プレミアムな使用者経験こそがシェアアップをもたらす――第94回

千人回峰(対談連載)

2013/12/13 00:00

ボブ・セン

日本エイサー 代表取締役社長 詹國良

構成・文/小林茂樹
撮影/津島隆雄

奥田 現在の市場で成功するためには、どんなことが必要だと思いますか。

 当社はチャネルビジネスをメインにしていますが、そのなかで心がけていることは「チャネルをハッピーにできれば、当社もハッピーになれる」ということです。ですから、その部分で双方の思いが一致するような施策を、スピーディーで、しかも集中的に行うことが大切ですね。

 ただ、ここのところ市況全体が変化してきており、過当競争によってコンシューマ向け製品の売上げがかなり下落しているのをみると、全体が再編されなければいけない時期にきているのではないかと思います。私からみれば、不振の原因の一つは、パソコンのイノベーションのスピードが足りないこと。ユーザーに、絶対に買い替えなければならないと思わせる要素が欠けているのだと思います。もちろん、スマートフォンやタブレットにシェアを奪われたというのは事実ですが、パソコンとしてもっと進化すべきですね。

 その一方で、私は価格面、品質面、物流面、それからプロダクトライフサイクルの面でも、日本でもなるべくグローバルスタンダードを適用できるように努力していますが、まだまだその壁は高いですね。

奥田 日本市場はガラパゴスだと。

 そうですね。どうしても日本特有の部分が残っていますね。

奥田 それは、どんなところですか。

 例えば、商品を出すスピードですね。スペックや品質に100%を求めるのではなく98%でも許容されるならばもっと早くできるわけですが、日本の立場からすると絶対100%でなければいけないというのは、やはり独特ですね。98%と100%の違いはたった2%ですが、それにかけるコストと時間は2%ではなく、ときには20%、ときには200%になります。

奥田 それでも100%を求められれば、それに応えていかれるのですね。

 はい。私の担当は日本のマーケットですから、お応えしなければいけないと思います。ただ、グローバルな製品をリリースするとき、日本語バージョンの発売はだいたい1か月遅れです。なぜ、余計に1か月かかるかといえば100%を求めるからです。これはアップルでもHPでも同じですが、私の理想は世界同時発売です。私はものづくりの立場にはありませんが、商品企画の立場からこれをなんとかできないかと、いろいろ社内でチャレンジしています。

奥田 それは可能ですか。

 絶対に100%を求めるというのであれば、それは難しいでしょう。ただ、時間はかかると思いますが、私が考えているようなかたちに近づけることは可能だと思っています。業界全体としても、今後グローバルスタンダードとの融合は必要です。いろいろなリソースを日本のマーケットに取り入れ、日本からも外に出て行って吸収するというのが、自分が挑戦したい領域ですね。

奥田 エイサーには、大切にしているものづくりの哲学のようなものはありますか。

 いま、社内で掲げているのは、breaking through between technology and people(人とテクノロジの間の壁を取り除く)という標語です。技術者が想定する商品の使い方と消費者が求める利便性や好みは必ずしも一致しないわけですが、エイサーのミッションは、最新の技術をいち早く商品化し、合理的なコストパフォーマンスでお客様に使ってもらえることと定めたのです。これが、一番大切にしていることですね。

奥田 今後、エイサーはどんな未来をつくっていくのでしょうか。

 これまでのエイサーは、スケール(マーケットシェア)とスピードが成功の方程式であると考えてきましたが、マーケットにおけるユーザーの嗜好はだいぶ変わってきました。今は、安い製品でも高い製品でも、単純なコストパフォーマンスではなく、プレミアムなユーザー・エクスペリエンス(使用者経験)を与えられなければならないという考え方に変化したのです。つまり、支払った金額以上の満足を与えることができれば、それは必然的にシェアアップにつながっていくのだと思います。

奥田 なるほど、それが新しい成功の方程式というわけですね。

「新しい成功の方程式を見つけたわけですね」(奥田)

(文/小林 茂樹)

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Profile

ボブ・セン

(ボブ・セン)  1968年、台湾生まれ。90年に来日し、95年に専修大学商学部商業学科を卒業。日系の自動車部品販売会社でプロダクトマネジメント業務に従事した後、98年、日本エイサーに入社。02年に事業本部長に就任し、03年2月より現職。