地方の中小企業こそITの活用で付加価値を高めよう――第140回(下)

千人回峰(対談連載)

2015/07/30 00:00

桑山 義明

桑山 義明

シーガル 代表取締役社長

構成・文/小林茂樹
撮影/津島隆雄

週刊BCN 2015年07月27日号 vol.1589掲載

 桑山さんに「結局のところ、何をしたいのですか」とたずねたら、「こういう道具(IT機器)を通じて、何か人の役に立ちたいんでしょうね」と返された。そして「人に教えるのが好きなようですね。お金の匂いはしないけど」と水を向けると、「本当は手の内を隠して儲けたほうがいいのにね。そこがダメなんだなぁ」と苦笑する。頑張る市井の人が好きで、決して偉ぶることもない。そのスタンスは、おそらく桑山さん一流のダンディズムなのだろう。(本紙主幹・奥田喜久男)

「来年から実施されるマイナンバー制度でも、大きな事務負担が中小企業や小規模事業者にのしかかる。ITの力を借りないと無理な状況になるわけです」と桑山さんは警鐘を鳴らす。
 

写真1 「おもてなしギフト」の利点は、値崩れしない非日常的な商品を提供するサイトなので、きちんと利益を確保することができることにあるという。
写真2 中小企業の経営者は、パソコンの操作には抵抗感があるようだが、スマートフォンやタブレット端末はなじみやすいそうだ。
写真3 保存が義務づけられている「3万円以上の領収書」は、スキャンしてタイムスタンプを残せば、現物は廃棄してもいいという法改正の方針が打ち出されている。
 
心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
株式会社BCN 会長 奥田喜久男
 
<1000分の第140回(下)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
 

ネットショップは銀座に店を出すのと同じ

奥田 タブレット端末の伝道師として全国を行脚し、そこで感じられたことはありますか。

桑山 私が理事長を務めているNPO法人のOCP総合研究所では、3年前から日本商工会議所と組んで「オープンタブレットスクール」という研修を全国で行っています。地方の若い人たちの間には「いまのままではどうしようもない」「販路を広げたい」という思いがあり、ネットショップにその活路を見出そうと、多くの人が研修を受けに集まってきます。ところが、そうした地方を回ってわかったことは、自分たちが扱っているものに価値があり、高く売れるものだとは思っていないということでした。

奥田 過小評価していると。

桑山 その仕事を長くやっていればやっているほど、そういう傾向があります。例えば、宮崎県の串間市に行ったとき、港のすぐそばに大きな加工場があるのですが、ここで獲れた魚をすぐさばいて、1パック200円、300円で売っているんです。これほど新鮮でいい魚が、こんなに安くていいのかと思いました。ところが、夜、地元の若者たちと飲んで、この話をすると認識がまったく違うんですね。自分たちは子どもができたら、ワンボックスカーを買って釣りに行くのだと。地元の人にとっては、魚は買うものではなく、釣ってくるものという発想なんです。だから、水揚げされた魚のクオリティが高くても、もっと高く売れるとは考えないのです。ですから、IT云々というよりは、マーケティングの意識を変えていくことが先決だと思いましたね。

奥田 地域社会で生産されるものへの価値評価、つまり都会でいくらで売れるのかということが、地元の人たちにはピンときていないということですね。

桑山 そうです。ですから「ネットショップのお客さんは地元の人ではなく、東京・大阪・名古屋という日本の人口の半分が対象。だから、ネットショップを出すということは、銀座の目抜き通りに店を構えるのと同じことなんだよ」と説明します。このように発想を変えてもらわないと、うまくいかないと思います。

奥田 それはわかりやすい説明ですね。

桑山 実際に銀座に店を出すのであれば、家賃その他でお金がものすごくかかります。でも、高級店のネットショップをつくっても安売り店のネットショップをつくっても、それにかかる費用はまったく変わりません。そう説明して、「それだったらおれたちにもできるな」と思ってもらえればと考えています。
 

小規模事業者にこそ求められるIT活用

奥田 研修で、タブレット端末を使って店を開くところまでやるとおっしゃいましたが、具体的にはどのように?

桑山 そこは、二通りの方法を考えています。一つはタブレット端末の操作だけでできるヤフーの「eコマース革命」を使って出店するもの。もう一つは、横須賀商工会議所がやっている「おもてなしギフト」というサイトを使ったネットショップです。これもヤフーと協力し、Yahoo!ショッピング上に開店するものですが、自分でサイト構築するわけではないので店側にとっては手間がかからないというメリットがあります。

 いま、政策的にもそれぞれの地域の特産品にフォーカスして全国や海外に売るといった動きも加速しているので、タイミング的にはいいと思います。それから、スマホやタブレット端末の普及で、夜中でも手軽に買い物ができるようになったことも大きいでしょう。これまではパソコンを立ち上げなければできなかったことに比べれば、すごく有利な環境になってきたわけですね。

 「おもてなしギフト」のサイトでは、生産者の顔が全部見られるかたちになっています。親しみや安心感を伝えられると同時に、その価値を伝えることも可能です。それと、「ギフト」という切り口も非常にいいと思いますね。

奥田 それは、どうしてですか。

桑山 他人に贈るものだから、まず値段ありきなんです。香典返しで5000円ぐらいのものを贈りたいとか、子どもが産まれてお祝いをもらったので内祝として3000円くらいのものをお返ししたいとか、予算をあらかじめ決めてくる。値崩れしない非日常的な商品を提供するサイトなので、きちんと利益を確保できるということです。

奥田 なるほど。それが銀座の高級店なんですね。

桑山 小規模事業者にとっても、ITがようやくビジネスの道具になってきたということは、そういうことなのです。反面、小規模事業者ほどITを活用しないと生き残れないという場面も増えています。

 例えば、これまで7年間の保存が義務づけられていた3万円以上の領収書ですが、スキャンしてタイムスタンプを押したデータを残せば、現物は捨てていいという法改正の方針が打ち出されています。大企業にとっては保管コストの低減に直結するため、スキャナー保存の態勢をすぐに整えると思いますが、実は現場で発生するお金のやりとりと領収書の数は、小規模事業所になればなるほど多いのです。また、来年から実施されるマイナンバー制度でも、大きな事務負担が中小企業や小規模事業者にのしかかります。法律で決まったのだから仕方がないとはいえ、その負担を軽減するなり楽にしないと、廃業する事業者も出てくるでしょう。まさにITの力を借りないと無理な状況になるわけですね。

奥田 ここも、中小零細企業の味方である桑山さんの出番ですね。

桑山 残念ながら、この領域は儲かる市場じゃない。そこが悩みどころです。ただ、青色申告をしている個人事業主は100万人以上いて、白色申告の人を含めればその倍以上になりますから、その支援はビジネスとして成り立たないことはありません。国としても、若者や女性、シニアに起業を奨励しているわけですからそのあたりも考えてもらいたいところですが、ITをきちんと使って、私も小規模事業者も、どう儲けるのかと知恵を絞らなければなりませんね。

奥田 一連の話をうかがっていると、昔から変わらないですね。やっぱり「世のため人のため」なんだ(笑)。これからも変わらぬご活躍を期待しています。

 

こぼれ話

 桑山さんへ。「今回のインタビューでも時代の流れを確認することができました。ありがとうございます」。長い間、新聞記者の仕事をしていると、得をすることが多い職業だとしみじみ感じる時がある。今回もそうだった。自分が疑問に思っていることや、聞きたい事柄を堂々とたずね、桑山さんは実に丁寧に教えくれる。

 彼の対人姿勢は、最初に出会ったパソコン産業の黎明期当時から変わらない。いつもシステムが発展する半歩先をわかりやすく伝えてくれる。活動拠点は八王子で、常に中小企業の経営者側に立っている立ち位置も変わらない。

 そして惜しげもなくノウハウを開陳する。普通の人なら、そこで“儲ける”過程を経るのだが、桑山さんは、教えて人に喜んでもらう姿を見るのがお好きなようだ。だからいつお会いしても「お金には縁のない伝道者のような人だな」というオーラが伝わってくる。その爽やかさがなんとも素敵なのである。定期的にお会いしたくなる人だ。ウェブ(Bizline)では千人回峰の36回目に登場してもらっています。またお会いしましょう。

Profile

桑山 義明

(くわやま よしあき) 1946年新潟県生まれ。68年、信州大学工学部卒、日本分光入社。79年、パソコン専門のシステムプラザ、シーガルを設立。同社代表取締役社長。パソコンを利用した基幹業務および情報系システム構築の企画、構築、運用を手がけ、数多くの業務や業種のシステム構築を経験。また、日本商工会議所や経済産業省(中小企業庁)の依頼で、全国の中小企業のIT、EC化支援を行っている。特定非営利活動法人OCP総合研究所理事長も務める。

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