異端者がイノベーションを起こす――第12回【後編】

千人回峰(対談連載)

2007/08/07 00:00

水野博之

松下電器産業 元副社長 水野博之

 奥田 投資ファンドというと、半導体の世界でいろいろ動きが激しいようですね。

 水野 三洋電機にはゴールドマン・サックスがついて、半導体事業の売りに動いていますね。1400億円、うち700億円はほかにつけるので実質は700億円というんだけど、これで売れますかねえ。

 三洋の場合、エネルギー回りではいい技術を持っているので、こっちが売りにでれば、中東あたりから買いにくるかもしれませんけど。実は、ゴールドマン・サックスは、エルピーダメモリとパワーチップセミコンダクター(力晶半導体)を一緒にしようとしている節もあります。

 2002年10月、エルピーダメモリが三菱電機のDRAM事業を継承するとともに、パワーチップとDRAM事業の提携を検討することに基本合意したという発表がなされましたが、これはエルピーダに力晶がお金を出すということなんです。

 当時、台湾で開かれていたあるパーティで、日本のダイナミックメモリというコア技術を、台湾メーカーが手に入れたということで、乾杯がなされたといいます。こんな形で技術が流出していくことは、日本にとって大変な問題なんですよ。

 奥田 投資ファンドの目で日本企業を見ると、どんな風景が浮かび上がってきますか。

 水野 部品業者のなかには、いい技術を持ってるところがたくさんありますね。とくに、自動車や弱電関連にはそうした企業が多い。

 例えば、RGBのフィルターを最初に開発したのは兵庫県にある小さな文具系の会社なんです。マーカーを製造していたんですが、その技術を元にフィルターを開発した。光の分散技術というのは難しいんですが、大企業は手をつけにくんですよ。

 いずれにしても、ベンチャー企業、中小企業といえどもグローバルな視野を持たないと生き残っていけない、これだけは確かです。いい技術を持っているのに世界に出ていけない、そんな企業のお手伝いをしていきたいですね。

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Profile

水野博之

(みずの ひろゆき)  1929年4月20日、広島市生まれ。52年、京都大学理学部物理学科卒業。同年松下電器産業入社、松下電子工業取締役を経て、85年松下電器取締役、90年技術担当の最高責任者として副社長に就任、2期4年間務める。現在の関与先は、  大阪電気通信大学副理事長  広島県産業科学技術研究所所長  高知工科大学名誉教授  コナミ取締役  メガチップス取締役  イノベイション・エンジン取締役  イーシリコン・ジャパン技術顧問会 議長  オリンパス・キャピタル・ホールディングス シニア・アドバイザー  45コーポレイション取締役  Japan Patent Development顧問  著書は『大航海時代――ニューフロンティアを求めて――』(コンピュータ・ニュース社刊)など多数。