作業したりする際に求められるような「一般的な機能であれば全く遜色ない」と強調する。

 そもそも、EIOfficeが互換ソフトとしての性格を前面に押し出しているのは、販売戦略上の問題。「MS-Officeがこれだけ普及している現状では、単に機能だけで戦っても勝ち目はない」からだ。開発元では、MS-Officeより便利だと考えているが、実際は互換オフィスということでなければ売れない。

 独自の機能としては、例えば、ワードもエクセルもパワーポイントもすべて1つのファイルとして扱うことができたり、エクセルのセルに画像ファイルを埋め込んでソートしても画像も一緒にソートされるという、データベースソフト的な機能も備えている。
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 ところが、こうした独自機能は、逆にMS-Officeとの差になってしまい、互換性とは逆の方向性であることもまた事実だ。ニーズはまだMS-Office互換というところにあって、よほど便利な機能でない限り、今のところは受け入れられない。新機能をアピールしてもそのために独自の操作法を覚えてくれるユーザーもまだ多くはない。実は、前バージョンのEIOfficeは、こうした独自機能を前面に押し出して販売したのだが、全く売れなかった。その反省を活かし、今度は「互換」を強調してまず使ってもらうことを重視している。

 佐藤氏は「いずれはMS-Officeを凌駕するソフトを目指している。そのためには一言で便利さが伝わる機能がなければならない」と強調する。「今は、MS-Officeの悪いところも含めて互換にしている。現在、プログラムの見直しを通じて、新しい機能をフレキシブルにつけられるようにしている最中。もっと決定的でわかりやすく便利な機能を実装したあかつきには、第2のOfficeとして、ある程度の価格に引き上げても受け入れられるのではないか」と期待する。

「MS-Officeを凌駕するソフトを目指す」と語る佐藤氏

ソフトがすべて安くなるわけではない



 間もなくWindows 7が登場し、秋から年末にかけてPC市場は大きな節目を迎える。EIOfficeはどう売っていくのか? 「USBメモリ版、3台版、セキュリティソフトとのセット商品に加え、CD-ROM版も新たに投入しさらに低価格な選択肢を増やした」として、キャンペーン版の投入で低価格を訴求していく。

 また、「スクールニューディールに合わせ、学校などの文教系市場にも力を入れていく」という。もともと中国でも学校で多く使われているソフトだけに、例えば、複雑な数式を簡単に書ける独自機能もあり、教育の現場に親和性が高い。そういったポイントも足がかりに販売を強化していく方針だ。

 一方、PCソフト市場は、本数・金額とも前年割れが続いており、極めて厳しい状況。無償ソフトも多い。実際に雑誌などのネットブック特集に「オススメの無償ソフト」といった記事が添えられたりしている。しかも無償であっても高機能なものも多い。「有償である明確な理由」が必要な時代になってきたのかもしれない。

 佐藤氏ですら「実際、パソコンで何かしたいと考えたとき、フリーのソフトがないかと探すことが多い。店に行ってソフトを探すということはあまりない」と語る。こうした状況の中では、やはり「ソフトは安くなっていくのではないか」と考えているようだ。しかし一方で「何でもかんでも安く、とはならない」という。

 「互換オフィスは安いということがまず重要。ただそれだけではビジネスは難しい。付加価値の高いものを、それなりの価格で売ることも大切だ。今までにないものや独創的なものも、適正な価格で売っていきたい」という。同社は、クリエーター向けのグラフィックソフトなども扱っており、こうした製品は高価なものでも一定の売り上げがある。「パッケージソフトは、安いものも高いものも、いったん出来上がってしまえば売り出すプロセスやコストは変わらない。磨り減っていかないようにしなければならない」佐藤氏はそう語った。

 同じものは安くなければ売れない時代。しかし「今までにないものや独創的なもの」であれば市場は開ける。「今までにない」「独創的」という言葉に、成長のキーワードが隠されているように感じた。(BCN・道越一郎)


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