NPO法人ITジュニア育成交流協会は、協賛企業などの協力によって、2011年度にIT系コンテスト全国大会出場校など、情熱ある先生方が在籍する高校の部活動に対して、リユース(中古)PCを寄贈斡旋する事業を開始した。「プログラミング技術の習得には、自由に使えるパソコンがどうしても必要だ」という教育現場の声に応えたかったからだ。パソコンを手にした子どもたちは躍動する。そこには、巷間揶揄される「オタク」の要素はかけらもみえない。(本紙主幹・奥田喜久男)

2016.1.29/東京・千代田区のBCN22世紀アカデミールームにて
 
心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
株式会社BCN 会長 奥田喜久男
 
<1000分の第158回(下)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
 

教員

下村幸広 北海道旭川工業高校
平子英樹 宮城県工業高校
三澤 実 長野県松本工業高校
山岸貴弘 愛媛県立松山工業高校
 

IT企業経営者

浦 聖治 クオリティ 代表取締役
西尾伸雄 ドスパラ 代表取締役社長
 

ITジュニア育成交流協会

高橋文男 理事長
真木 明 理事
 

司会・進行

奥田喜久男 BCN 会長兼社長
 

リユースPCが成長を助ける

高橋 ITジュニア育成交流協会は、企業で使ったPC(リユースPC)を高校に寄贈するプログラムを行っていますが、開始したきっかけは、高校生が自由に使えるパソコンがないというのをお聞きしたことです。

山岸 リユースPCは、たとえ壊れても、分解してどこが壊れたのかを生徒たちが調べて、パーツを組み合わせて直すことができます。こんなことは授業ではできない。生徒たちはいい勉強になっています。これがうちの部活動の強みになっていて、ありがたく思っています。
 

「先生方と協力しながら、次の世代の人をたくましく育てていきたい」と話すクオリティの浦代表取締役(左はドスパラの西尾社長、右は協会の高橋理事長)

平子 去年の4月に1年生が20人以上入って、パソコンが足りなくて、上級生がリユースでいただいたパソコンのスペックを全部調べてセットアップして、新入生に1台ずつ渡しました。自由に使えるパソコンがあるのはいいですね。

山岸 学校のパソコンは絶対に壊したらだめなんです。他のソフトを入れてもいけない。リユースPCは、何をしてもいい。生徒ってものを壊して成長するというところがありますので、リユースPCはほんとにありがたい。

三澤 部員がたくさんいますから、うちもたくさんいただいています。宮城県工業さんと似たような感じで、セットアップしてリナックスを入れて、部活動で使っています。「家に持って帰っていいよ」と言うと、喜ぶんですね。自由に何をしてもいいというパソコンがあるのが、生徒の力を伸ばしていくんです。

高橋 リユースPCが伸びる力のお役に立てているというのはうれしいですね。

 ITジュニア育成交流協会はいいことをしてるんだな、と改めて感じますね。

三澤 どの学校も同じだと思いますが、自分のやりたいことが学校のパソコンではできないというもどかしさがあって、そこをリユースPCに埋めていただいている。パソコンを使ってみて、便利さや楽しさに気づくと、使い続けるんですよ。

西尾 きっとそうですよね。

三澤 クラブのメンバーは今のところそこはクリアしていますが、部員以外はパソコンをもっていないので、触れる機会がないまま卒業していくというのが現状ですね。

下村 ものをつくる学校ですので、何かやろうとしたら必ずパソコンを使う。だから、うちはパソコンから離れていくんじゃないかなという心配はしてないですね。
 

子どもにはとにかく自由にやらせる

真木 協会の事務局には全国地図が貼ってあって、高専プロコンや高校プロコン、U-22プロコンなどで表彰された学校の所在地に印をつけているんです。そうすると、不思議なことに大都会には印が少ない。先生の差なんでしょうか、制度なんでしょうか。

山岸 先生って、採用されたらすぐに現場ですから、実践ができないんです。初任者研修などはありますが、技術的な研修はなかなか難しいです。

下村 それと、今は自由に自分の信念で、土曜も日曜もやることが、ちょっとやりにくくなっているのかなと思います。

三澤 思いますけれども、やってます(笑)。リスクはありますが、そこを耐えられるかどうかじゃないでしょうか。

下村 スマートにやりたいけれど、どうしても土・日曜も夜は遅くなってしまう。好きだからできるんですよね。「趣味=指導」と思っていないと、やっていけない。

 ここにいらっしゃる先生方は皆さんそうなんですね。三澤先生にうかがいたいのですが、設計からものづくりして、プログラミングして、トータルでシステムをつくるなかで、生徒さんによって、これが好き、あれが好きと分かれるわけですか。トータルシステム的な発想をする人は、われわれ企業にとっては非常にありがたいんですが。

三澤 専門というのは、あってないものだと思っています。何か一つできる生徒は何でもできます。本人が気づいていないだけで、一つ好きなことを伸ばしてあげれば、あとはついてくる。トータルのことができる生徒はスーパーマンではなくて、一つのことができることによって、他のことができるようになったということです。

 すばらしいですね。教育の理想ですね。

下村 自信がつくんですよ。

平子 生徒たちは、高校で大きく変わります。すごく大きな伸びしろがあります。部活動は指示してやらせるんじゃなくて、自分たちで考え、先輩から後輩に教えて、それがつながっていく。われわれはきちんと歩んでいるかをみて、何かあればちょっとアドバイスするだけ。それはみんな共通じゃないですかね。
 

「何か一つできる生徒は何でもできます。本人が気づいてないだけ」と松本工業の三澤先生(左は松山工業の山岸先生)

三澤 自由にやらせて、柵から出たら中に入れますけれど、柵の中ではネタだけを用意して、自由にやらせていますね。

平子 生徒たちは想像を絶するようなすごい力をもっているので、進むべき方向に導くだけで、どんどん伸びていきます。

 皆さんのような指導者がおられる学校は非常に幸運だと思いますが、そうじゃないところがそうなっていくにはどうしたらいいんでしょうか。

山岸 全国どこでも熱心な先生はいらっしゃるんですが、技術的なところはどうしたらいいかわからない先生が多いと思いますね。

下村 ある程度回り出したら、指導はらくになってきます。

奥田 BCN ITジュニア賞が11年目を迎えて、確信していることがあるんです。本当に優秀な子どもは、すぐれた先生のもとで育つということです。
 

IT企業の現場を見せてあげたい

山岸 生徒たちは、2年生になるとインターンシップに行きます。ただ、県内にIT企業がほとんどなくて、IT企業に行きたい生徒が体験できない。仕事の現場を目の当たりにしたら、本気になると思います。IT企業に入って何をするのかのイメージが、生徒たちにはさっぱり湧いてこないんです。

高橋 そういうニーズって、他の先生もありますか?

下村 インターシップ先は困っています。ただ、地方だと、交通費などの制約があって、現実にはやはり地元の企業ということになります。行かせてやりたいのはもちろんですけれど。

高橋 高校生のインターンシップって、期間は1週間くらいですか。

山岸 うちは5日間ですね。

三澤 長野県は3日間です。

高橋 3日間だと、地元じゃないと難しいですね。

平子 うちは全員が行っているわけではないのですが、地元のIT企業にお世話になって、10日間ですね。高校生なので、自宅から通うのが前提です。ただ、高校生のうちにIT企業の現場を体験できるというのは、大事なことだと思いますね。
 

「子どもたちに現場のエキサイティングな経験をさせてあげたい」とインターンシップについて要望を語る先生方(右から宮城県工業の平子先生、旭川工業の下村先生、松本工業の三澤先生、松山工業の山岸先生)

下村 子どもたちに現場のエキサイティングな経験をさせてあげたいんですけれど、制約のなかでやるのは、なかなか難しいのが現実ですね。

高橋 1週間くらいだと、仕事場の雰囲気はわかるけれど、仕事の中味はなかなかわからないかもしれませんが、協会の協賛企業の方と相談してみます。何かお役に立てることがあるかもしれません。

奥田 いろいろなお話が出ましたが、ITジュニア育成交流協会の協賛企業として、最後に浦さん、西尾さん、ひと言お願いできますか。

 われわれ企業として、学校ですばらしい学生さんを育てていただけるというのは、大変うれしいことです。先生方と協力しながら、次の世代の人をたくましく育てていきたいな、と改めて感じています。

西尾 いろいろなお話をおうかがいして、今まで知らなかったことに気づくことができました。これからの日本を背負っていく子どもたちを熱心に指導されている先生方のお手伝いを、微力ながらできればと思っています。

奥田 また一つ勉強して、課題をいただいたように思います。今日は有意義な時間を過ごすことができました。ありがとうございました。(おわり)

こぼれ話

 座談会の会場には8人が勢揃いした。松山市、松本市、仙台市、旭川市から工業高校の先生4人、法人から2人、NPO法人ITジュニア育成交流協会から2人。議論は早いテンポで進んだ。5年前、工業高校や高専の先生方に言われた。「子どもたちはパソコンで自由にソフトを組みたいのですが、パソコンが不足しているんです」。この実情に応えるべく、NPO法人の高橋文男理事長と真木明理事はリユースPCを提供する仕組みをつくった。

 毎年、先生方に希望するリユースPCの必要台数を聞き、その一方で企業に掛け合って廃棄するパソコンのデータやOSを消去していただき、いくつかの手続きを経て、先生方に渡していただく。NPO法人は先生経由でパソコンが必要な子どもたちと企業の橋渡しをする。苦労の多い懸け橋役だが、「子どもたちの喜ぶ顔を見るとエネルギーが充電される」と高橋理事長と真木理事はほほ笑む。お二人は定年退職後のボランティア活動として、その役を買って出てくださった。

 実は、私たち三人は1971年4月、同じ時に社会人になった。お二人は東芝の電算機事業部に、私は電波新聞社で働き、取材の現場で出会った。それ以来、時折会っては近況を確かめていた。2010年からはNPOの理事として現在に至っている。その時の風景はこうだ。「奥田さんは、どうせ儲からない仕事をしてるんでしょ。仕事に専念してよ」と口の悪さは相変わらずだ。「ものづくりの火を絶やしてはならない」「東芝の社員として働けた恩を社会にお返ししたい」と。大切な仲間だ。