米国・オースティンで開催されるデジタルテクノロジーの祭典「SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)」が、3月8日に幕を開けた。会期は17日までの10日間で、規模を問わず世界中から数多くのテック企業がソリューションを披露しあう。世界規模の家電見本市であるCESやIFAと比べると、日本での知名度は高くなかったが、2年前にソニーが参戦したことで一気に注目度を上げた。しかし、なぜスタートアップの登竜門と称されるSXSWにソニーは出展しているのか。「SXSW 2019」直前にブランド戦略部統括部長の森繁樹氏がインタビューに応じてくれた。

取材・文/大蔵 大輔 写真/松嶋 優子

ブランド戦略部統括部長の森繁樹氏がソニーがSXSWに参加する理由を語った

スタートアップの登竜門になぜソニー?

――まもなく「SXSW 2019」が開幕します。スタートアップのイメージが強い同イベントですが、なぜソニーは参加しているのですか。

スタートアップの登竜門といわれているSXSWは、もともとミュージックやフィルムにおけるインディーズの祭典でした。そこにあとからテクノロジーの要素が加わり、現在の形になったという経緯があります。テック系のインディーズということで、自然とスタートアップが集まっていますが、重要なのは「未来に対する問いにソリューションを出していこう」という根本にあるフィロソフィーです。ソニーが参加するのは、この思いに共感したからです。

 他のトレードショーと違って、SXSWは未完でも良い。“解”ではないかもしれないけれど、こうではなかろうかというソリューションを打ち出すことができる。ソリューションが想定する時間軸も異なります。たとえば、CESはわりと近い将来の回答を提示する必要がありますが、SXSWはもっと先のビジョンを示したり、問いかけたりする場になっているのです。

――ソニーはインディーズではなく、むしろ対極にいるテックジャイアントです。意地悪な言い方をすると、“場違い”ということはなかったのでしょうか。

おっしゃる通りで、初参加のときはめちゃくちゃ緊張しました、嫌われるのではないかと(笑)ただ、ソニーはインディーズの要素を色濃く残した会社です。また、SXSWの音楽・フィルム・テクノロジーというポートフォリオは参入した順序こそ逆ですが、ソニーと同じなんですよ。文化感覚自体がマッチするということもあり、「ウェルカム!」と迎え入れていただきました。

 ソニーとしてのソリューションをお見せするのはもちろん重要なことですが、同時にSXSWに参加する他のスタートアップ企業などとリレーションシップを結ぶことの意義も大きい。関係性をつくることで彼らのサポートになるのであれば、それはソニーとしての社会的貢献につながっていきます。
 
「SXSW 2018」のソニーブース

テクノロジーの“用途”を問えるのがSXSWの魅力

――過去2回は“体験型”の展示にこだわっていました。どのような意図があるのですか。

テクノロジーをちゃんと感じて、フィードバックをいただくためには、成果物をそのままの形で出しても伝わりません。SXSWは音楽業界や映画業界を中心に多くのクリエイターの方がいらっしゃいます。つまり、われわれのテクノロジーでどのようなことができるのか、“用途”を問うことができます。「すごいね!」ということになれば自然と「自分の業界ならこんなことができる」「こんなことはできないのか」と議論が広がっていく。体験を核にしたブレストの場をつくりだすことができたのは、過去2年やってきて一番の成功体験かもしれません。

――具体的にSXSWによって得られた目に見える成果はありますか。

たとえば、昨年出展したセンサーとハプティクスという技術を活用した「A(i)R Hockey(エーアール エアーホッケー)」は、アミューズメント施設からそのまま導入したいと問い合わせがありました。しかし、そうした直接的なものだけではなく「1秒間に1000分割もビジョンがとれる」というテクノロジーに着目して「この技術をこんな風に転用できないか」というディスカッションが多数生まれました。それこそ、現場は名刺が飛び交うような状態でした。コンシューマー製品には反映されづらいものではありますが、ビジネス化した事例はいくつかあります。

今年は過去2回と一味違う? 本格的な復活の狼煙をあげる

――2019年の出展で過去2回と異なることはありますか。

初参加の前年にあたる2016年はソニーにとって芳しくなかった業績がやっと回復に向かい始めた年でした。ここで復活の狼煙をあげたいという思いはあったのですが、まだSXSWに提示できるようなソリューションを整える準備はできていなかった。そんななかで、いかに目新しさを見せるか、非常に悩みました。最終的に出展を決めたのも、ギリギリのタイミングでした。
 
出展するか否か、非常に悩んだという森氏

 そんな中、ソニーのユニークネスだと気がついたのは“人”です。苦しい環境下でモチベーションを保つのが難しい状況でも、チャレンジ精神を忘れずに開発に没頭している人が社内にたくさんいました。こうしたチャレンジをしている人が成果として問える場所をつくりたい、社内にもっと挑戦していいんだという機運をつくりたい、それが私の中でSXSWに参加する最も大きなモチベーションでした。

 2年目にはもっとやりたいという声もあがり、世間にもソニーが面白いことをやっているという姿勢を示すこともできました。ただ、「もっとソニーとしてのメッセージがほしいよね」という意見も多かった。

 そこで、われわれが打ち出したのが「Will technology enrich human creativity?」というメッセージです。現在はテクノロジーが進化し、それが人間に良く作用するのか、悪く作用するのか、という問題が出てきている。今年のソニーブースでは、問うところからスタートし、ソニーのやろうとしていることを体験してもらう。今回はそれだけではなく、セッションを豊富に用意し、社外の有識者も招いて議論を深めていきます。来場者には最後にそれぞれの回答を持ち帰っていただく。そして、もし良ければわれわれと一緒にやりませんかと投げかける。それが、今回のSXSWで思い描いているストーリーです。