アナログ停波がもたらしたテレビ特需に沸いた家電量販業界。これから先は、「祭りの後」をどう生き抜くかが最大の課題だ。最大手のヤマダ電機は、飽和状態にある日本の市場を飛び出して、中国での店舗展開を開始した。2010年12月に瀋陽でオープンした海外1号店に続き、今年6月には天津、さらに今年中にもう1店舗を開く予定だ。果たして中国で日本のノウハウが通用するのか。挑戦するとしたら好機はいつなのか。山田昇会長兼CEOに中国事業の戦略に聞いた。

山田昇会長兼CEO

天津は予想を上回る盛況、手痛い洗礼も



 ――6月10日に海外2号店としてオープンした「天津本店」の状況はいかがですか。

 山田
 それはもう、十分な手ごたえを感じています。お客様が多すぎて困ったぐらい。すでに天津でも一番店になっていますよ。12月に瀋陽で1号店をオープンしましたが、天津に比べてターゲットにする中間層以上の構成比が少ない。場所も繁華街のややはずれにあります。その点、天津は街のど真ん中の好立地。中間層以上の人口も多いので、売り上げ規模は瀋陽の倍になります。立ち上がりも早いですね。

2011年6月10日にオープンした「天津本店」

 ――オープン当日は、来店客の行列が延々と続いて流れが止まらない状態でした。店舗の運営は順調ですか。

 山田
 実は、オープン当日にトラブルが起きまして……。

 ――どんなトラブルですか。

 山田
 オープンの際に配ったタブロイド版のチラシでパソコンのスペックを実際よりも低く表記するといった誤植が1件ありました。そこで、日本と同様にチラシ価格のまま販売することで対応し、ご指摘なさったお客様のほとんどには納得いただきました。ところが、一部のお客様が騒がれたため、現場が一時騒然となって警察が出動する事態にもなりました。開店からわずか2時間ほどの出来事でしたが、横断幕まで用意して抗議するといった手際のよさに、びっくりしました。警察も明らかに仕組まれたものとの見方をしているようです。

 ――手痛い洗礼を受けたわけですね。

 山田
 チラシには、「万が一チラシ掲載で商品・型番・仕様・価格が印刷ミスによって異なる場合はご容赦ください」と書いてはあるのですが、もともと、オープンチラシを家電量販店が配ることを中国の家電量販店は実施していません。ですので、大きな競合が出店したからつぶしてやろうと、脅威に感じる同業者がいても不思議ではないのです。排除の理論なんですね。競争しながら市場を発展させるといった考えではないのです。それに対して、われわれは正々堂々と正攻法でいこうと決めています。

オープン当日の模様。店内は多くの人で賑わった

 ――その事件の後は、どのような対応をしたのですか。

 山田
 チラシの間違いは、ポスターにして店内に張り出して素直に謝り、次に出したチラシでもお詫びを入れるなどして対応しました。こうした事後処理に対して、行政側からは「さすが一流だね」と評価をいただいています。

 ――「瀋陽店」は開店から半年以上が経過しましたが、こちらの売れ行きはどうでしょう。

 山田
 「お客様第一」という経営の評価が数字であらわれ始めています。会員になっていただいたお客様の9割以上がリピーター。そのリピーターの客単価が上がり、売り上げが大きく伸び始めたのです。「日本式経営は中国でも十分通用する」と、自信を深めました。ただし、手間はかかります。

2010年12月10日にオープンした「瀋陽店」

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 ――手間がかかるのは、なぜですか。

 山田
 1ポイント1元で何にでも使えるポイントと、現金値引きのどちらも選べるといった、日本と同様のシステムを中国でも提供しているのですが、ゼロから説明しながら会員を増やしていかなければならないからです。しかし、手間をかけた甲斐があって、会員を増やせば売り上げが増えていく流れができました。都市型店舗では、これがキモになります。

中国では珍しいポイントカードに入会しようと多くの人でごった返す(写真は「天津本店」)

 ――日本式の接客や店舗のオペレーションの評判はいかがでしょうか。

 山田
 社員教育をしっかりしてきましたから、オペレーションに違和感はありません。さらに、買っていただいたお客様に一件一件電話して「ご不便はございませんか」と尋ねています。日本よりCSに経費をかけている。だから、お客様の評判は非常にいいです。また、アフターフォローによって情報収集にもつながっています。

 ――逆に日本と最も大きく違うのはどんな点ですか。

 山田
 販促の仕方ですね。日本であれば、店の規模と撒くチラシの数で、ある程度の効果を計算することができる。中国では、まず折り込み広告が自由に打てない。地域によっても違いますが、新聞は宅配がごく一部でほとんどが店売り。テレビCMも含め、費用対効果を勘案しながら最適化を目指して調整している最中です。

接客について徹底的に教育を受けている(写真は「瀋陽店」)

同業者はどんどん中国に出るべき



 ――そもそも、いつごろ中国出店を決意されたのですか。

 山田
 4年前の2007年です。持続的成長というのは企業の使命だと思います。しかし、少子高齢化が進む日本市場では、人口が減って国力が衰えていきます。それに、政治もこれといった手を打たない。これでは日本での成長に限りがあると思ったわけです。一方、中国はこれからGDP世界第1位になろうとしている国です。インドネシアやベトナムも将来的な選択肢としてはあるかもしれませんが、中国をさしおいて、ほかの国ということはあり得ません。アジアのなかでの中国の位置づけは非常に大きい。日本のメーカーはほとんど中国に進出していますから、サプライチェーンを考えても有利です。

 ――ほかの日本の家電量販店も、中国市場に打って出ようとするところもあるかと思います。

 山田
 「今がチャンスだ」といいたいですね。のんびりしていると遅れをとってしまうかもしれません。中国は、年率10%以上伸びている魅力的な市場です。加えて、法的整備が進んで出店しやすい環境が整いつつあります。まさに、今が一番いいタイミングです。3~4年前ではできなかった独資でのビジネスもできるようになりました。

 ――むしろ出るべきだと。

 山田
 中国は、まだ30~40年前の日本と同じで、未成熟なマーケット。現在の日本で当たり前に実践していることをやれば、十分戦っていけます。日本の家電流通業は、世界でも最先端を走っています。「お客様第一」の目線は強い。どこに行っても通用します。ただ、立ち上がるまでに時間がかかりますから、資金力はどうしても必要になりますが、とくに都市型店舗でノウハウのあるカメラ量販店などは、出るチャンスなのではないかと思います。成功すると思いますよ。

 ――独資での出店は、中国では何かと困難がつきまとうと聞きます。

 山田
 われわれの場合、市の誘致で出店しています。中国側が日本の店舗を視察したうえで、「こんな店が自分たちの市にも欲しい」と、お誘いがかかる。物件も斡旋していただきました。実は瀋陽店の物件も今回の天津の物件も、われわれが新たに建てたわけではないんです。
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最大のポイントは「人」



 ――これから中国で店舗展開を進めるにあたって、最も大事なものはなんでしょう。

 山田
 まず、「人」の質的・量的な確保が最優先です。瀋陽店の出店に先立ち、中国人留学生を100名採用しました。昨年度(2011年3月期)は50名、今年度も50名採用します。いい人材を確保し、企業文化や企業理念を徹底して教え込んで共有することが大事です。よく中国の人は日本の文化にはなじまないとかすぐ転職するとかわがままだとかいわれているようですが、必ずしもそうではありません。

 ――中国人の社員は御社に馴染んでいると。

 山田
 大量採用を始めて3年目ですが、社員は辞めていません。その代わり、給与がナンバーワンの同業者を最低レベルとして給与を決定しています。企業理念の徹底・実現のためには、必要なコストだと考えています。

 ――これから中国でどのように展開していくのですか。

 山田
 3年で5店舗の出店で、1000億円の売り上げが目標です。次の店は、今年末ごろにオープンの予定です。今は、まだ種まきの時期です。成果が生まれるのは、2~3年後からでしょう。回収は最低でも5年程度はかかるとみています。

 ――御社の出店は中国の家電量販市場にどんな影響を与えそうですか。

 山田
 中国の量販店は、まだ“場所貸し”ビジネスで、それ以外はメーカー任せです。自ら店舗を構え、人を採用・教育し、在庫リスクをとって、自分で宣伝して、自分で配送設置する、といったことはできていない。瀋陽店が開店した後、近くに中国式の家電店がたくさんできましたが、どこも状況はよくないようです。

 ――それは、どうしてだとお考えですか。

 山田
 自分のための店であって、お客様のための店づくりができていないからです。中国でヤマダ電機は、大きな一番店をつくる都市型の拠点展開だから影響が大きい。ユーザーも徐々に現在の中国式では満足しなくなります。ヤマダタイプの店にせざるを得なくなる。その結果、中国家電販売市の近代化が進むことになるでしょう。お客様のための店づくりを通じて、中国での業界の発展に寄与していきたいと思っています。(BCN・道越一郎)