「台湾経由で中国へ」IT事業のサービス化が進出の決め手――第62回

千人回峰(対談連載)

2012/02/24 00:00

岡積 正夫

岡積 正夫

流通戦略総合研究所 代表取締役

構成・文/谷口一

日・中・台間の協定が中国への進出を促進する

 奥田 では、こうした環境のなかで、中・台・韓を見据えながら、日本のIT業界はどのような道を歩んでいけばいいのでしょうか。

 岡積 この1~2年の間に、制度面で大きな動きがありました。最近、日本でも話題になっているTPPやFTAなど、条約に関連するものです。実は日中間には、コンピュータサービス、著作権など、サービス貿易に関する相互保護の条約などがいまだに存在しません。投資に関しても、お互いを保護する協定がないんです。

 奥田 ソフトウェアの権利を守る協定もありませんね。

 岡積 こうしたビジネス環境のなかで、日本の大手・中堅IT企業は、自分たちの都合で中国技術者の活用をどんどん進めてきたわけです。国によって遵守事項やIT開発の考え方が違うにもかかわらず、会社を設立したり、投資をしたり……。その結果、法律的に保護されていないから、多くの企業が失敗して、ダメージを受けた。リーマン・ショックの前から、すでにそういう状態だったんですね。しかし、まず、2010年6月に中国と台湾の間で経済協力枠組み協定(ECFA)が締結されて、2011年9月12日に発効しました。

 奥田 ECFAを少し説明してください。

 岡積 大づかみにいえば、中国と台湾は表向きには国交がありませんが、お互いの投資は保護していきますよ、という条約です。著作権も投資も、さらに税制面でもお互いに優遇するかたちができたわけです。2012年1月には、関税の引き下げがスタートします。

 そして、もう一つの大きなイベントとして、2011年9月22日に台湾と日本との間で投資保護・促進・自由化に関する日台投資協定が結ばれたことが挙げられます。日本の企業がダイレクトに中国に進出してもまだ法的な保護はありませんが、台湾を通して中国に進出すれば保護協定で守られるということです。これで、新たなオフショア開発が進めやすくなりました。

「IT」イコール「サービス産業」の時代に突入

 奥田 日・中・台の関係が、この2年の間で目に見えて動いたということですね。

 岡積 その通りです。さらに、これからは単にソフト開発で、台湾経由で中国へ出るだけではありません。私は今、台湾の関係者に「ITをサービス産業として育てよう」とアドバイスをしています。

 奥田 そうなると、クラウドも関わってきますね。

 岡積 東日本大震災の影響で、リスク管理に対する企業の意識が高まり、事業継続を強化するために、データセンターサービスやクラウドサービスの需要は急激に増加しています。また、日本企業のアジア進出が新たなステージに入って、台湾のIT産業も積極的にサービスビジネスに転換してきました。ものづくりや開発だけではなく、ITをサービス産業としてアジア全体でお互い連携して関係をつくっていかなくてはいけない。その流れが、今やっとできてきました。

 奥田 台湾も中国もサービス産業化に動き出している、と……。

 岡積 そうです。ソフト開発だけでなく、データセンター、すなわちクラウドセンターもまるごとウェルカムですよ、という時代に入っています。

 奥田 中国は、一連の動きをどうとらえているのでしょう。

 岡積 中国のIT業界も、これからはクラウドの時代だとわかってきていて、開発よりも高度な運用関連のほうがビジネスとしてはるかに大きいと認識していると思います。開発のように、一度だけで終わってしまうビジネスではありませんから、雇用は圧倒的に増える。それだったら喜んで受け入れます、という流れが一気に来るでしょう。こうした状況のなかで、台湾側は、「中国を深く理解しているわれわれをもっと活用したらどうですか」と日本の企業に強く働きかけてきているわけです。

 奥田 流れがはっきり見えてきましたね。

 岡積 単純なオフショア開発ではなく、日本のあらゆる業種の企業が中国に出て行くために、中国のそれぞれの地域に拠点が必要です。そこから中国の人たちにものやサービスを提供する、その拠点で働く人たちは、これまでは製造現場で「作業」をしてもらう人だったけれど、これからはITを「運用」する人たちを雇用する。場所も人も、そういうメカニズムをつくっていく。それが日本の生きていく道だと思っています。

 奥田 貴重なヒントをありがとうございます。日本の企業にとっての一つの道筋が見えてきたように思います。

「日・中・台の関係が、この2年の間で目に見えて動いたということですね」(奥田)

(文/谷口 一)

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Profile

岡積 正夫

(おかずみ まさお)  1973年中央大学法学部卒業。サンリオ入社。経理課長、財務課長、上場PM、業務管理部次長、情報システム部長、マルチメディア事業担当部長等歴任し、1998年に退社。以後、複数の上場企業CIO、顧問を経て、2002年流通戦略総合研究所代表取締役に就任。大手ITベンダーのアウトソーシング事業創設支援、全国自治体でIT最適化計画策定、基幹システムアウトソーシングによる雇用創生・データセンター開設プロデュースなど、幅広く活躍する。