中国の“ゲーム基地”成都で学生たちのスキルを高める――第139回(上)

千人回峰(対談連載)

2015/07/09 00:00

中村 文彦

中村 文彦

ガルボア 専務執行役員

構成・文/小林茂樹
撮影/津島隆雄

週刊BCN 2015年07月06日号 vol.1586掲載

 年間150日が出張で、そのうち120日を成都で過ごすという中村文彦さん。これだけ東京と成都を行ったり来たりしているのは、コミュニケーションをきちんととることが国際協業をうまく進めていくうえで不可欠だからと話してくれた。委託先である現地のゲーム会社に月に一回は顔を出し、ときにテーブルを叩いて怒るようなことがあったとしても、基本的には相手の立場を尊重する。それが、日中間のビジネスを成功させるコツだという。(本紙主幹・奥田喜久男)

2015.4.21/東京・新宿区高田馬場のガルボア本社にて
 
心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
株式会社BCN 会長 奥田喜久男
 
<1000分の第139回(上)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
 

幼児の知育から高齢者の認知症予防までを視野に

奥田 中村さんのガルボアは、一昨年10月設立の若い会社ですが、中国の成都と東京を主な拠点にされています。どんなビジネスモデルなのでしょうか。

中村 まず、成都で開発されたスマートフォン向けゲームの日本やアメリカへの代理販売をしており、中国語から日本語や英語へのローカライズを行っています。将来的には世界にマーケットを広げようと考えていますが、はじめは日本での地盤固めですね。

 2番目は、ガルボアが企画したゲームを、中国のゲーム会社にアウトソーシングするビジネス。そして3番目は、例えば成都のゲーム会社が企画してきたものに対して投資し、共同著作のかたちで開発を進めることですね。ゲームそのものは、無料ダウンロード、ゲーム内課金という形態が主となっています。

奥田 ゲームソフトハウスと考えていいですか。

中村 デベロッパー(開発者)でもあり、パブリッシャーでもあります。ここでいうパブリッシャーというのは、例えばGoogle playやApp Storeに対して、マーケティングを含めて展開していくということですね。そこでダウンロードされて課金されたものが、当社の売り上げになるわけです。現在はスマートフォン(スマホ)のゲーム開発に注力していますが、将来的には、ゲーム化された学習コンテンツもつくっていきたいと考えています。

奥田 どのようなイメージのものですか。

中村 年代別に対象を分けているのですが、2~6歳の子ども向け知育ゲーム、小中高生向けの学習コンテンツ、18歳以上の層に向けた学習コンテンツ、そして高齢者向けの認知症予防ゲームなどの開発に着手する予定です。

 例えば2~6歳の知育ですと、子どもが熱中するキャラクターと一緒に楽しくゲーム感覚で勉強できるものです。小中高生向けでは、例えば歴史であればその背景についてゲームの要素、マンガやアニメーションなどを取り入れたものを考えています。18歳以上向けのものは、いわゆる資格試験などを含めた学習コンテンツを想定していますが、どうしても堅くなりがちなので、それをいかに楽しく学べるかがカギ。主な対象となるF1層(20~34歳の女性)やM1層(20~34歳の男性)は、アニメ・マンガ世代、そしてスマートフォンのゲーム世代ですので、そういった遊び感覚で知識を身につけられるコンテンツがつくれればいいなと思っています。それから老年層に関していえば、音楽療法の団体と一緒にどのようなゲームをつくればいいかを検討していますが、このエリアは2~6歳の子どものエリアとほぼ似たようなところがありますね。

奥田 なるほど。あまり認めたくないところですが、そうかもしれませんね(笑)。

中村 だから、おじいちゃん、おばあちゃんが子どもと一緒に遊び、教育もしながら認知症予防ができたらおもしろいかなと思っています。今年は、その領域をいくつかテスト的にアプローチし企画していく予定です。

奥田 ところで、なぜ成都を事業拠点として選ばれたのでしょうか。

中村 成都には、ゲーム会社が600社も700社もあるといわれています。そして、ゲーム開発の教育をしている学校も多く、開発志望の学生がたくさんいることもメリットだと思います。中国にはゲーム基地といわれる都市がいくつかあるのですが、例えば成都にはスマホ系の技術者が集まり、北京にはPC系の技術者が多く集まっているといわれています。

奥田 成都のゲーム会社は、人数にするとどのくらいの規模ですか。

中村 小さい会社で15人くらい、大きい会社ですと100~200人の従業員がいます。ジャンルや形態はいろいろですが、平均すると1社50人ほどで、トータルで2万~3万人の開発者がいるといわれています。私どもは複数のゲーム会社と取引があるので、ミニゲームであれば、自社企画を成都で7~8本は並行して開発できます。

奥田 これまでに出したゲームは何本あるのですか。

中村 昨年9月の東京ゲームショウに7本のゲームを出したのが、実質的な営業開始ですね。今年は、共同開発を含め、成都と東京で合わせて合計30本ほど開発してリリースする予定です。

奥田 1年半で30本というのはすごいですね。

中村 ちょっとおかしいほど多い本数ですが、ぜひ実現したいと思います。
 

社会人ではなく学生の発想に着目

奥田 昨年、成都でコンテストを開いておられますね。

中村 はい。「“ガルボア杯”成都学生ゲーム開発コンテスト」というのですが、成都市のアウトソーシング協会とアニメ・ゲーム業協会の協力を得て、11月26日に最終的な発表会を開催しました。

奥田 これは学生だけを対象としているのですか。

中村 そうです。当初、社会人を対象にしないのかとか、学生はそれほど能力がないから、いい作品は出ないなどといわれました。ただ、コピー文化の中国でオリジナリティを求めるには、学生の新しい発想を取り入れたほうがいいと思って対象を絞り込みましたが、その点では成功したとみています。

 このコンテストでは、デザイン部門とゲーム開発部門それぞれで1位から3位入賞までを決め、そのほかに佳作が3本ずつ、そのほか、ガルボアが選定する特別賞を設けています。特別賞は、入賞、佳作以外でガルボアが最も高い評価をした作品に与えられ、この特別賞を獲得した学生を日本に招待するという企画を立てたところ、今年1月16日に開催された『BCN ITジュニア賞 2015』の表彰式で特別賞をいただけることになりました。

奥田 学生さんが3人と指導された先生2人がいらっしゃいましたね。子どもたちの様子はどうでしたか。

中村 とても喜んでいました。日本に招待されて、さらに表彰状までもらって帰れたのですから。それで、彼らは就職活動のときに、そういうコンテストに入賞したり特別賞をもらったということが、ある種のエビデンス代わりとなるそうなのです。ですから、当社もきちんと日本語で「ガルボア」という社名のハンコを押した賞状を渡していますし、同じようなかたちで、『BCN AWARD』でいただいた賞状も使わせてもらっています。(つづく)

 

七福神が乗っている招き猫

 「福もお金も」と、両手を挙げている招き猫はめずらしい。ふだんは、オフィスの入口にキャラクターの「ボアボアくん」と一緒に飾られているそうだ。

Profile

中村 文彦

(なかむら ふみひこ) 1987年、日本IBM入社。お客様担当ITスペシャリスト、M&A先であるTivoli、zシリーズ、Rationalのソフトウェア技術部長、ブランドマネージャーなどを経て、2008年、同社退職。シトリックス・システムズ・ジャパン入社。システムズ・エンジニアリング部統括部長などを歴任。09年、教育系企業に移り、CIO補佐を務める。13年10月、ガルボアを設立し、現在に至る。