<家電の美>うまさの秘密は「羽釜」の空間に、東芝の高級炊飯器の「意地」

特集

2015/09/11 19:04

 東芝の高級IHジャー炊飯器が好調だ。昨年12月にリリースして今年1月中旬から発売している「真空圧力IHジャー炊飯器 RC-10ZWH」と「10ZPH」は、前者の税別の実勢価格が14万円前後、後者が同11万円前後という高価格帯にもかかわらず「生産が追いつかなくなりそうなぐらいの売れ行き」(同社)だという。


東芝ホームテクノの家電事業統括部 家電商品企画部 調理機器グループの川元順子グループ長
 
 「出荷台数の構成比でみると10ZWHが3割強、10ZPHが7割弱」と東芝ホームテクノの家電事業統括部 家電商品企画部 調理機器グループの川元順子グループ長は語るが、14万円前後もする最高級モデルが3割強も出るのは驚異的なことだ。昨年12月のリリース後に実施した予約注文でも「あらかじめ用意していた台数が足りなくなるほどだった」(川元グループ長)という。 

 これだけ高額な商品を実際に見ないで注文することにも驚かされるが、かまど炊きをイメージさせる「羽釜」がユーザーの心をとらえたようだ。 
 


最上位モデルの「RC-10ZWH」

初の炊飯器1号機から60年

 1955年に日本で初めて東京芝浦電気(現東芝)が自動式電気釜ER-4を世に出してから60年になる今年、こだわったのは昔ながらのかまど炊きの味。それを再現するために、かまど炊きのような大火力を羽釜に連続して加えられるようにすることと、釜の中で大きな熱対流を起こすために「羽釜」のような丸みを帯びた形状の内釜「備長炭かまど本羽釜」をつくることを開発の重要テーマに据えた。 

 まず大火力については「沸騰直後に連続して起こすことが大切で、そのときにうまみ成分の元であるおねばがたくさん出てくる。これを米にコーティングするとうまみが増す」と川元グループ長は沸騰直後にポイントがあることを説明する。 
 


丸みを帯びた「備長炭かまど本羽釜」

1合で約7500粒の米をムラなく加熱するには

 ご飯を美味しく炊くには何よりもまず強い火力が必要になるが、多くのIHジャー炊飯器では沸騰直後に火力を加え続けると吹きこぼれるので、「間欠加熱」といって熱源であるIHヒータのオン・オフを繰り返しながら火力を抑えている。 

 「RC-10ZWH」は、沸騰後も連続して熱を加えつづけられる。内釜の羽から上の部分の大きな空間がクッションのような役割をして、本来なら連続して沸騰すると吹きこぼれてしまうおねばをしっかりと受け止める。 

 丸みを帯びた「備長炭かまど本羽釜」の形状について説明する前に、川元グループ長は1合に米は何粒あるのかを数えたことがあるという。その数、実に約7500粒。3合なら約2万2500粒になった。その一粒一粒を炊きムラなく加熱することがいかに難しいかが分かる。 
 

羽釜の丸い形状で大きな熱対流を起こす

 「備長炭かまど本羽釜」の形状が丸いのは、内釜で大きな熱対流を起こして、米に均一に熱を伝えるためだ。対流によって米と水が混ざりあい、釜底と上部の温度ムラを抑える。実際に炊飯中の様子が分かるスケルトンモデルで釜の羽から上の部分をのぞいてみると、米の間から次々におねばが出てきている様子が分かる。 
 


連続して加熱しても「かまど本羽釜」の羽よりも上部の空間がおねばの受け皿なっている


 

 「備長炭かまど本羽釜」は、熱を伝えやすいアルミと発熱効率の高い鉄を重ね合わせてつくられている。釜底は厚く上部は薄く変えられるのも、溶けたアルミを型に流し込んで約800トンもの高圧プレスで成型する東芝独自の「溶湯鍛造製法」があるからこそ。自動車のエンジンやピストンなどで使われいる製法だが、炊飯器の内釜で使っているのは東芝だけである。 

 成型した後に削り出して丸みをつけるなど、内釜ひとつをとってもご飯の美味しさをとことん追求するためのこだわりの技術が随所にみられる。 (BCNランキング 細田 立圭志)