日本の資源は日本で使う 真の循環型社会を実現――第112回(下)

千人回峰(対談連載)

2014/06/12 00:00

松山 保夫

松山 保夫

イー・アール・ジャパン 代表取締役社長

構成・文/谷口一
撮影/勝山弘一

週刊BCN 2014年06月09日号 vol.1533掲載

 イー・アール・ジャパン(ERジャパン)のリサイクル工場の月間処理能力は2000トン。小型家電リサイクルを主に行う工場として最新の設備をそろえた大規模なものだという。全国に店舗をもつ量販店だからこそ、各店舗を通じて効率よく家電製品を回収することができるのだろう。さらに、小型家電リサイクル法の事業者の認定を受ければ、自治体が回収した分も処理・資源化が可能になって、日本の資源を日本で使うという企業コンセプトが、さらに確かなものになる。パソコンやケータイは、とくに希少金属の宝庫といわれている。ERジャパンの挑戦を長い目でみていきたい。(本紙主幹・奥田喜久男  構成・谷口 一  写真・勝山弘一) 【取材:2014.4.10/東京都千代田区のBCN本社にて】

2014.4.10/東京都千代田区のBCN本社にて
 
 「千人回峰」は、比叡山の峰々を千日かけて歩き回り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借しました。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れることで悟りを開きたいと願い、この連載を始めました。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
株式会社BCN 会長 奥田喜久男
 
<1000分の第112回(下)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
 

安心・安全でリユース・リサイクルを請け負う

奥田 小型家電リサイクル法は、資源の有効利用と環境汚染防止が趣旨だとうかがいましたが、現状、小型家電はどう扱われているのですか。

松山 日本で1年間に使用済みとなる小型家電は65万トンにものぼり、そのなかに有用な金属が28万トンあって、お金に換算すると844億円にもなるといわれています。しかし現在は、鉄などの一部の金属を除いて大半が廃棄物の埋め立て地に処分されています。

奥田 そうなんですか。レアメタルなど希少な資源も捨てられているわけですね。

松山 ええ。それに小型家電には鉛や水銀、フロンガス、塩ビなどの環境に影響を及ぼす物質を使用したものもあって、適正な処理が必要なのです。不法投棄や不適正な処理は環境汚染や健康被害を引き起こす懸念があります。

奥田 リユースでは、パソコンやケータイのセキュリティの問題もありますね。

松山 そうです。われわれの工場では、1台1台バーコードをつけて、回収からデータ消去、リユース商品として出荷するまで、徹底した管理体制を構築しています。
 

事業推進、そして社会貢献

奥田 事業計画があると思いますが、具体的な数字を教えていただけますか。

松山 5年後に年商20億円という目標を掲げています。

奥田 ところで、広島県の福山に本社、工場を設けられたのは、どんな理由からでしょう。

松山 エディオングループでとくにシェアが高いのが広島県なのです。ですから地域社会に対する貢献度も高くなると考えました。また、福山にはリサイクル企業向けの工業団地があって、環境も整っていました。エディオンは名古屋以西を中心に店舗を展開していて、ほぼ中央に位置する福山に工場を設けるということは、運搬の面でも地の利も得ていることになります。

奥田 地域社会に貢献するという話がありましたが、具体的に聞かせてください。

松山 とくに障がい者雇用に積極的に取り組んでいます。昨年は知的障がいのある人を10人、正社員として雇用しました。今年も4人が入ってくれました。合計で14人が働いてくれています。仕事は主にパソコンの解体です。地元の特別支援学校や定時制高校から入社してくれたのですが、入社前には先生方が何度も実習に連れて来られました。そして、適性をしっかりと見極めて、「ここなら大丈夫」ということで、働いてもらっています。

奥田 それはすごいことです。しっかりと地元に根づいてきているということですね。

松山 ERジャパンの高いリサイクル率を支えているのは、人の手です。パソコンやケータイなどの情報通信機器の分別・解体は、手作業が基本です。一人ひとりの丁寧な作業で、小さなボルト1本までリサイクル活用することを可能にします。障がい者14人のほかに正社員が12人、パート社員が6人いて、さらに派遣社員などを合わせた合計およそ50人が日常の仕事に従事しています。

奥田 手作業が基本ですか。そこから資源を選り分けていくわけですからね。企業理念である「日本の資源を日本で使う」は、まさにそれなんですね。

松山 販売店が販売した商品について、販売後の廃棄物の削減やリユース、リサイクルの推進にもっと積極的に取り組むべきではないかと思っています。消費者と直接接している販売店だからこそ、この領域をきちんとやったほうがいいという思いがあります。

 われわれは、広島、福山に根をおろした会社となって、事業としてもきちんと成り立たさせて、地元や地域社会にも貢献したいと思っています。

奥田 リサイクルと社会貢献、期待しております。ありがとうございました。

ERジャパンの新入社員歓迎親睦会
「サンフレッチェ広島応援バスツアー」の同行記

 5月10日、天候は晴れ。Jリーグ13節、サンフレッチェ広島対清水エスパルスの闘いがエディオンスタジアム広島で繰り広げられた。この試合を観戦する応援ツアーを組んだのはERジャパンだ。参加者は総勢40人、福山からバスを借り切ってのツアーだ。参加者の内訳は、社員13人、障がいをもつ社員14人・その家族13人だ。

 障がいを抱える人たちに気持ちよく働いてもらうためには、工場勤務の社員同士はもちろん、家族との連携が欠かせない。こういったイベントを催すことで、お互いの関係をより密なものにしている。

 会場のエディオンスタジアム広島までは約2時間のバスの旅。会場到着後は全員で記念撮影を行い、試合開始まで1時間ほどは、グッズ購入やスタジアム周辺の散策など、各自が自由時間を楽しんだ。試合開始1時間前には応援席について、みんなでサンフレッチェ広島公認の「王者の幕の内弁当」を広げながら応援の準備を整えた。

 試合中は、サンフレッチェ広島のチャンスやピンチに一喜一憂。サンフレッチェはJリーグ、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)など連戦の疲れの影響か、後半は清水エスパルスに押し込まれる場面が何度かあった。手に汗握る展開の末、守備陣の踏ん張りと応援の甲斐もあってか、なんとか引き分け(1対1)で試合終了。

 試合を観戦した後は、興奮冷めやらぬままバスに乗車し、福山への帰路についた。

 参加者の全員が笑顔を絶やさず、イベントに参加していることを実感しながら、楽しんでいる様子がうかがえた。

 この後、夏になれば福山工場敷地内でのバーベキュー大会を実施するなど、定期的な親睦と交流の場をつくっていく。(BCN営業グループ 近藤篤)
 

 

 

こぼれ話

 話し込むうちに、方言のイントネーションで松山さんに「お生まれは“岐阜かね”」とたずねたら、「そうだよ」という答えが返ってきた。もうずいぶん以前の話だ。以来、松山さんとは地元言葉で話し、長良川の上流で釣り落とした鮎を私が下流で釣る、などとたわいない会話をして同郷のよしみを楽しんでいる。ERジャパンの出資会社である木村メタル産業も、岐阜に拠点をもつ。量販店初のリユース・リサイクル会社の誕生は、本文に詳しい。実はそれには裏話がある。エディオンの総帥・久保允誉さんが、とある寿司屋で食事をしているとき、日本語が流暢なドイツ人と隣り合わせた。きっと「日本語がお上手ですね」といった具合で、会話が弾んだことだろう。そのドイツ人はリサイクル関連の仕事に携わっていて「都市鉱山」に話が及んだ。「ほぅ、そんなに金が採れるのですか」という話を久保さんが聞いて間もなく、ERジャパンの創設が起案されて、稟議に回ったとか。循環型社会の構築は素晴らしいことだ。
 

Profile

松山 保夫

(まつやま やすお)  62歳。岐阜県出身。1970年、栄電社に入社。91年4月、情報事業部長に就任、パソコン専門店事業を立ち上げた。95年6月、取締役に就任。社長室長など歴任。2010年6月にはエディオン取締役に就任。エディオンでは物流サービス本部長を務め、12年4月からイー・アール・ジャパン代表取締役社長。