経営の基本は人づくり。言葉が伝わらなくても、心は伝わる――第80回

千人回峰(対談連載)

2013/02/27 00:00

舟橋 千鶴子

舟橋 千鶴子

ユース・情報システム開発 代表取締役

構成・文/小林茂樹
撮影/大星直輝

 奥田 日本語仕様のプログラミングをするということは、日本語学校もプログラミング教育をする学校も必要だと思いますが、ミャンマーにそういう施設があったのですか。

 舟橋 ミャンマーには日本語学校もあります。自主的に通っている社員もいましたが、今回10名の社員に対して、会社として強制的に毎日1時間ずつ通訳による日本語教育を行いました。それから、地元のヤンゴン大学にはIT関連の学部がありますし、コンピュータの専門大学もあります。ただ、大学を出ただけでは戦力にならないので、ACEの場合は、大卒者に対してトレーニングセンターで4か月間教えて、その後はOJTで3~4か月、さらに3か月の試用期間を経て採用するというかたちをとっています。

 奥田 今後はミャンマーでどのような展開を考えておられますか。

 舟橋 中国、インドの次には、ベトナムやタイでのオフショア開発が注目を浴び、それに続いてミャンマーでのオフショア開発の可能性が出てきました。そんな事情があって、ACEからはぜひミャンマーに残って社員教育をしてほしいと依頼されました。ACEとはMOU(信頼関係に基づいた覚書)を結んでいますので、引き続きシステム開発の技術教育や品質管理と標準化などの教育、それに日本語教育も実施していきます。その際には、ミャンマーの開発手法を理解しながらも日本の技術のすぐれた部分を取り入れてもらうように教育していきたいと思っています。今後、ユースの開発センターをつくって、ACEをベースとしたオフショア開発を展開していきます。まだ土台づくりの段階ですが、オフショア開発を行うだけでなく、ミャンマーに進出する日本企業のサポート事業やミャンマーの国内市場に向けてICTサービスの提供も展開したいと考えています。

 奥田 ミャンマーというと、まだ遠い場所というイメージがありますが、その魅力はどこにあるのでしょうか。

 舟橋 日本から直行便が飛んで7時間ほどで行けるようになったので、これまでのように乗り継ぎ時間のロスがなく、仕事がやりやすくなりました。それと、魅力として大きいのはその国民性です。親日感情があって、ほとんどが仏教徒であることから、人間の精神といったものを非常に大事にしている国だと感じられます。

 奥田 勤勉ですか。

 舟橋 はい。まだ娯楽も少ないですし、よく勉強していますね。ですから、短期に能力を向上させることができるのではないかと思います。みんな気持ちが素直で、日本からの仕事をなんとか理解してやっていきたい、できるようになりたいという気持ちがものすごく強いですね。

 奥田 ミャンマーでは、共働きの家庭が多いのですか。

 舟橋 男女とも働きますね。ミャンマーの女性は結婚して子どもができても、大家族で面倒をみてくれる人がいるので、働き続けられるのです。

 奥田 おじいちゃん、おばあちゃんと同居しているから。

 舟橋 そう、共働きがあたりまえなんですよ。だから女性の定着率は高く、教えがいがあります。実際、ACEの従業員の7割は女性です。女性が職場に定着して、その仕事を一生懸命やる。その結果、技術力もどんどん高まって蓄積していくという、よい循環ができていますね。

 奥田 やっぱり舟橋さんは人づくりですね。

 舟橋 そうですね。いまACEの社員を預かっていますが、ヤンゴンに行くたびに彼女たちに声をかけたり一緒に食事をすることで、言葉がきちんと伝わらなくても、気持ちは伝わっていると思っています。

「やっぱり舟橋さんは人づくりですね」(奥田)

(文/小林 茂樹)

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Profile

舟橋 千鶴子

(ふなばし ちずこ)  1940年埼玉県熊谷市生まれ。87年9月ユース・情報システム開発を設立し、代表取締役に就任。情報サービス産業協会理事、首都圏ソフトウェア協同組合監事を務める。