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「D300」はこうして生まれた、ニコン渾身の「プロ」用デジタル一眼開発秘話

インタビュー

2007/11/22 16:30

 デジタル一眼レフ市場でキヤノンとシェアトップを争うニコン。そのニコンが11月23日に発売するデジタル一眼レフカメラが「D300」だ。最上位モデル「D3」と同時に開催した発表会では各国のマスコミを呼び、全世界にアピールした。これほどまでニコンが力を入れる「D300」とはどんなカメラなのか?その開発の狙いと販売戦略について担当者に聞いた。


●「D300」は“プロ用”デジタル一眼レフ

 「『D300』は中級機ではない。前モデル『D200』の後継機でもない。プロ用デジタル一眼レフカメラだ」――商品企画を担当した中村良夫・ニコン映像カンパニーマーケティング本部第一マーケティング部副主幹は、「D300」についてこう強調する。



 ニコンでは「D300」を、センサーサイズが23.6×15.8mmのニコンのデジタル一眼レフ用フォーマット「ニコンDXフォーマット」のフラッグシップ機として開発。中村副主幹が“プロ用”と力説するように、ニコンがもつデジタル一眼レフカメラの最先端技術が余すことなく盛り込まれている。「D300」のポイントになるのは「センサーと画像処理」と中村副主幹は説明する。

 センサーには、「D200」で搭載していたCCDではなく、「想定しているカメラの性能にあったベストな技術と判断」(中村副主幹)した、有効1230万画素のCMOSを採用した。アナログ信号をデジタル信号に変換するコンバーターを内蔵。センサー内で信号変換を行うことで、ノイズを抑え、データの読み出しを高速化した。オートフォーカス(AF)機能は、新型AFセンサーを搭載し、51の測拒点をもつ。



 画像処理は「D300」とプロ用デジタル一眼レフ「D3」のために2年をかけて開発した「EXPEED(エクスピード)」を搭載した。EXPEEDとはセンサー、画像処理回路、ソフトウェアで構成するニコンの総合的な画像処理技術。センサーと画像処理回路の間で起きる色の崩れをリアルタイムで補正したり、ノイズの低減などを高速で処理するのが特徴だ。



 設計を担当したニコン映像カンパニー開発本部第一設計部の檜垣利一副主幹は「D300」の写真の仕上がりについて「『D200』よりも少し明るく、派手な画作りになっている」と説明する。他社が画像処理回路の性能の高さをうたう中、ニコンでは回路を前面に出さない。その理由について檜垣副主幹は「画像エンジンだけで画(写真)が決まるわけでない」と話す。画像処理回路、デジタル信号などを処理するソフトなどの総合力こそが高画質な写真を生み出すというのがニコンの考えだ。

●AFの自動追尾もできる独自機能の“シーン認識システム”

 ニコンではセンサー、画像処理に加え、「シーン認識システム」を他社にない特徴的な機能に挙げる。シーン認識システムは「D300」が搭載する「1005分割RGBセンサー」と呼ぶセンサー使い、被写体の色や輝度の情報を取得・分析。その情報をAFや自動露出(AE)、オートホワイトバランス(AWB)の制御に反映する機能だ。

 目玉とするのが、シーン認識システムをAFに応用した「3D-トラッキング」という被写体の追尾機能だ。3D-トラッキングはセンサーで検出した色情報を使って、被写体が移動しても、その動きを追いかけてピントを合わせる。中村副主幹は「リアルタイムで被写体を追いかけることで、どんな時でもピントが合ったキレイな写真が撮影できる」と胸を張る。

 シーン認識システムは数年前から基礎研究が進めていたが、実用化に結びついていなかった。しかし、「D300」と、同時に開発を進めていた「D3」に搭載が決まり、「一気呵成に仕上げた」(檜垣副主幹)という。「被写体の色を認識・分析して情報化する手法をはじめ、その情報をAFと連動させるアルゴリズムの確立などに苦労した」と、檜垣副主幹は振り返る。

 「D300」はそのほかにも、センサーに付着したゴミやホコリを振動でふるい落とす「イメージセンサークリーニング機能」、「手持ち撮影モード」と「三脚撮影モード」の2種類のライブビュー機能なども備える。センサークリーニングはニコンのデジタル一眼レフでは「D300」で初めて搭載したが「他社のものより効果がある」(同)と自負する。「D300」にさまざまな機能を搭載したことについて、中村副主幹は「機能の品揃えを充実させた」と話す。

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●機能の多さでどんなユーザーの要求も満たす

 ニコンでは「D300」で多くの機能を搭載し、個々のユーザーで異なる要求に対応できるようにすることで、多くの人に使ってもらおうという狙いだ。  

 実際に「D300」に触れてみると、機能の多さや設定の細かさに驚く。檜垣副主幹は「このクラスのカメラは、できないことがあるとユーザーが不満を持つ。また、あまり使わないが、自分の求める機能があるから購入するという人が多い」と説明する。

 撮影機能に加え、自慢なのが電力消費の少なさだ。檜垣副主幹は「電池の持ちはデジカメの不満点で必ず挙がる」という。「D300」では自社のデジタル一眼レフで電池の持ちが良いと評価されている「D70」を目標に消費電力の削減を目指した。

 幸い、センサーに消費電力の少ないCMOSを採用したことがバッテリーの使用時間拡大に大きく寄与した。しかし、それ以外は回路の見直しなど、「小さいことの積み重ね」(檜垣副主幹)を続けた。その結果、付属のリチウムイオン充電池で、約3000枚の撮影が可能になった。



 省電力性は別売りのバッテリーパックでも追求。内蔵回路とコンデンサーを工夫することで、単3アルカリ乾電池8本で1000枚と、「D200」よりも大幅に撮影枚数を増やした。中村副主幹は「バッテリーパックを付けると、現行のプロ用デジタル一眼レフ『D2XS』と性能的には同じで、後継機と呼べるほどだ」と自信を見せる。

●“プロ用”というプレミアム感でユーザーを獲得

 「D300」のメインターゲットはプロカメラマンやハイアマチュア層。「D200」からの買い替えやフィルム一眼レフからの乗り換えユーザーの取り込みも狙う。ニコンではこうした人たちに、「D300」の機能の豊富さはもちろん、“プロ用”というプレミア感をアピールすることでユーザーを獲得していきたい考えだ。

 実勢価格はボディだけで23万円と決して安くはない。しかし、販売を担当するニコンカメラ販売の楠本滋・マーケティング・企画部MD課マネージャーは「D300」をプロ用カメラと位置付けた上で、「実勢価格で58万円する『D3』にはとても手が出ない人でも、『D300』なら手が届く。プロ機並の性能を考えればお買い得感がある」と強調する。

 ニコンではデジタル一眼レフカメラで、「他社よりも幅広く製品を揃えるラインアップ戦略」(楠本マネージャー)を掲げる。例えば、入門機では有効610万画素の「D40」、1020万画素の「D40X」といった2タイプのカメラを販売している。「1機種で幅広いユーザーをカバーするほうが販売効率は良いが、当社では複数の機種を用意することで、お客さんの要求に細かく対応できるようにしている」と楠本マネージャーは理由を説明する。

 今後は中級以上のユーザーに対するラインアップの充実を重要視しており、「D300」で「ミドルレンジとプロ用の間に厚みを持たせた」(同)と話す。こうした戦略をとるニコンでは他社の中級デジタル一眼レフをあまりライバル視してはいない。むしろ、「プロ用の『D3』が競合し、ライバルになる」(同)と見る。



 「D300」に対するユーザーの期待は高い。9-10月にかけて全国6か所で開催した発売前のイベントには実機を触ろうと多くの人が訪れ、東京会場では入場制限が行われるほどだった。8月の発表会では11月とだけ発表していた発売日も決定。11月23日には店頭に並ぶ。“プロ機”の「D300」がどれだけの支持を集めることができるのか、実力が試されるのはこれからだ。(BCN・米山淳)


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