2025.4.03 11:00
暮らしにプラス大切なことは“ゲーセン”が教えてくれた── 日本初のeスポーツドクターREKKAさんに聞く学生時代とキャリア
今回は、医師としての専門性を活かしながらeスポーツシーンで活躍する「eスポーツドクター」のREKKAさんに、学生時代の過ごし方や医師とeスポーツの両立、これからの展望、そして医療とゲームの融合を目指す学生たちへのメッセージを伺いました。
(取材・文/小川翔太)
eスポーツドクターとは何か
──REKKAさんは、eスポーツドクターとして具体的にどのような活動をされているのでしょうか。
REKKAさん(以下、敬称略) 現在の主な活動は、大規模eスポーツイベントでの医療サポートです。将来的には、選手の体調管理や当日のパフォーマンス向上のサポートなど、医師がチームに関わる価値を広く伝える活動も展開していきたいと考えています。
実際に、私はeスポーツの現場で医療対応が必要なケースを経験しています。例えば、「EVO Japan」では、心臓に持病のある方が試合中に発作を起こしましたが、幸いにも体内に埋め込まれた「植込み型除細動器」(ICD)が作動して一命を取り留めました。また、てんかん発作を起こした方も2名いました。
eスポーツの試合中、選手は極度のストレス状態に置かれています。私自身も選手として参加した際には、手が震えて、通常ではありえないほど心拍数が上がりました。特に多くのプレイヤーが参加する大規模な大会では、ストレスが健康リスクにつながりやすく、医師の存在が非常に重要です。
しかし、「eスポーツの現場に医師は必要」という認識はまだ広まっていません。前例がほとんどなく、私自身も手探りの部分が多い状態ですが、今後もeスポーツと医療の架け橋となる活動を続けていきます。
──eスポーツドクターとしての活動と医師のキャリアはどのように両立されていますか。
REKKA 非常勤の仕事をやめて、eスポーツに関わる時間を増やすことで、両立を目指しています。年収は半分以下になりますが、eスポーツドクターとしての活動を本格化させるため、4月から医師としての働き方を大きく変えていきます。
今回の「カプコンカップ11」では、医療スタッフとして5日間イベントに参加しました。一般的に(常勤先以外での)医師のバイト時給は高額になるので、この5日間を一般的な医療現場で働けば相当な収入になるという考え方はあります。しかし私は、そのような実利的な観点よりも「学生時代に自分の居場所を見出してくれたeスポーツに恩返しをしたい」という、情熱を追求したいと考えています。
また、5日間もeスポーツの現場で過ごすことは、一般的な医師の勤務スケジュールでは難しいです。幸い、現在私は救急科でシフト制の職場を選んでいたので、イベント期間中は休みを取りやすい環境にありました。また救急科は担当患者が固定されていないため、長期不在しても患者さんに迷惑がかかりません。内科から救急科に移ったのも、eスポーツ活動との両立を考慮してのことでした。
このように活動環境を整えながら、eスポーツが「医療専門家も関わる本格的な分野である」と認知されるよう貢献していきたいと考えています。私自身がeスポーツドクターとして活動することで、eスポーツの社会的地位向上にも繋がれば嬉しいです。
eスポーツドクターの学生時代とは
──学生時代はどのように過ごしていたのでしょうか。
REKKA 中学生の頃、千葉の実家から常磐線で新大久保まで通学していて、学校の帰り道に池袋のゲームセンターに立ち寄っていました。
本来は寄り道禁止ですが、学校の先生方も薄々気づいていて、「中間テスト後は見回りがあるから気をつけなさい」と教えてくれるほど理解のある環境でした。そこで出会った格闘ゲーム仲間は、今でも親しく付き合う仲です。当時は『ザ・キング・オブ・ファイターズ(以下、KOF)』をプレーしていましたが、今ほどフレーム単位の研究などはしておらず、素人にしては少し強いぐらいのレベルでした。
高校生になってからあまりゲームをしなくなりましたが、大学で友人に『ストリートファイターIV』をやろうと誘われて格闘ゲームの世界に戻りました。『KOF』の経験があったので「格闘ゲームなら僕もできる」という気持ちで始めましたが、近くのゲームセンターに行ってはボコボコにされる日々。そこから田舎のゲームセンターで朝までプレーし続けたことで、現在のeスポーツシーンで活躍する仲間たちと出会いました。
上達するために新宿のタイトーステーションに通い詰め、そこでは当時から有名だったNemo選手やときど選手、ふ~ど選手、マゴ選手などと対戦する機会がありました。この恵まれた環境で技術が向上し、フレーム単位の研究も始めました。その結果、2016年頃には「闘神祭」という大会でチーム戦準優勝まで登りつめたんです。
その後、医師として研修医になった頃に『ストリートファイターV』が発売されました。しかし、医者になりたての頃は患者さんの命を預かる責任の重さから、勉強に多くの時間を費やさなければならない状況でした。
しばらく格闘ゲームから離れていましたが、医師として経験を積んで少し余裕が出てきた2023年6月頃、『ストリートファイターVI』の発売を機に格闘ゲームに復帰することになりました。
医大生こそ“講義”だけではなく“ゲーセン”にも行け
──学生の頃やっておいて良かったことは何がありますか。
REKKA 大学生のうちにさまざまな人と関わったことです。学生時代にゲームセンターで培った人間関係やコミュニティが、キャリアに影響を与えています。例えば、「EVO Japan」でeスポーツドクターとして認めてもらえたのも、過去に真剣に大会に出場していた経験があったからこそだと思います。また、学生時代で繋がった人々経由で地上波のドラマ医療監修の仕事にも発展しました。
このように、学生時代の経験が思わぬ形で現在の活動の土台になっているんです。時間的に余裕のある学生のうちにいろいろな経験を積み、多くの人との繋がりを持つことが、将来の可能性を広げることに繋がると実感しています。
また、医大生には、授業に出るだけでなく外部の活動にも積極的に参加することをおすすめします。学校の外には多様な価値観や人間関係があり、それらに触れることで自分自身の視野を広げられるからです。また、医師として働き始めると、職場以外での人間関係の広がりが限られてしまいがちです。だからこそ学生時代には、勉強とのバランスを取りながらさまざまな経験を積むことが重要だと考えています。
医師としての自覚が芽生え、格ゲーから離れる
──学生の頃やっておきたかったことはありますか。
REKKA 高校までに関しては、もっと勉強しておけばよかったと後悔しています。私は滑り止めの大学に入学したこともあり、そこに対してコンプレックスを感じる部分もありました。中学・高校時代にもっとしっかり勉強していれば、入りたい大学に進学できたのではないかと考えています。
ただ、私の見解ですが、大学以降については「何を勉強したか」よりも「何を経験したか」の方が重要です。特に研究を志すような明確な目標がある人を除けば、いろいろな人と関わることの方が将来の糧になるでしょう。
当然、学生時代も医者になってからも医学の勉強をするに越したことはありません。ただ、学生時代に問われる医療知識と実際の医療現場で求められる医療知識は大きく異なります。
医者として必要な「コミュニケーション能力を身につける」こと、自分の人生を豊かにするための「俯瞰的な知見を得る」こと。これら二つの意図から、私は「学生時代はいろんな経験をして、研修医になってから医学にどっぷり浸かること」をお勧めしたいと考えてます。
──医師として働き始めた頃に「学生時代に問われる医療知識と実際の医療現場で求められる医療知識が異なる」と感じた経験の中で、特に印象に残っているものは何でしょうか。
REKKA 研修医1年目の頃、入院中の患者さんが突然意識を失い、検査でアンモニア値が高いことがわかったのですが、その後、原因がよくわからないまま亡くなってしまったんです。
当時、研修医だった私には何もできず、自分の力不足を痛感しました。
亡くなった後、疎遠だった弟さんや元奥さんが病院に来られた際、私は断腸の想いで、ご遺族に「医学発展のために病理解剖をさせてください」とお願いしました。ご遺族にとって苦渋を伴う決断なのですが、弟さんは「散々、迷惑をかけてきた兄だけど、最後は世の中のためになってほしい」と承諾してくださったんです。その時のお言葉は今でも心に残っています。
当時の私は研修医2カ月目という時期でしたが、「もっと実力をつけなければ」と思い知らされ、それから毎日夜遅くまで医学書を読み続けました。
この経験から、医師としての自覚が芽生え「中途半端にはできない」という思いで格闘ゲームからも離れました。医師は一生勉強し続けなければならない職業です。患者さんの命を預かる責任の重さを実感した、大きな転機でした。
eスポーツに打ち込む学生にメッセージ
REKKA eスポーツのプロを目指す方には、一つの分野だけを突き詰めると決め切るのではなく、ほかの分野も並行して極めることをおすすめします。プロを目指す方は、eスポーツが好きだからこそプレーするのであって、きっと周囲から止められても続けるでしょう。ただ、プロとして成功するためには、すでに注目されるレベルに達していることが大前提です。
現代のeスポーツシーンには、プレーヤーだけでなく、配信や動画制作、チームマネジメントなどさまざまな関わり方があります。動画編集のスキルを学ぶなど、プレー以外の形で携わる道を模索することも選択肢の1つです。必ずしもゲームの上手さだけにこだわる必要はなく、eスポーツが好きであれば、いろいろな形で関わることができます。
また、他分野の専門性とeスポーツを組み合わせる道もあります。例えば私はeスポーツとは別業種である医師であるからこそ、逆説的ですがeスポーツにより深く関わることができていると感じております。このように、別分野の専門性を持っていることが、eスポーツ業界に関わる上での強みになることがあります。
そして何より、私の経験から言えるのは、プロへの道は一足飛びではないということです。私自身もさまざまなプレイヤーと対戦し、彼らの並外れた才能を目の当たりにしてきました。まずは地道に実力をつけ、周囲から注目されるレベルになってから、プロとしての道を検討することをおすすめします。eスポーツへの情熱を大切にしながらも、複数の選択肢を持っておくことが長期的な成功への鍵です。
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