<ルポ>ソフトウェアの甲子園「プロコン」、競技部門で海外勢が大躍進

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2005/10/17 23:53

 各校ごとの応募作品の展示と審査が中心の「プロコン」のなかで、唯一の勝ち抜き競技が「ハートを捜せ!」と題されたネットワーク対戦ゲームだ。舞台のうえに各校の代表が並び、出題されたテーマに対して、プログラムの精度と時間と最適解を競う。

 各校ごとの応募作品の展示と審査が中心の「プロコン」のなかで、唯一の勝ち抜き競技が「ハートを捜せ!」と題されたネットワーク対戦ゲームだ。舞台のうえに各校の代表が並び、出題されたテーマに対して、プログラムの精度と時間と最適解を競う。

 今年の内容は、高度な電子ジグソーパズルだ。まず、最初に与えられた原画像を競技用のサーバーからダウンロードする。つぎに、原画像からハート型に切り出された100種類の断片画像が、サーバーから与えられる。それが原画像のどの座標から切り出されたものかを解析せよというのが問題だ。

●「めくらまし」だらけの電子ジグソーパズル

 わかりやすくいえば、ジグソーパズルの完成図をみながら、バラバラに断片化されたパーツが、原図のどこに当てはまるかを当てる競技だと思えばいい。ただし、切り出されたパーツは、拡大されたり、回転されたり、色を変えたり、あるいは実際の原画にはない偽物(ダミー)が混じっていたりと、とにかくいろんな「めくらまし」の処理が施されている。


「ハートを捜せ」競技風景、舞台右上の花の写真が原画像。
そこから切り出された100個のハート型断片画像が真ん中に表示されている

 こうした落とし穴をかいくぐりつつ、画像のヒストグラム解析や、濃度、明るさの分布や、形状の輪郭線を比較したりと、あらゆるアルゴリズムを駆使しながら、制限時間内に座標を突き止めた断片画像の数と精度を競う。1枚のハート型のパーツの座標を突き止めるためには、およそ50億回の演算が必要だという。しかも、色が変化されている場合は、処理回数はさらに級数的に大きくなるという、気の遠くなるようなゲームである。

●強さが光るハノイ工科大学とモンゴル科学技術大学

 さて、競技は2回戦までを勝ち抜いた8校が舞台に一堂に会し、決勝戦で雌雄を決する。しかし、今年は1、2回戦で予期せぬ大波乱に見舞われた。「プロコン」の国際化をはかるために、ベトナムから招いたハノイ工科大学とモンゴルから招いたモンゴル科学技術大学が、予想をはるかに上回って大健闘したからだ。

 競技は、時間の経過とともに各校の正解件数がハートの数で、正面のスクリーンに表示されるのだが、両校とも、その正解数が半端じゃないのだ。たとえば第2回戦第2試合に登場したハノイ工科大学の場合、前日の予行演習では、システムがうまく作動せずに周囲をはらはらさせたが、本番ではめざましい強さを発揮。他の出場校が、演算の修正や最終の確認を一部手作業で行っているのに対して、ハノイの場合はほとんどシステムに任せ放し。オペレータの手をほとんど介さないままに、圧倒的な速さで正解を積み重ねていく。この試合、正解34ハートで、第2位の大阪府立高専の11ハートを大きく引き離して決勝に進出。

 一方、第2回戦第3試合に出場したモンゴル科学技術大学は、さらに強さをみせつけた。競技開始から3分経過時点で、大島、和歌山、久留米の各高専がリードをするなか、モンゴルからの正解数はゼロ。どうやら、最後のぎりぎりまで処理を続けながら、時間切れ間際にまとめて解答を競技審判用のサーバーに送り出す戦術のようだ。

 残り一分を切って久留米が8ハートでトップに立つが、まだモンゴルからサーバーへのアクセスはない。残り30秒を切ると各校の得点表示がいったんスクリーンから消される。そして、競技終了と同時に、最終得点が表示されると、なんとモンゴルは35ハート。詫間電波高専、久留米高専の10ハートを大きく引き離しての決勝進出だ。

●予想外の難題にどよめく会場、決勝戦の行方は……

 決勝戦に駒を進めたのは、モンゴル科学技術大、ハノイ工科大のオープン参加校のほか、久留米高専、詫間電波高専、金沢高専、大阪府立高専、徳山高専、一関高専の8校。昨年の上位校がほとんど顔をそろえているが、果たして海外勢とどんな戦いを展開できるのか。会場に詰めかけた観客、応援団が息をのむなか、いよいよ最後の戦いが始まる。

 8校が壇上にならんで、競技用サーバーにアクセスすると、決勝戦用の画像がスクリーンに投影される。一瞬、会場がどよめいた。なんと、岩場に打ち寄せる波の写真。画像の形状でどの部分のパーツかを判断するのは、ほとんど不可能と思える。しかも、まるでホワイトノーズのような色合い。色彩の変化で、パーツの位置を特定するのも、かなり難しそうだ。


決勝用の写真は、右上の波の写真。左のハート型のパーツでも
はっきりした形状は判別できない

 このとびきりの難題が、高専各校と海外勢のどちらに優位に働くのか。固唾をのんで見守るなか、いよいよ「3、2、1」と、決勝のカウントダウンが始まった。はじめに抜け出したのは、やはりハノイだ。開始1分過ぎ、いきなりハノイが11ハートをあげる。会場からため息がもれる。この時点で2位の久留米は、まだ2ハート。点数を上げているのは、この2校だけだ。モンゴルは例によって、沈黙したまま。

 各校が必死に、キーボードや画面と格闘しているなか、ハノイはほとんどコンピュータに手も触れず、システムに任せたまま。しかし、残り2分を切ってもハノイの得点は14点と、それほど伸びない。難題とあって、やはり苦戦しているのだ。久留米、金沢も2ハート、一関が1ハート。各校とも正解数が低い。モンゴルは、どの時点で出てくるのか。じりじりと時間が経過して、ついに終了30秒前。スクリーンの得点表がいったん消される。そして、決勝戦終了のブザーが鳴った。

●夢だったプロコンの国際化

 スクリーンに最終得点が表示されたとたん、会場から一斉に声が上がり、ついで拍手がわき起こった。なんとモンゴル27ハートでトップ、作戦通りの高得点だ。ついでハノイが14ハート、高専勢では久留米が3ハートでトップだった。久留米は正解率では抜群に精度の高い成績だったが、難題に最後まで苦戦を否めなかった。

 オープン参加の2校は、本戦の選考対象外となるため、優勝と文部科学大臣賞は久留米高専が獲得。準優勝は詫間電波高専、3位は金沢高専の順となった。受賞の発表と合わせて、審査委員は競技の講評をこう結んだ。「プロコンの国際化が夢だった。今年海外から2校が参加してもらってすばらしい成績を収めてくれた。非常にうれしい。次回は高専の諸君にも、是非とも頑張ってほしい」

 高専の参加各校にとっては、残念な結果となった。しかし、海外からのオープン参加校の戦いぶりは、大きな衝撃と刺激をもたらしたに違いない。無意識のうちに、各校が似通ったアルゴリズムや手順を踏襲していたとすれば、それとは全く異なる発想と手法が存在することを痛感したことは、「プロコン」の枠を広げるためにも貴重な体験であったといえる。そうした意味で、国際化が「プロコン」の新しい進歩となることを期待したい。来年、茨城で開催される第17回大会で、各校がどんな戦いを披露してくれるのか。1年という期間は、新しいアルゴリズムとプログラムを磨き上げるために、十分な時間であるはすだ。