中国が栄えれば、必ず日本も栄える――第55回

千人回峰(対談連載)

2011/07/19 00:00

浦 聖治

クオリティ 代表取締役社長 浦 聖治

構成・文/谷口一

『たまな食堂』、そして「S」のこだわり

 奥田 ところで、今日お邪魔している『たまな食堂』ですが、IT企業であるクオリティさんが開いておられるわけですけど、どういう経緯で始めたのですか。

 「たまな食堂」は、クオリティがNATURAL FOOD STUDIOとして経営する自然食レストラン。自然食の料理法を教える「たべごと食堂」と、食材販売の「たべもの商店」を併設している。


 浦 私どもの企業理念に「豊かな世界の創造に貢献する」というのがあって、その豊かな世界と言ったときに、真っ先に思い起こすのは、アフリカやバングラデシュの飢餓なんですね。

 奥田 ええ、そうですね。

 浦 やっぱりわれわれは、そういうことにも何らかのチャレンジができる会社になりたいというのが、常にあったわけです。とはいっても、一足飛びにできるわけではない。ふと日本をみると、太陽とか水とかに恵まれて豊かであるのに、食料の自給率が40%を切っているという、非常におかしな状態にある。そこで農業が重要だと感じたわけです。それで何かしなければいけないということで、「クオリティライフ」という会社を創りました。われわれはITの会社ですけど、ITを提供するだけではなく、ユーザーの一人として、一次産業を支援していかなくてはいけないと考えたわけです。

 奥田 農業が重要だという前提があった…。

 浦 ええ。それでいろいろ調べていたら、「浦さん、今から農業をやんなくていいよ、われわれが農業をやるから」と農業の専門家に言われました。今、問題なのは流通なんだというわけです。そういうことを考えているうちに、他の側面をみてみると、医療業界、製薬会社の売り上げがどんどん増えて、日本人の健康がそれに反比例して下がっているわけで、大いに矛盾しているんですね。

 結局、ちゃんとした物を食べて、ちゃんとした物にお金を出して、健康な体をつくろうという人を増やさなければいけない。そしたら、農業もやりがいのある職業になるし、やっていける職業になると。それを一挙にやるには、いいものを食べて健康を目指す人を増やすことだと確信したわけです。日本人の健康にいいし、日本の土地も健康になる。人と大地を健やかにということで始めたわけです。

 奥田 素晴らしいですね。

 浦 まずこの食堂で、「野菜って、こんなにおいしいの」ということを実感していただく。ここでは食に関する講座もやっていますから、意識を高める人を増やしていきたいと考えています。ここはアンテナショップですから、近い将来はネットも駆使して生産者とエンドユーザーとをしっかりとつなぎたいですね。

 奥田 なるほどIT活用ですね。

 浦 初めからバーチャルでやっても、結局は何もできないですから、まずはリアルで苦しい思いをしたあと、そっちに行こうという作戦です。軌道に乗ったら上海でもやろうと思っています。いずれ、拠点があるところは全部やろうと。

 奥田 『たまな食堂』の「たまな」って、どんな意味があるのですか。

 浦 賜った菜という意味です。自然から賜った野菜、農産物ですね。

 奥田 いずれ上海にもソウルにもお店ができることになる。そういえば、和歌山県の白浜もそうですが、クオリティが進出している都市はみんな頭に「S」が付きますね。

 浦 たまたまそうなっただけですが、ストックホルムにもサンクトペテルブルグにも行きたいと思ってます。

 奥田 「S」のこだわりですね。

 浦 上海に格好がついて、ソウルが動き始めたら、次はシンガポールでやりたいと思っています。パートナーもいますし。

 奥田 「S」は果てしなく続くわけですね。

 インタビューを終えた後、「たまな食堂」でランチをご馳走になった。木の香のする店内、しっかりと野菜の味が活きている献立。なんだか健康になった気がした。「いただきます」「ごちそうさま」が自然と口から出る店。浦社長の日焼けした顔を拝見していると、「五穀豊穣」――そんな言葉も口をついて出そうになった。(奥田喜久男)


(文/谷口 一)

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Profile

浦 聖治

(うら きよはる) 1952年、和歌山県生まれ。73年3月、国立和歌山工業高等専門学校電気工学科卒業。同年4月、パイオニア入社。カーステレオ事業部にて生産技術業務に従事。米国勤務。81年2月、同社退職。同年9月、マイクロシステムズ入社。プロダクトマネージャ兼テクニカルライターとしてソフトウェア開発に携わる。83年9月、同社退社。84年2月、クオリティサービス(現クオリティ)を設立、代表取締役に就任。