<Sensation>日本発の「AI家電」を問う

特集

2017/01/30 11:30

 新春早々、総務省が国内の通信事業者や電機・自動車メーカーと共同で日本語認識AI(人工知能)を開発するとの方針が報じられた。背景には、海外企業による家庭向け音声認識AIサービスの成功がある。


<POINT>

1 総務省が日本語認識AI開発を推進か
2 海外では普及が進むが、国内では疑問の声も
3 官民ともに需要が欠如したアプローチが目立つ
 

「海外企業に対抗」、総務省のAI開発方針

 昨年夏に米Amazon.comが販売を開始した家庭用音声アシスタント端末「Amazon Echo」は、現在も品薄状態が続く。ホリデーシーズンには、期間中に同社サイトでもっとも売れた商品となるなど、すでにヒット商品になりつつある。米Googleも「Amazon Echo」のヒットを受けて、同等の機能を搭載する「GoogleHome」を発売。市場は急速に活性化してきている。
 

米Amazon.comが昨年発売した家庭用音声アシスタント端末「Amazon Echo」

 「海外企業に国内の音声認識から得られる重要データを握られる前に、対策を打たなければならない」。2017年1月9日の産経新聞に掲載された同省幹部のコメントからは、突如として沸いた外部要因に寝耳に水といった印象を受ける。

 しかし、家庭用音声アシスタント端末の普及が予想以上とはいえ、国内の音声認識AIが海外と比較して遅れをとっているのは、今に判明したことではない。理由は日本語のビッグデータは英語と比較して圧倒的に少ないからだ。近年のAI発展の基礎となっているディープラーニングは、莫大なデータを機械学習することで物事を認識する。そもそも、国内のみに限定される日本語リソースでは、太刀打ちすることすら難しい。

 今回の施策対象となる主なサービスは医療や自動車分野で、「Amazon Echo」に代表される家庭向け端末と正面から対抗するものではないようだ。

AI家電ブーム到来? 音声認識の普及に疑問の声も

 国内の一般消費者向けでも、「AI搭載」をうたう家電は増加している。期待値は業界関係者だけでなく、一般ユーザーからも高い。毎年恒例となっている「日経トレンディ」が発表する17年のトレンド予測では、音声認識を軸にした「AI家電」が1位にランクイン。昨年もAR/VRをはじめ、最先端テクノロジーがヒットを生み出していることもあり、注目度は高い。

 一方で、音声認識が日本人の生活様式に受け入れられるのかという懸念もある。現に音声による家電操作は、数年前に登場している技術であるにもかかわらず、普及する気配はなかなか見えてこない。精度は確実に進化しているが、そもそも需要を創出できていないのではないか。家電量販店の売り場でも「音声認識が商品購入の決め手になることは少ない」という声が聞こえる。

 このハードルをクリアするために、シャープは擬人化によるアプローチを試みている。昨年発売したロボット携帯電話「RoBoHoN」に続き、会話ロボット「ホームアシスタント」を年内にリリースする予定。こちらは前述した「Amazon Echo」のような役割を担う。シャープはこれまでも電子レンジやロボット掃除機に音声認識機能を搭載してきたが、いずれも市場を形成するまでには至っていない。コミュニケーションを促進する形態変化は、従来の反省を生かした工夫といえる。
 

シャープが開発中の会話ロボット「ホームアシスタント」

欠如する国内市場への目配せ、独自路線のAI活用を

 音声認識が国内で普及しない根幹には、需要の欠如がある。音声認識は利便性を高めるためのテクノロジーだが、声を発することはユーザーに能動的行為を強いる。「家電のために人が働きかける」という意識がある以上、国内で普及する可能性は低いだろう。

 国内メーカーによる「人に意識させないAI」は、生活家電分野のほうが進んでいる。例えば、生活者の表情や体温を検知して空調制御するエアコンなど、ユーザーが生活スタイルを変えることなく、利便性向上につながる機能が徐々に台頭してきている。

 官民一体でAI開発に本腰を入れるのなら、海外企業に負けじと対抗するのではなく、世界に先んじる日本発のAI用途の創出に期待したい。(BCN・大蔵 大輔)