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トップシェアの秘密はBDとDVDの全面作戦――松下のレコーダー戦略を探る

時事ネタ

2008/02/13 01:39

 「DIGA(ディーガ)」ブランドでブルーレイディスク(BD)レコーダーからDVDレコーダーまで幅広くラインアップする松下電器産業は、レコーダー全体で見ると36.1%のシェアでトップを走る。次世代ディスクへの移行を睨みながらも、BDだけでなくDVDレコーダーにも力を入れる同社の狙いと今後の販売戦略について担当者に取材した。

●'07年末商戦はDVDへのハイビジョン記録が好評、BD・DVDレコ共に品切れに

 「ここまで次世代レコーダー市場が急激に立ち上がるとは正直予想していなかった」――松下電器産業・パナソニックマーケーティング本部・商品企画グループ・ビデオチームの助川学氏は、07年の年末商戦をこう振り返る。それまで台数構成比で一桁台だった次世代レコーダーが、全体の約2割にまで急成長したからだ。要因を「ユーザーはやはり高画質なフルハイビジョンがディスクに記録できるレコーダーを待っていたのだと思う」(同)と分析する。

 07年11月に松下が発売したBDレコーダー3モデルには、DVDにフルハイビジョン(フルHD)が記録できる機能(4倍録り)を世界で初めて搭載した。これまではフルハイビジョンデータをDVDに記録することはできなかったが、「MPEG-4 AVC/H.264」という圧縮技術を使って解決したものだ。もちろん「MPEG-4 AVC/H.264」ならDVDだけでなくBD、HDDにも長時間録画が可能というオマケまでついた。

 従来のDVDにもフルハイビジョン記録ができるという、この機能がユーザーに支持され、品薄になるほどの人気を呼んだ。助川氏は「年末という商機でモノが足りず、年明けではお客様が離れてしまうかと思ったが、松下でなくては絶対買わないと待ってくれている人が多い。12月に製品を十分に用意できていたらソニーに勝てていたかもしれない」(同)と語った。

 発売直後から人気があったのは、ミドルクラスの「BW800」とハイエンド機「BW900」。予測を上回る注文数で、12月頃から一部の店舗で品切れが発生。さらにBDレコーダーがなくなったためにDVDレコーダーも人気が高まり、BD・DVDの両方で一時生産が追いつかなくなった。

 08年の次世代レコーダーの動向については「方向性としてはBDで間違いがない。BDレコーダーは、ユーザーから見れば薄型テレビと同じで間違いなく欲しい商品。売れ始めれば薄型テレビと同じくらい普及は早いはず」。今は各社商品がなくて勢いが途切れているが、「他社含めて製品がそろってくれば、販売台数の構成比で08年は4割、09年は7割に達するということも十二分に考えられる」と予測する。

●BDレコーダーとDVDレコーダーの併売戦略とその狙い

 BDレコーダーが「08年には4割」と予測する同社だが、一方で従来のDVDのみの記録に対応したレコーダー「ハイビジョンDIGA」3機種もBDレコーダーと同時に発売。さらに08年2月中にDVDレコーダーの新製品を追加発売する予定で、BD以上にDVDレコーダーに力を入れているようにも見える。

 その理由については、「次世代が増えたとはいえまだ2割。DVDレコーダーの市場が8割ある中でBDだけでやっていくということはしない」(松下電器産業・助川氏)と説明し、「DVDとBDの両方のレコーダーを展開する『全面作戦』で、トータルとしてトップシェアを獲得していく」と併売作戦の狙いを話す。

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 実際に、次世代レコーダーに限ると12月のメーカー別販売台数シェアは松下は23.7%でソニーの61.1%に大きく離されて2位だが、DVDレコーダー全体で見ると36.1%で松下が1位、BDでトップのソニーは3位で「全面作戦」が成功していることが分かる。


 さらに松下のDVDレコーダーからBDレコーダーまでそろえるフルラインアップ戦略は、BDレコーダーの拡大にもつながるのだという。それはまず、ユーザー数が最も多いDVDレコーダー市場で3モデルをそろえることでユーザーの入り口が大きく確保できることにある。そして大容量のBDが使えるレコーダー3モデルでも「4倍録り」という機能を切り捨てなかったことで、ハイビジョンの長時間記録という機能を求めてDVDレコーダーを買いに来たお客にBDレコーダーを勧めやすい。例えば「価格は多少上がるが、同じ『4倍録り』機能が使えて、さらにBDが見られるようになりますよ」とBDレコーダーに誘導ができるのだという。

●ターゲットはVHSからの買い替えと2台目需要、08年の松下のレコーダー戦略

 しかし、肝心のDVDレコーダー販売にも課題が残っている。07年のレコーダー市場は1年を通して販売台数の前年割れが続いた。松下では、VHSデッキやアナログチューナー搭載レコーダーからデジタルチューナー搭載レコーダーへの買い替えがあまり起きていないことが原因と分析。そこで、VHSユーザーのDVDレコーダーへの買い替え促進と、さらにDVDレコーダーの2代目需要の喚起を狙う。

 「次世代DVDレコーダー以外の録画機器の構成比はDVDレコーダーが4割で、VHSを使っている人が6割」(松下電器産業・助川氏)もいる。買い替えが進まない原因は、今まではVHSユーザーに対して、4倍録りやフルハイビジョン録画などの性能面ばかりを宣伝して、「ハイビジョンならではの高画質や、再生時に頭だしが不要になるHDD録画、電子番組表の便利さといったレコーダーでは当たり前だがVHSにはなかった便利さのアピールが不足していた」ことが問題だったという。

 また、特に高齢者層は、まだVHSを使っている率が高い。彼らにとって一番の買い替えの障壁になっているのは「操作が難しそうというイメージ」だという。これに対してシャープが発売したHDD非搭載、DVD記録にも非対応でBDだけをビデオテープのように使う「『分かりやすさ』を打ち出したレコーダーが1つの回答」だという。松下としては、同社の「テレビとの連携やビデオカメラとの連携機能をうたうビエラリンクを強化し『使いやすさ』を実現する」ことで訴求していくとした。

 さらに同社は、2台目需要までもDVDレコーダー市場で取り込もうとしている。「VHSはDVDレコーダーが発売されていからどんどん価格が下がり、子ども部屋にまで入るようになって普及率が伸びていった」(同)ことから、2月に発売する新モデル「DMR-XP12」は、奥行きを242mmと従来の約3分の2に小型化。省スペースなレコーダーで、リビング用途以外にも子ども部屋や寝室などセカンドルームでの需要を取り込んでいく狙いだ。


 松下は、DVDレコーダー市場でラインアップを拡充してユーザーを取り込み、そこからのステップアップでBDレコーダーシェアの拡大も狙う2段階戦略で、レコーダー市場全体でトップに立つ。しかし一方には、BDに一本化して経営資源の集中を図り、BDレコーダー市場の早期確立を目指すソニーの存在もある。さらにシャープも2月中にHDD搭載のBDレコーダーを発売する予定で、激戦は必至だ。08年のBDレコーダー市場からは目が離せそうにない。(BCN・岡本浩一)


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