中国には、「水を飲むときは、初めに井戸を掘った人のことを忘れてはいけない」という格言がある。富士通はまさにIT分野で、最初に井戸を掘った企業である。しかし、激動の中国では過去の功績に胡座(あぐら)をかいてはいられない。常にローカルの現場感覚を養いながら、中国政府の動向も読む。巨大市場に向き合う富士通(中国)のトップを務めておられる両氏に、中国観などについてざっくばらんに語っていただいた。【取材:2011年6月23日 北京・富士通(中国)にて】

 「市場を開拓するとなると、営業活動に付随する教育とかサポートとか人件費とか、諸々のお金がかかる。しかし、実際に売り上げに結びつくのは2年から3年後。この投資がなかなか理解を得にくいですね」と箕田さん(写真右)。

高澤さん(写真左)の観察によれば、「中国は有線の電話機が普及する前に、飛び越えて携帯電話が普及しました。携帯電話も一歩一歩進化していく段階を経ずに、一気にスマートフォンに飛んでいます」とのこと。
 
 「千人回峰」は、比叡山の峰々を千日かけて歩き回り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借しました。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れることで悟りを開きたいと願い、この連載を始めました。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
株式会社BCN 社長 奥田喜久男
 
<1000分の第58回>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
 

市場開拓も工場の建設も同じ投資

 奥田 箕田さんの肩書きは中国総代表ですが、具体的にはどういうミッションを担っておられるのでしょうか。

 箕田 中国総代表は2009年からですけど、コーポレートというか、自分で直接商売をするという役割ではありません。政府の関係筋とのパイプ役になったり、中国にある富士通グループ46社の持ち株会社としての役割もありますし……。

 奥田 いわゆる“顔”ということでしょうか。

 高澤 総代表というのは、一つは富士通グループを代表して中国側に向けて何かあった時に出て行くという役割と、もう一つは中国の富士通グループを代表して日本の富士通にモノを言うという役割の二つがあります。看板を背負っているという感じですね。

 奥田 2009年というと、リーマン・ショックの直後で日本経済もどん底でしたから、中国に対してはすごく期待がありましたね。

 箕田 期待ということでいえば、胡錦涛国家主席、温家宝首相が誕生して政権が一気に若返った2003年からじゃないですかね。

 奥田 長期レンジではそうですね。それでリーマン・ショックで、さらに中国に対する期待が大きくなったと思います。

 箕田 確かに日本経済は大きな打撃を受けましたが……。当時、私が思ったのは、本当に中国をやるんだったら、市場を開拓するために、さらに投資しなきゃいけないということでしたね。

 奥田 というと?

 箕田 工場をつくるというのはどのくらいの資金が必要かがすぐにつかめます。形として見えますし。ところが、市場を開拓するとなると、営業活動に付随する教育とかサポートとか人件費とか、諸々のお金がかかるわけです。しかし、実際に売り上げに結びつくのは2年から3年後です。これがなかなか理解を得にくいですね。形として目に見えませんから。市場開拓も、工場を建てるのと同じように投資なんですが……。

 奥田 工場だと確かに費用対効果というのが一目瞭然ですが、販売に関しては見えにくいですね。

 箕田 そうなんです。見えにくいから、よけいにハッパをかけられる。中国市場を大きくしろと、頑張れ頑張れとなるんです。市場を開拓するというのは、モノを作ったり工場を建てるのとはまったく違う意識が求められるけれど。

 高澤 工場建設というのはわかりやすい投資なんですが、市場開拓に投資を期待するのは、目に見えないだけになかなか難しいです。
 

真ん中を飛び越えていく中国のスピード

 奥田 中国に進出しておられる日系企業のリーダーの方と面談したら、プラス指向で話されるタイプと、マイナス指向で話されるタイプに大きく分かれますね。

 高澤 市場のボリューム的には、中国は間違いなく大きいですね。これは誰も同じ意見でしょう。

 奥田 やむなく進出せざるを得ない企業であっても、中国が巨大な市場であることについては異存がないということですね。

 箕田 富士通でいえば、工場(ものづくり)から市場に目を向けて、今はプラットフォームからソリューション、クラウドを代表とするサービスへと変化している段階です。今がまさに転換期でしょう。

 奥田 どう転換していくのでしょうか。

 箕田 富士通の強みは総合力ですから、プラットフォームもミドルウェアも、それらの技術者もノウハウもありますから、例えば、それらをクラウドというビジネス形態でいかに生かすかということです。

 奥田 クラウドのコンセプトと中国のコンピュータ市場の進化などをみると、日本よりも中国のほうがクラウドへの距離は近いように感じるのですが……。

 高澤 確かに、そういう面はあります。

 奥田 一気にいくような気がしますね。

 高澤 電話機をみていただければわかりますが、中国は有線の電話機が普及する前に、飛び越えて携帯電話が普及しました。携帯電話も一歩一歩進化していく段階を経ずに、一気にスマートフォンに飛んでいます。

 奥田 もう、スマホに!?

 高澤 ええ、日本よりもずいぶん普及してますよ。ですから、真ん中を飛び越す速さは、日本なんか比べ物になりません。日本の場合は、有線電話も携帯電話も、一歩ずつ積み上げてきたので、途中の段階で膨大な投資をかけています。ですから、簡単には捨てられないのです。

 奥田 なるほど、そういう面はありますね。

 高澤 会社のSIシステムも日本では莫大な投資を行って構築しますから、簡単には捨てられない。ところが、中国では何ももっていないので、新しいサービスが使った分だけの時間料金で利用できるとなると、すぐに飛びついちゃいますね。

 箕田 銀行のATMも中国では現金切れになったら払い出し終了、何でもシンプルです。だから、一気にいくときはすごい速さが出ると思います。

 奥田 やはり、一気ですか。

 箕田 必要なときに必要なぶんだけ借りるということですから、ゼロのところはクラウドが入りやすくなるわけです。新しく会社を起こそうとかいう人たちには、とくにクラウドのニーズがありますね。そういう人たちは確実に飛びつくのではないでしょうか。

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