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ダウンロード数は世界で2億回超え! お絵描きアプリ「アイビスペイント」が急成長する理由

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2022/06/16 17:30

 かつて専用機材やスキルが求められた「デジタルペイント」は、ここ10年で市場環境が大きく様変わりしている。その変化を象徴するのが、誰でも手軽にイラストを楽しめる「お絵描きアプリ」の存在だ。特に国内外で圧倒的支持を集める「アイビスペイント(ibisPaint)」は、2020年以降の巣ごもり需要を追い風にユーザーが急拡大。2022年6月現在で累計ダウンロード数は約2.4億回を超えているという。なぜここまで支持が広がったのか。アイビスの神谷栄治社長に理由を聞いた。

お絵描きアプリ市場で圧倒的支持を誇る「アイビスペイント」。
急成長の理由をアイビスの神谷栄治社長に理由を聞いた

手軽さだけじゃない お絵描きアプリが変えたもの

 アイビスペイントがリリースされたのは2011年。徐々にガラケーからスマートフォンへの乗り換えが進んでいたタイミングだ。スマホならではのタッチ操作を生かしたさまざまなアプリが登場していた時期でもあり、アイビスペイントもこの新たな市場を狙った。「モバイル向けのペイントアプリが登場する以前は、デジタルペイントをするために、PCを用意して、筆圧感知するペンタブレットを揃えて、有料のソフトを買って…とかなりハードルが高かった」と神谷社長は当時の環境を振り返る。
 
モバイル向けのペイントアプリが登場する前、
デジタルペイントを行うためにはさまざまな機材が必須だった

 お金がかかる趣味でもあったデジタルペイントだが、ペイントアプリの登場で状況は激変した。ユーザーは“スマホ”さえあればすぐに絵を描くことができるようになった。実際にアイビスペイントのユーザーは10代と20代で8割を占める。PCで描いていたときと比べて、場所を選ばないという利点もある。ユーザーに行った調査では半数が「電車の中で描いたことがある」と回答したそうだ。
 
アイビスペイントユーザーの年齢・性別比率

 馴染みのない人は驚くかもしれないが、アイビスペイントの場合は絵を描くときに用いるのは“指”というのが多数派だ。「初代iPad向けに設計されていたこともあり、最初は指でしか描けず、レビューには不満の声もあった。『指で線が隠れて見えないのに描けるわけがない!』と(笑)」。

 ユーザーを拡大するためには「指でもこれだけしっかり絵が描けますよ」ということをアピールする必要があった。そこでアプリに搭載しているSNS機能で絵を投稿する際にはその工程が分かる動画もセットでアップされる仕様にした。「上手い人が指で描いた絵をアップするのを見て、『あれ?指でも描けるんだ』という認識が広まっていった。今では不満に感じる人がいないくらいにスタイルとして確立されている」(神谷社長)。
 
制作工程の動画をアップしてもらうことで、
指でのお絵描きスタイルが定着していった

 海外にアプリを展開するようになったのは4~5年前から。現在では19言語でローカライズされている。直感的に分かるユーザーインターフェースであるため、仕様上の変更は少なく、地場のアプリとも対等に渡り合えているという。現在のユーザー比率は海外が9割以上とかなりグローバル。SNS内のコミュニティにはさまざまな言語のコメントが並んでいる。

無料版でも高機能 アイビスペイントならではの魅力

 お絵描きアプリ市場の黎明期には多数の競合がいたが、現在はだいぶ減少している。アイビスペイントが長く市場で生き残っている理由として無料版のクオリティがずば抜けて高いことが挙げられる。有料版でないと機能が制限されるアプリが多いなかで、アイビスペイントはほとんどの機能を無料で利用できる。有料版は広告が表示されなくなる買い切りのアドオンが1220円のほか、特別な素材などを使用できる月額300円/年額3000円のプレミアム会員プランを用意しているが、機能において無料版との差はほとんどない。
 
競合ひしめく市場でアイビスペイントが生き残ってきた理由を語る
神谷社長

 新規ユーザーが入りやすくなっているのも魅力だ。アイビスペイントはSNSやYouTubeで初心者向け動画や機能の使いこなし動画を多数アップしており、絵がうまくなるためのコンテンツが揃っている。機能にもそうした配慮がある。最近では「トレース素材」としてデッサン人形を追加。その線をなぞれば誰でも簡単にさまざまな構図の絵が描けるようにした。SNSを中心にトレンドになり、大きな反響があったという。
 
ユーザーから大好評の「トレース素材」

 また、海外で支持されていることからも分かるようにユーザーインターフェースの使い勝手の良さも高く評価されている。「ペイントソフトは高機能のものほど喜ばれるが、初めての人でもやりたいことがすぐできるように使いやすさは特に重視している」(神谷社長)。指を使うユーザーが多いという特性を考慮して、アイコンなどを大きくデザインするなどの工夫も日々重ねている。

 実はお絵描きだけでなく“画像編集”のために利用するユーザーが増えているというのもおもしろい。神谷社長によると「写真を加工したり、SNS用の画像を作成したりといった使い方をする人もいる」そうだ。高機能であるがゆえに使い方の自由度も高くなっている。
 
お絵描き以外に画像編集などの用途でも使われている

リリース以来、最大のトピック! Windows版のリリース

 これまで10年以上にわたってモバイル端末向けにサービスを展開してきたアイビスペイントだが、2022年6月に大きな転機を迎える。それがWindows版のリリースだ。モバイル端末でイラストを描く環境が向上したとはいえ、ペイントアプリの市場規模はPCの方が圧倒的に大きい。現在のメインターゲットであるライトユーザーだけでなく、ハイアマチュアやセミプロといったユーザーにもリーチを広げることができる。
 
アイビスペイントのWindows版を6月にリリースする

 神谷社長は「まずはモバイルでユーザーをMAXまで広げるという方針をとっていたが、その目標をある程度は達成した。最初のアプリのリリースから10年以上を経て、いよいよWindows市場に打って出る」と意気込む。リリースする上で注意したのは「モバイル版と同じように使えること」だ。お絵描きアプリは慣れが重要で、機能が多いために使い方が変わるとユーザーがついてこれないのだという。

 ユーザーインターフェースを変えないことで、スマホでアイビスペイントアプリを使って絵を描いていた若いユーザーがPCで絵を描き始めるときにスムーズに移行することができるというストーリーも十分に考えられる。飛躍的にユーザーを拡大してきたアイビスペイントだが、成長の余地はまだまだ大きそうだ。(BCN・大蔵大輔)