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防災ニーズが増加中、メーカーにポータブル電源の今を聞く

暮らし

2024/03/22 19:00

 【注目集めるポータブル電源・Vol.4】ポータブル電源市場は新規参入やラインアップの拡充が続いている。防災対策を目的として購入する層も以前より多くなっているとのことで、JackeryとEcoFlow、JVCケンウッドに現在のポータブル電源市場について聞いた。

参入メーカーの増加や防災ニーズから
ポータブル電源の市場は拡大

ポータブル電源市場は拡大基調で推移

 「当社の製品を目的別に大別すると、アウトドア用途が約4割で防災用途が3~4割、残りは業務用で、防災用途の中には個人ユーザーに加えて企業ユーザーも含まれています。最近は防災を目的とした購入が伸びています」と話すのは、EcoFlow Technology Japanの寺井翔太シニアPRマネージャー(以下、EcoFlow)だ。

 同社によると、能登半島地震から数週間経過した時点で、電話やメールなどの問い合わせ件数は昨年の同時期に比べて3~5倍に増え、自治体や公的機関からの問い合わせも増加したという。個人、企業に関わらず防災ニーズは増加傾向を示しており、市場に関する公的データがないものの、22年から23年は昨対で1.5倍くらい伸長しているのではないかとみている。

 「当社が市場参入して足掛け5年。市場規模は5年前の約3倍に拡大していると考えています」。JVCケンウッド メディア事業部マーケティング部国内マーケティンググループチーフの川上一紀氏(以下、JVC)は、このように語る。

 さらに「ポータブル電源はECでの販売が多く、市場の全体像を把握して予測するのは難しいのですが、24年も前年比で120%は伸長するものと考えられます」とのことで、市場はさらに拡大するとみている。
 
家電量販店の店頭でも
ポータブル製品の展示スペースは拡大

 2019年の市場参入から国内のポータブル電源市場をけん引してきたのが、Jackeryだ。同社の広報担当者(以下、Jackery)は「当社が実施した3万人を対象に行った調査では、ポータブル電源の認知度は約76%と高まってきています」という。

 認知の高まりは市場拡大と連動し、「各地で起きている地震の影響などでポータブル電源は防災用品としてのニーズが高まっているため、当社では24年を前年倍増として計画しています」。

 ポータブル電源はメーカーのダイレクトショップをはじめとするECサイトでの販売数量が多く、市場規模を推測するのは難しい。しかし、各社の聞き取りから市場は拡大傾向にあり、24年はさらに拡大することが予想される。
 

防災ニーズで購入層が拡大

 ポータブル電源は、そもそもキャンプや車中泊などアウトドアでの電源確保を目的として製品投入が行われてきた。特にコロナ禍の21~22年は、「密」を避ける観点からアウトドアのレジャーを楽しむ層が大きく増加。ポータブル電源の市場も連動して拡大した。
 
コロナ禍でのアウトドア需要でポータブル電源市場は拡大

 ポータブル電源購入者は従来、30~50代の男性が多かった。これは、まさにキャンプや車中泊での使用を目的として購入する層が多かったからだ。しかし、このところは女性やシニア層の購入も増加しており、性別に関係なく幅広い年代での購入が進んでいるという。

 EcoFlowでは「昨年の秋、テレビショッピングに当社のRIVER2 Proを出品したところ、30分で用意した台数が完売しました。テレビショッピングの特性上、購入者の多くは女性でした」とのこと。Jackeryでも「購入者は70代くらいのシニア層にも拡大しています」と話す。

 アウトドアユースを目的とした購入層が減少したわけではなく、「用途としてアウトドアが減っているわけではありません」(JVC)、「キャンプはブームから定着に変わってきています」(Jackery)とメーカーサイドではみている。

 購入層の拡大は「防災に備えて家庭でも電力の備蓄を考える人が増えている」(EcoFlow)ことが要因となっているようだ。JVCとJackeryでも「防災用途が半数ほどに拡大」(JVC)、「防災目的の購入層が拡大」(Jackery)と防災ニーズの拡大を実感している。これまでのポータブル電源の需要はアウトドアユースで、この需要自体は現在もしっかりと存在するが、底上げするような形で防災対策としての需要が急増しているという見方だ。
 
災害で電力の供給がストップすると
生活に甚大な影響を及ぼす

EcoFlowは1月に大容量のポータブル電源を発売

 各社とも幅広いラインアップを持っているが、どのような製品が売れているのだろうか。EcoFlowでは「バッテリー容量が1000~2000WhのDELTA2、DELTA2 MAXが伸長しています。用途としては防災対策としての電力の備蓄で、ある程度生活に必要な家電に電力を供給するには、出力が1000Wはほしいところ。その点で2つの製品は防災ニーズに合致した製品で、企業だと社宅への導入というケースも増えています」という。
 
ECOFLOWのDELTA2(左)とDELTA2 MAX(右)。
容量の分だけDELTA2 MAXは大型になっている

 ポータブル電源市場に参入するメーカーは増加しているが、同社はトップクラスの国内販売シェアを維持している。高いシェアの理由は、「特許出願中の充電技術による充電スピードの速さやデータの見える化、設定の遠隔操作などができるアプリの柔軟性に加えて、さまざまな使用シーンになじむデザイン性」と説明する。

 最近では自治体や企業などビジネス領域の販売が増加しており、「家庭用でも法人用でも今後は大容量に対するニーズが増えていくと考えています。そのニーズに対応する大容量のポータブル電源DELTA Pro Ultraをこの1月から販売開始しました」。

 DELTA Pro Ultraは出力容量6000Whのバッテリーユニットとインバーターから構成されている。バッテリーユニットは最大で5台組み合わせることが可能で、一般家庭で約10日分にあたる30kWhの容量を貯めることができる。既設の太陽光発電パネルやEV充電スタンドからの充電にも対応しており、バッテリーユニットの組み合わせによって既存の家庭用蓄電池よりも大容量の電力を確保することが可能だ。
 
EcoFlowのDELTA Pro Ultra(左)は
バッテリー部を最大4台まで増設可能
 

2つのブランドで市場展開するJVCケンウッド

 JVCでは販売が好調な製品として、バッテリー容量が806WhのBN-RF800と512WhのBN-RF510を挙げる。「当社ではJVCとビクターの2つのブランドで製品展開をしていて、JVCは三元系のバッテリーで、ビクターはリン酸鉄系のバッテリーという違いがあります。リン酸鉄系の長寿命が知られるようになってきたためか、現在は販売の約6割がビクターブランド。RF800とRF510は、いずれもデザイン性やハンドルによる携帯性が評価されています」。
 
大型のハンドルを搭載した
ビクターブランドのBN-RF510(左)とRF800(右)

 ユーザーが接続している機器では、スマートフォンやパソコンなどの情報機器が多いという。しかし、1536WhのBN-RF1500になると冷蔵庫の構成比が高くなる。キャンプや車中泊用のポータブル冷蔵庫ではなく、一般的な冷蔵庫だ。

 「上位の大容量モデルでは家の中で災害に備えるというアピールをしており、そのアピールが受け入れられている面があると思います。逆に考えると、防災を意識すると大容量モデルで冷蔵庫へ給電するニーズが高くなる傾向を示しています」とのことだ。

 同社の販売構成比は7割程度が家電量販店などのリアル店舗という。これは長年家電製品を販売してきたことによるもので、購入の決め手となっているのは「国内メーカーであることとアフターサポート」。防災製品等推奨品としても認証されており、これらはいずれも安心感につながるもの。この安心感が他社差別化ポイントにつながっているようだ。

 製品としての差別化ポイントについては、「コンセントを挿したままで保管しておくと自動でフル充電に近い状態を維持します。家電と常時接続しておくと、停電時は自動で家電に電力を供給する自動給電機能もあり、非常に利便性が高い製品になっています」という。
 
ビクターブランドは常時接続や自動給電などの利便性と
防災製品等推奨品の安全性がポイント
 

リン酸鉄系のPlusが好調なJackeryは稼動時の静音性も訴求

 Jackeryでは売れ筋について、次のように話す。「一般家庭でアウトドアとしても防災用品としても最適なサイズのバッテリー容量が700~1000Whの製品が好調に売れています。昨年から販売を開始したPlusはリン酸鉄系のバッテリーを採用し、容量が1264WhのJackeryポータブル電源1000 PlusとJackery SolarSaga 100Wソーラーパネルをセットにした商品は、某ECサイトでの売れ筋1位を獲得しました」。

 昨年まで同社のポータブル電源に搭載されているバッテリーは、すべて三元系のリチウムイオン電池を採用していた。リン酸鉄系は三元系に比べて寿命が長く、自己放電率が低いというメリットがある。その半面、三元系はリン酸鉄系よりも安価で体積が小さく軽いため、同社では価格やアウトドアユースでの携帯性を考えて三元系を採用していた。
 
 しかし、前述のとおり昨年からリン酸鉄系のシリーズを新たにラインアップし、リン酸鉄系のエントリー層向けでバッテリー容量288WhのJackery ポータブル電源 300 Plusも売れているという。
 
Jackeryポータブル電源708(左)と
Jackeryポータブル電源1000 Plus(右)

 同社は国内のポータブル電源市場のリーディングカンパニーで、「他社と比べて早い時期から市場展開していたこともあり、オレンジ色のメーカーロゴとアクセントカラーの認知度は高く、ブランドとしての信頼度も高いと自負しています」と話す。

 製品面の特徴では、コンパクトさや使い勝手のほかに静音性を挙げる。ポータブル電源は充電や給電の際にバッテリー冷却のため、ファンが稼動する。同社では「静音性にはこだわっており、当社の製品はファンの稼動時も図書館並みの静かさ。夜間に使用しても音が気にならないような仕様になっています」と機能もさることながら、静音性にも自信を持っている。
 
Jackeryポータブル電源 1000 Plusは充電時の騒音レベルが図書館並みの静けさ
 

大容量化や日常使いの推奨でユーザー層を拡大

 ポータブル電源市場は今後も伸長が見込まれるが、各社ともその伸長要因はやはり災害時の電力備蓄ニーズと考えている。停電後に充電しておいた容量を使い切ってしまえば、それ以上の電力供給はできない。しかし、ソーラーパネルから充電すれば停電時でも本体に充電が可能になる。

 そのため、「ソーラーパネルが想定以上に売れています」(JVC)、「ソーラーパネルとセットのSolar Generatorの購入が増加しています」(Jackery)とのことで、このところの購入者は災害時の電力確保はもちろんだが、災害時に本体への充電も考える層が増えているようだ。
 
ポータブル電源とソーラーパネルのセット販売は
各社とも好調

 EcoFlowでは「災害時の停電は、いつ復旧するか分かりません。数時間程度ならまだしも長時間、長期間の停電を想定すると、やはり大容量化が必要となります。電力供給では発電機もありますが、環境負荷の観点からも今後、ポータブル電源が発電機の代替になっていくのではないか」とみている。

 ポータブル電源のさらなる普及にはユーザーの拡大が必須で、「停電時に使用するだけでなく、まずは日常でも使ってもらうことが重要と考えています。使用する頻度がアップすることで、ソーラーパネルと組み合わせたりしてポータブル電源を賢く使うという訴求に取り組んでいきます」(JVC)。

 「日常的に使っている層は徐々に増加しているとみていますが、例えばシングル世帯の高齢者層では、まだポータブル電源の認知自体が進んでいません。リーチできていない層へのアピールとともに、ブランドとしての認知度アップにも取り組んでいきたいと考えています」(Jackery)と、各社はそれぞれラインアップの拡充やプロモーション展開で、ポータブル電源市場のすそ野を拡大していく考えだ。
 
ポータブル電源を日常利用することで
災害時に必要なバッテリー容量が把握できる

 日常生活の中で、電気は最も重要なインフラといっても過言ではない。電気を使うから、貯めてから使う。このシフトを実現させるのが、ポータブル電源だ。決して安価ではないからこそ家電量販店などの店頭で形状を確認したり、各社のホームページやリーフレットなどを参考にして使用シーンや用途に合った最適な製品を選びたい。(BCN総研・風間理男)
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