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  • 【対談連載】速水林業 代表取締役 NPO法人 日本森林管理協議会(FSCジャパン) 副代表 速水 亨(上)

誰が見ても感動するほど 美しい山をつくりたい――第315回(上)

千人回峰(対談連載)

2022/10/14 08:05

速水 亨

速水 亨

速水林業 代表取締役

構成・文/浅井美江
撮影/笠間 直

週刊BCN 2022年10月17日付 vol.1942掲載

【三重県紀北町発】“みどり緑した”山が好きで38歳の時から毎週のように登っている。荒れた山、手入れの行き届いた山といろいろだが、ある時ふと「この山は、いくらなんだろう」と思ったことがある。ソロキャンプの流行で、「山を買う」人が増えているとも聞く。山には登るが、山のことはよく知らない。日本の山は、森は、木はどうなっているのか。日本林業界のトップリーダーである速水亨さんに教えていただこう。舞台は深く濃い緑が広がる速水さんの山「大田賀山林」だ。
(創刊編集長・奥田喜久男)

2000年を境に変わった山の価値

――速水さんに案内されて麓の山小屋の中へ――

奥田 ああ、ひんやりと気持ちがいいですねえ。下の暑さとは大違いです。さて、僕は山が好きでよく登るんですが、山や森のことをよく知らないなあと…。今日はいろいろご教授をお願いします。

速水 わかりました。

奥田 先ほど2枚の名刺をいただきましたが、速水さんが副代表をされているFSCはどういう団体なんでしょうか。

速水 FSC(Forest Stewardship Council)、森林管理協議会は、経済だけでなく人権や環境も含めた「適切な森林管理」を守ろうとしてできた非営利の国際団体です。1993年に設立され、日本では2000年に私が最初に導入しました。

奥田 設立時に日本は入っていなかったんですか。

速水 安心・安全に関しての意識が高いとされている日本ですが、森林管理については原産国の人権など環境や社会に対する意識がとても低いんです。先進国の中で最も低くて、「食べていくには少々のことは仕方がない」的なところがありまして…。

奥田 そうなんですか。

速水 本来は消費者が知っていればいいんですが、そうした教育もあまりない。受験科目に“環境教育”を入れていただけると、日本のレベルはぐっと上がると思いますね(笑)。

奥田 ああ、確かに(笑)。速水さんの山がFSC認証を取得されてからの動きはどうですか。

速水 徐々に増えて、21年の時点で34件の森、面積にして約41万ヘクタールが認証を取得しています。

奥田 じゃあ、そこに関しては少し意識が高まっているんですね。それ以外の山の状況はどうなんでしょう。

速水 00年くらいを境に、山の価値がものすごく下がりました。例えば、うちは先祖から230年かけて1000ヘクタールまで増やしたんですが、知人は8年で1500ヘクタールにしました。

奥田 え…(しばし絶句)

速水 そもそも山というのは投資なんですが、木材価格の下落で、リターンが激減。それによって土地に対する意識が低くなり、森林の境界がわからなくなり、森林の手入れをせず、木を切っても新しい木を植えなくなってしまいました。今、伐採した山の7割が木を植えていない状況です。

奥田 00年以前は違っていたんですか。

速水 木の値段には、立木代(立っている木自体の値段)、丸太としての値段、そして柱や板など製品の値段があります。00年以前は、立木の値段は、製品価格の3割くらいを占めていた。つまり製品が1万円で売れたら、立木には3000円の価値があったんです。それがどんどん落ちて今は2%です。

奥田 ということは1万円で売れても200円…。

速水 ピーク時は、立木代だけで1ヘクタール1500~3000万円で売れた山が、今は丸太に加工しても手元に300万円残るか残らないかです。

奥田 桁が全然違いますね。ということは、産業としての規模も減少して。

速水 そうです。全体で2000億円か3000億円といったところでしょうか。

奥田 うーむ。厳しいですねえ…。

速水 ただ、きのこを入れると4000億円になります。

奥田 きのこって、あの食べるきのこですか。

速水 はい。きのこは林業なんです。昔は山で採れていたので確かに林業だったんですが、今は施設で育てますから農業じゃないかと思ったりしますけど。

奥田 きのこが林業。それも初めて知りました。

家業を継いだのは楽しそうに
仕事をしていた父親の影響

奥田 ところで、速水林業は江戸時代から続いていて、速水さんはその9代目ですよね。小さい頃から家業を継ぐように言われていたのでしょうか?

速水 いや、特には言われていません。9代目とかも聞かれれば答えますが、自分から言うことはないですね。

奥田 それはなぜですか。

速水 何代目というのは過去ですよね。僕は常に前を向いていくべきだと思っていて、後ろを振り向くことがあまりないんです。

奥田 でも家業は継がれました。

速水 父がすごく楽しそうに仕事をしていたからです。それにつきますね。

奥田 お父様はどんな風に楽しく仕事をされていたんですか。

速水 父は林業という仕事が本当に好きでした。従業員といつも楽しそうに仕事をしていましたし、お付き合いのある材木屋さんとも単に「売る」「買う」ではなくて、お互いの仕事を高め合うような雰囲気がありました。

奥田 そういうお人柄だったんですね。

速水 人気度で言うと、私の10倍くらいありました(笑)。

奥田 お父様のことを三つほど褒めていただけますか。

速水 (少し考えて)家の中は別として、外に対してはまったく平等でした。差別をする、しないとかでなく、そもそも差別という意識がありませんでした。

奥田 二つめは。

速水 求められれば、誰でも助けたこと。

奥田 救済能力ということですかね。では三つめは。

速水 探究心。常に勉強していた姿が浮かびます。

奥田 ありがとうございます。見事な答えをいただきました。

速水 いやいや。こんな風に父のことを尋ねられたのは初めてなので、次に聞かれたら違うことを答えているかもしれません(笑)。

奥田 お父様は楽しく仕事をしていらした。速水さんはいかがでしょう。

速水 楽しいですよ。森林というのは木だけじゃなくて、草や微生物とか生きているものの塊なんです。そうした自然と対話しつつ管理をして、山をつくっていくのは本当に楽しい仕事です。僕は誰が見ても感動するほどの美しい山をつくりたいんです。女性が口説けるほどの美しさを持った山をね。

奥田 いいですねえ(笑)。その山にはどんな森が似合うんでしょうね。

速水 豊かな森がいいですね。生命があふれるような豊かさがある森。それで人工林というのがいいです。シンプルに言えば、まっすぐなヒノキがちょうどいい間隔で立っている山の中に、豊かに広がる下草が広がっていて中間には広葉樹が生えて。――立ち上がり、ホワイトボードに絵を描いて説明――

奥田 今描かれた植生図は、速水林業に代々伝わるものですか。

速水 親父と僕で考えました。こうして人工林を育てる過程で、森林環境をすばらしいものにしていこうとあれこれ考えるわけです。ね、楽しいでしょ?

奥田 確かに(笑)。

速水 そうやってつくったうちの山には、年間1000~2000人が見学にいらっしゃるんですが、皆さん気に入ってくれているようです。後でご案内します。

奥田 ありがとうございます。それにしてもすごい数の方々が見学に。

速水 一番多かった時は4000人でした。

奥田 速水さんの山と知って、見学にいらっしゃるわけですか。

速水 一応、林業界では名前が知られていますから(笑)。

奥田 でも、ここは結構どこからも遠いですよね。

速水 林業地はどこでも遠いものですよ。(つづく)

お父様から譲り受けた
腰鉈と鞘

 鈍い光を放つ年季の入った鉈は、速水さんのお父様が刀鍛冶の方に打たせたという一品。先端が四角い形をした腰鉈は、枝打ちや草払いなどさまざまな山仕事に欠かせない。移動の際は鉈を鞘に収め、付属の真田紐を腰に結わえて吊り下げる。
 

心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)
 
<1000分の第315回(上)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。

Profile

速水 亨

(はやみ とおる)
 1953年三重県紀北町生まれ。中等部から慶應義塾に進学。76年慶應義塾大学法学部卒業後、家業の林業に従事。77年~79年東京大学農学部林学科で研究生として林学を学ぶ。日本でいち早く高性能林業機械による山林作業の効率化を実現。2000年世界的な環境管理林業の証であるFSC認証を日本で初めて取得。農林水産省林政審議会委員、(一社)日本林業経営者協会会長等を歴任。現在は三重県の林業を中心に尽力。01年朝日新聞「明日への環境賞」森林文化特別賞、18年第57回農林水産祭天皇杯(妻・速水紫乃と共に)など受賞多数。著書に『日本林業を立て直す』(日本経済新聞出版社)、『森林未来会議』共編著(築地書館)など。

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