シャープのAIoT戦略が本格化、食材宅配ビジネスでコト売りを模索

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2017/09/28 19:00

 シャープは9月26日、食材宅配ビジネスに新規参入すると発表した。提供するのは、自社が販売するウォーターオーブン「ヘルシオ」や無水自動調理鍋「ヘルシオ ホットクック」専用の料理キットを宅配するサービス「ヘルシオデリ」だ。従来の家電販売専業ではなく、AIoTを活用して家電とセットのソリューションを提案することで、新しいビジネスの創出に挑む。


シャープ・ぐるなび・タイヘイの異業種3社で新しい食文化の普及を狙う

 シャープが提唱しているAIoTは、日本語に訳すと「モノの人工知能化」といった意味になる。IoT(モノのインターネット化)と異なるのは、AIによる学習や分析が加わることで個人によりマッチしたソリューションが生まれるということだ。

 ここ数年、シャープは「COCORO+(ココロプラス)プロジェクト」と銘打ち、テレビやエアコン、冷蔵庫など幅広いジャンルでAIoT製品を発表しているが、そのメリットをいまいち具体化できていなかった。今回の「ヘルシオデリ」は「とりあえずネット連携する」から「ユーザーが利用することで生活が変わる」というイメージを想起させる段階に、ステップアップしたという印象を受ける。
 

「COCORO+プロジェクト」の製品群

 もともと「ヘルシオ」と「ヘルシオ ホットクック」は調理の時短が売りの製品だが「ヘルシオデリ」を利用することで、最低限必要だった食材の下ごしらえすら不要になる。専用ECサイトもしくは電話で注文すると、冷蔵食材が指定の住所に届く。あとはトレーに並べて「ヘルシオ」に入れ、「おまかせ調理」のボタンを押すだけで、簡単に有名レストランの一品が完成する。
 

「ヘルシオデリ」の注文から完成までの流れと、配送される食材キット

 レシピを監修するのは飲食店情報サイトを運営する「ぐるなび」。外食業界のコネクションを生かし、シェフや飲食店と「ヘルシオ」専用メニューを開発する。また、食材調達・加工は食材宅配の老舗企業「タイヘイ」が担う。異業種3社の連携で、新しい食文化の普及を目指す。
 

ぐるなびの久保征一郎 代表取締役社長(左)、タイヘイの太田健治郎 代表取締役社長(右)

 矢野経済研究所の調査によると、食品宅配市場全体の規模は2兆782億円。シャープは、食材キットのような半完成品の提供は、うち2000億円程度と見積もっているという。長谷川祥典 専務執行役員 スマートホームグループ長 兼 IoT通信事業本部長は「食市場はライフスタイルの変化で家食が伸びており、簡単に調理しておいしいものを食べたいという需要は高い」と、今後の成長にも期待を寄せた。
 

シャープの長谷川祥典 専務執行役員 スマートホームグループ長 兼 IoT通信事業本部長

 価格は1メニュー(2~3人前)あたり税別3800円から。サービス開始時のメニューは現時点で14品を予定。有名レストラン監修という付加価値から価格は高めに設定されているが、今後はよりリーズナブルなメニューの開発も検討している。
 

有名レストラン監修メニューの一例(左から、牛やわらか煮、タジン鍋風ベジ煮込み、
辛いがおいしい牡蠣のスンドゥブチゲ)

 対応機種は「ヘルシオ」が2015年以降の「おまかせ調理」搭載モデル、「ヘルシオ ホットクック」は発売中の全モデル。調理後は履歴がクラウドで共有され、レシピ開発にフィードバックされる。
 

サービスに対応する「ヘルシオ」シリーズ一覧

 調理家電のIoT活用の一例としては、4月にパナソニックが開始したコーヒーサービス事業「The Roast」がある。コーヒー焙煎機とセットでコーヒー豆を定期頒布し、世界各地のコーヒー豆を最適な焙煎で味わうことができるというサービスだ。調理は家電だけでは成立しない。食材の調達が不可欠だ。「つながる」ことが価値になるIoT家電にとって調理は相性がよいといえる。

 また、メーカー側としては家電販売以外の収益を見込める点もメリットだ。「売っておしまい」ではなく「売ってから新しい関係が始まる」というビジネスモデルの転換が、家電メーカー全体で始まりつつある。(BCN・大蔵 大輔)