UPQの中澤優子社長に聞く、なぜビックロで販売できたのか

 日本一の繁華街・新宿歌舞伎町がある新宿東口に立地するビックロ ビックカメラ新宿東口店。トレンドに敏感な多くの若者の目にとまる1Fエスカレータ脇の「一等地」に、17機種、24製品のUPQ(アップ・キュー)ブランドが展示して販売されている(既報=ビックロでUPQの全商品を販売、SIMフリースマホは150店舗で取扱)。UPQは今年7月に会社設立。わずか2か月で製品企画から製造、リリース発表、発売まで立ち上げた中澤優子・CEO代表取締役に、時代の変化の最先端を走る「メイカーズ」としての考え方や展望を聞いた。
(写真・文 BCNランキング 細田立圭志)
 


今年7月にUPQの会社を設立して、わずか2か月で17機種、
24製品のUPQブランドの企画、製造、販売まで立ち上げた中澤優子CEO代表取締役

商品を発表したその日に連絡があった

――8月6日にUPQブランドの17機種、24製品を発表してから、「DMM.make Store」や「二子玉川 蔦屋家電 ヤフー店」などウェブ中心に製品を販売して、10月からはビックロというリアル店舗で全製品の販売をスタートさせました。特に、SIMフリーのスマート フォン(スマホ)は、ビックカメラグループ150店で販売しています。こうなることを予想していましたか。

中澤 最初からこうなると予想して動いていたわけではありません。しかし、固定概念に縛られていたら、こんなことにはなりえなかったと思うのも事実です。時代がそのように動いているのと、ビックカメラさんの社風の両方がマッチしたと思います。

 8月6日に製品を発表したその日に、ビックカメラさんの各フロアのバイヤーさんから連絡をいただきました。当時は会社の電話番号もまだなく、ホームペー ジから問い合わせをいただく状況でした。ほかの家電量販店さんからもご連絡をいただきましたが、私は選べる立場にないので、連絡をいただいた順番で話を進 めています。蔦屋家電さんは、それよりも早くご連絡をいただいたということです。
 


SIMフリースマホの「UPQ Phone A01」はビックカメラグループン150店で取り扱う

――リアル店舗での販売となると、販売ボリュームも増えて増産しなくてはいけないと思いますが、フレキシブルに対応できるものでしょうか。

中澤 連絡を受けて、早速、ビックカメラさんと店頭でど のぐらいのボリュームになるのか詳細を詰めました。実際はオーダーをいただく前から、見切り発車で生産を依頼していて、その数をビックカメラさんにお伝え しました。その後、私の方で海外の工場に飛んで数を確保しましたが、ビックカメラさんで扱う量は私の想像をはるかに超えていました。

 ビックロに関しては、まさか全製品を置いてもらえるとは思いませんでした。最初はEC(電子商取引)ショップだけでという話もさせていただきましたが、 「全部店頭に置いた方がいいよね」と言っていただきました。新宿の一等地で二面もコーナーを出せたのは、ビックカメラさんの方から、「どうぞ二面を使って ください」と言っていただいたためです。

 私に、もの凄い交渉力があるかといえば、そうではありません。例えば、什器を入れるお金がないという問題も、これが使えますよ、などとサポートしてもらったり、全国の店舗に置くのが難しければ、この店舗に絞ればどうですかと、逆に提案していただいたりしました。
 


ビックロの売り場づくりではビックカメラの応援が大きかったという

どこでも買える商品にしたくない

――今後もボリュームを追求していくのでしょうか。

中澤 100万台売りたい、200万台売りたいというこ とは考えていません。この基本的なスタンスは変えるつもりがありません。1000台が小さいのか、1万台が小さいのかはメーカーの規模や考え方によって違 うと思いますが、(ボリュームを追求すると)どこでも買える製品、ありふれた製品になってしまいます。

 ここでしか触れられないから集まっていただくというのが、販売店さんに対し、私たちが提供できる価値だと考えています。もの凄く増産して、いつもまでも売り続けるというスタイルは考えていません。

 ただ、(7月の企画段階から)当初の「これだけ売り切れたらいいな」という数字に対しては、500%以上に達しています。当初は、3か月から6か月かけ て売っていくんだろうなと考えていた数が、それでは(在庫が)足りないということになっています。どこまで自分たちが増産するかは動きながら考えます。し かし、増産した製品が売り切れるのがいつなのかは、店頭で販売してみないと分からないところがあります。

 メーカーとして大切にしたいのは、製品に対して、ここが良かった、ここがダメだった、次はこうしてほしい、二度と買わない、といったお客様の言葉です。 例えば、ここがダメだったから二度と買わないという言葉があれば、その改善点を次の製品に盛り込んだ上で、これまで想像していなかった製品がポイッと出て くることを繰り返していきたいですね。一発このシリーズをやったら終わりにはしたくありません。次の製品の話も、(販売店やバイサーなどの)みなさんにし ています。今の製品の延長線上には、こういう製品ラインアップがありますと。
 


Bluetooth対応のワイヤレススピーカー「Q-music BS01M」。本体のボタンを排除して、
なでたり触る操作だけで音量調整や選曲ができる

中国の品質は上がっている

――海外の委託工場で生産していますが、商品ごとに工場は違うんですか。

中澤 カメラが得意な工場、ディスプレイが得意な工場な どあり、製品によって工場は変わります。製品ごとに、パートナー企業も違います。例えば、ワイヤレスの認証機関はスピーカーとスマートフォンで異なるの で、その先のステークホルダーもさらに増えます。認証や技術面ではCerevo(セレボ)という会社に支援をいただいているので、人数は少なくありません が、全容は私がすべて把握しています。タスクに優先順位をつけながら私が対応します。

――国内の工場で生産している製品はないのですか。

中澤 ないですね。中国や台湾、香港、韓国など、海外の工場で製造しています。面白かったのは、ある製品の企画を国内メーカーさんに持っていって話を聞くと、私たちが使っている中国の深センや杭州の工場と同じだったのです。

 それでも一緒に作りたいと、こちらから話をしたのですが、製品化までに1年かかるというのです。1年かけて作った製品が売れるのだろうかと、心配になってしまいました。せめて3か月で、とお願いしたのですが、相手先の工場との交渉があるからという話で無理でした。

 中国など、海外の工場に行くと対応がまったく違います。「別の工場と契約してラインを確保してでもうちにやらせてくれ」というノリなんです。中国は世界の工場なので、日本でつくることがすべてではない製品もあるのかなと思います。
 


ガラス製の透明なキーボード「Q-gadget KB01」

――以前勤めていたカシオ計算機での海外とのコネクションがあったりとかするんでしょうか。

中澤 ないです、ないです。まったくないです。ゼロから です。私も、日本から一歩出るまでは、やはり日本の方が品質はいいと思っていました。だけどそうではなかった。実際に韓国ベンダーさんの工場が開いてます という話から、50型4Kディスプレイを作っていますが、ちょっとした日本の工場よりも新しくて綺麗だったりします。

 中国だから品質がダメ、作業が適当だということはありません。日本人でも、どこの国の人でも、ダメな人はダメで、できる人はできるということを本当に体感しています。

 もちろん、われわれも不慣れなら、相手も不慣れな部分もあります。日本のメーカーと取引があると言いながら、実際には他国のベンダーを介していたり、やるといってやらないでラインアップからドロップアウトした製品もあります。

 自分で直接行くと分かりますが、門戸は開かれています。交渉する時に、どこの誰だと不思議がられることもありません。かといって、日本のメーカーだからと手厚く扱われることもありません。取り分は取り分として、きっちりとビジネスライクな交渉ができます。
 

7万5000円の50型4Kディスプレイの発想とは

――チューナーを搭載しないで10万円を切る7万5000円(メーカー希望小売価格)の50型4Kディスプレイは、アイデアが面白いですね。何かに特化す るから安いわけで、けっして製品自体の価値が安いわけではありません。日本の家電メーカーは、なんでも機能を盛り込もうとする傾向にありますが、この製品 も中澤CEOが考えた企画ですか。

中澤 チューナーを入れなかったらいくらになる、という 話からスタートした企画です。私も機能全部入りのガラケーをつくっていたので分かりますが、ちょっとやりすぎ?というところまできていたと思うんです。そ ぎ落としてみたい思いもありましたが、その時代は、そぎ落とすと売りにくくなるという事情がありました。

 大画面のテレビって、あこがれますよね。でも若い人にとって20万円、30万円では買えないけど、10万円を切れば、もしかして分割で買えるかもしれない、となります。チューナーってゲーム機にも入っているよね、ということから、いけるなと思いました。

――ビックカメラでは店頭に立つのですか。

中澤 ずっと店頭にいると、なにもできなくなってしまうので、それは無理ですが、メーカーにとって直接お客さんの反応がいただける機会ってなかなかないんですよね。本当に少ないんですよ。

 新人のころにメーカー応援販売をした経験がありました。お客様と接する機会がなくなると、お客様がどのようにして製品を選んで買っているのかが分からな くなってしまいます。例えば、「これ、ちゃっちぃなぁ」という言葉を聞いてはじめて、そうなんだと理解できます。その機会はとても大切なので、店頭に立た せていただきます。

――ありがとうございました。(文中敬称略)