06年、ドイツ・ケルン市で開かれたフォトキナに参考出品され、話題を呼んでいたシグマの高級コンパクトデジタルカメラ「DP1」。この3月にやっと発売された。注目は、何と言っても撮像素子にデジタル一眼レフカメラと同じセンサーを採用したこと。その圧倒的画質が話題を呼び、店頭では予約待ちが続いているという。実機を借りることができたので、早速その試用レポートをお届けする。


●デジ一眼と同じ撮像素子を持つ初のコンパクトデジカメ


 デジカメで、画像を写し撮るフィルム部分に相当するのが、CCDやCMOSなど撮像素子やイメージャーなどと呼ばれる部分。一般的なコンパクトデジカメの場合、そのの大きさは、1/1.8型や1/2.5型などが多い。実サイズは1/1.8型が6.9×5.2mm、1/2.5型が5.7×4.3mmほどと、非常に小さなものだ。

 それに対して、シグマ「DP1」が搭載する撮像素子は、20.7×13.8mmの大きさがある。これは、ニコンやキヤノンのデジ一眼が採用するAPS-Cサイズよりは小さいものの、オリンパスやパナソニックのフォーサーズ(17.3×13.0mm)規格よりも大きなサイズ。その大きな撮像素子が、コンパクトデジカメのボディサイズに収められているわけだ。


 撮像素子が大きいと、光を受ける画素を余裕をもって配置できる。そのため、高精細で明暗の幅が広い、階調豊かな画像を得やすくなる。しかし、それだけでなく、「DP1」の撮像素子は他にはない独特の特徴を兼ね備えている。

●1画素でRGB3色を取り込めるから、色再現性と解像感が違う

 「DP1」の撮像素子は、同社製デジ一眼の「SD14」が搭載するものと同じ、米国Foveon(フォヴィオン)社が開発した「FOVEON X3センサー」と呼ばれるもの。有効画素数は、2652×1768×3層で、1400万画素のセンサーだ。

 コンデジであれ、デジ一眼であれ、それらが採用する撮像素子は、実は1画素で取り込める色情報は1色でしかない。光を構成するのは、R(赤)・G(緑)・B(青)の3原色だが、CCDやCMOSの1画素は、そのうちの1色しか感知できないのである。そのため、隣り合う複数の画素を使った補間処理によって、RGBの画像を作りだしている。

 それに対して、FOVEON X3センサーは、1画素でRGBすべての光を取り込むことができるのが最大の特徴。RGBの波長の違いを利用した3層構造とすることで、1画素が3色を感知できるように設計されている。CCDやCMOSでは必須のローパスフィルターを必要とせず、補間処理も必要ないので、1画素が取り込んだ情報をそのまま画像に生かすことができるのだ。そのため、FOVEON X3センサーは、とくに色の再現性や解像感にすぐれ、モアレや偽色の発生が少ないと言われている。

 この特徴的なFOVEON X3センサーを生かすべく、「DP1」はレンズも奢っている。35mmフィルム換算で28mm相当の広角単焦点レンズを搭載。開放F値はF4とやや控えめだが、広角レンズにありがちな歪曲収差や周辺光量落ちを徹底して除去。デジ一眼用の高性能交換レンズに匹敵する画質性能を達成している。

●コダクロームで撮ったような画像。解像感・立体感がある

 実際に「DP1」を試用してみて、さすがにその画質には驚かされた。とにかく画面周辺までおそろしくシャープ。解像感は極めて高く、色のりもこってりとしている。銀塩時代のリバーサルフィルムをご存知の方なら「コダクロームのような色」と言えば想像しやすいかもしれない。しかも、不思議な立体感がある。3Dというわけではないのだが、画像の中に明らかに立体的感触が感じられるのである。

 撮像素子がまったく違うのだから、端からコンパクトデジカメとは比較にならないだろうとは考えていたが、この色、解像感、立体感は、もしかすると、すでに入門・中級クラスのデジ一眼を超えているかもしれない。それがポケットサイズのボディで持ち歩けるのだから、驚異的なカメラと言ってもいいだろう。

●JPEGではなく、RAWで撮って現像するのが正しい楽しみ方

 ただし、まったく不満がないわけでもない。画質に関して言えば、高感度撮影はほとんど期待できない。「DP1」の最高感度はISO800だが、実用感度はISO200くらいまでが限界のように感じた。また、RAWで撮影して専用現像ソフトで現像し、JPEGに書き出した画像と、最初からカメラの撮影設定をJPEGにして撮影した画像とでは、明らかに画質が違う。JPEGで撮影した画像は、かなり見劣りがしてしまうのである。RAWとJPEGでこれほど見栄えが違う画像になってしまうデジカメというのも、珍しいのではないだろうか。


 付属の専用現像ソフト「SIGMA Photo Pro」は、比較的使いやすく、処理速度もそこそこで、パフォーマンスは悪くない。複雑な現像処理や画像補正機能などは搭載していないが、その分、RAW現像初心者でも非常にわかりやすいインターフェイスが工夫されている。「DP1」を使うなら、RAWで撮って「SIGMA Photo Pro」で現像する、という工程を前提とすべきだろう。


●カメラとしての作り込みはもうひとつ 高級感がほしい

 さて、こと「画質」に関しては申し分のない「DP1」なのだが、カメラ自体の使い勝手や、コンパクトデジカメとしての小気味良さといった点は、まだまだ改良の余地がありそうだ。
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 手ブレ補正や顔認識といった、最近のコンパクトデジカメに流行りの機能は、「DP1」のようなコンセプトのカメラには不要と判断するのは、まあ理解できるが、AF測距スピードの遅さと、メモリーカード(SDまたはSDHC)への書き込み速度の遅さには、正直閉口した。電源オンからの起動もそれほど速くはないので、コンパクトデジカメならではの、撮りたいシーンに遭遇したときにサッと取り出して、パッと撮る、といった撮影スタイルにはかなり使いにくい。

 フォトキナで参考出品されていたものは、ボディ右手側が多面的にデザインされていて、ホールディングも良さそうだったのだが、実際に発売されたものでは、スクエアボディで指がかりの突起も少なくなってしまった。デザイン的にはシャープになった印象だが、手ブレ補正を搭載していないだけに、ホールディングしやすいボディ形状へもうひと工夫がほしいところだ。

 また、実勢価格9万6000円前後のカメラにしては、やや高級感に乏しい。プラスチック部材が多いし、レンズキャップのかぶせ式もチープ。税込み実勢価格2万1000円前後のビューファインダーも金属製ではないなど、コストダウンのあとが目についてしまうのは残念。また、これは試用した個体に固有の問題だったのかもしれないが、シャッターボタンを完全に押し込んだときの感触が、何とも頼りない感じがした。「シャッターが切れている!」という手応えが伝わってこない感じなのだ。操作音やシャッターの感触なども高級カメラには欠かせない要素だろう。


●デジ一眼の代わりに「DP1」で撮り歩くというスタイル

 画質があまりにすばらしいだけに、その他の部分であと2世代分くらいの進化と熟成を期待してしまいたくなるシグマ「DP1」。それまで待つか、いますぐその画質を自分のものにするかは、あなたが、カメラや写真に何を求めるかにもよるだろう。

 聞くところによるとキヤノンなども、1画素でRGBすべての色を取り込める、多層構造の撮像素子の開発を進めているという。それだけ、FOVEON X3センサーの画質には魅力があるとも言える。大きく重くかさばるデジ一眼と交換レンズ数本を携えて肩と腰を痛めてしまうよりは、潔く28mm単焦点と割り切って「DP1」で撮り歩いてみるほうが、写真の幅が広がるかもしれない。(フリーカメラマン・榎木秋彦)

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