HTC NIPPON 玉野社長に聞くSIMフリースマホ参入の理由、技術とサポート武器に

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2015/11/10 20:18

 SIMフリーのスマートフォン(スマホ)市場が拡大している。2014年11月にASUSが参入し、市場が活気づき、いまではスマートフォン市場全体の約1割をSIMフリースマホが占める程だ。むしろiPhoneの新モデル「iPhone 6s」がいまひとつ奮わず、前年同月比を下回っているいま、SIMフリースマホに大きな期待が寄せられている。そんななか、この10月にHTC NIPPONがSIMフリースマホ市場に参入した。


「HTC Desire EYE」と玉野社長

SIMフリースマホ市場参入のタイミング


 HTCといえば、台湾に本拠を置く世界的なスマホ専業メーカーだ。2008年には世界初のAndroidスマートフォン「HTC Dream(T-Mobile G1)」を、09年7月には、日本初のAndroidスマートフォン「HT-03A」を発売。Androidスマホの先駆者ともいえる。その後も、国内で初めてテザリング機能搭載モデルやフルHDディスプレイ搭載モデルを発売するなど、スマホの最先端を走ってきた。KDDI(au)と協力し、「HTC J butterfly HTL21」(2014年8月発売)などの魅力的な製品を投入、根強いファンも多い。

 一方、昨年11月に参入したASUSや、HTCと同じ10月に参入したエイサーは、キャリア展開をしていない。国内のスマホ市場である程度シェアをもつHTCがSIMフリースマホの投入が遅れたのはなぜか。玉野 浩 代表取締役社長は、「製品のフィールドテストに時間がかかった」と話す。
 

 


フィールドテストに時間がかかったと話す玉野社長

 玉野社長は、2014年のSIMフリースマホ市場について「本当に注目を集めていたのはSIMフリースマホではなく、MVNOの格安プラン。端末は、SIMロックを解除できるドコモの端末や中古端末が多かった。SIMフリーの新規端末を投入してもどれほど売れるのか分からなかった」と話し、慎重に動静を探っていた。

 これほど慎重だったのには理由がある。「ワールドワイドモデルをそのまま日本市場に持ってくればいい、というわけにはいかない。日本市場に適しているか、フィールドテストを徹底的に行う必要がある。時間と、そしてコストがかかる。このコストを回収できるかどうか、見極める必要があった」と玉野社長は説明する。

 2014年11月にASUSが参入したことでSIMフリースマホ市場は一変する。BCNランキングのデータでは、スマホ市場全体におけるSIMフリースマホの割合は、それまで5%前後だったが、10%前後に成長。2015年5月には16.0%までに伸びた。玉野社長は手応えを感じた今春に、参入を決めたという。「3~4月に『HTC Desire EYE』を投入すると決めた。グローバルで展開した端末をそのまま日本市場に持ち込むのではなく、徹底的にフィールドテストを実施した。ストレステストや、約50人のユーザーによるトライアルも実施し、安全性を高めた」と話す。入念な準備に時間をかけ、発売決定から実際に発売するまで、実に半年もの時間を費やして徹底的なチューニングを施した。
 


TC初のSIMフリースマホ「HTC Desire EYE」

市場シェア獲得のための課題


 参入するタイミングが来た。日本市場にふさわしい端末も用意できた。これでスマホのパイオニアであるHTCが高いシェアを取れるかというと、SIMフリースマホ市場は甘くないと、玉野社長は冷静に判断する。

 「高い技術力と開発力があると自負しているが、それだけではシェアは取れない。これまでは販売はキャリアにお任せしてきたが、SIMフリースマホ市場はそうではない。いま、厳しい競合に晒されてる」と話す。これまでKDDI(au)のスマホ、として店頭に陳列されていた端末が、キャリアの影響力が外れ、HTCのスマホとして並べられるようになるのだ。ユーザーに手にとってもらうようにするには、まず「認知度を上げることが課題である」と玉野社長は語る。
 


技術力は自信がある、と語る玉野社長

 それに加え、HTCがもう一つ抱える壁がある。価格だ。「『格安スマホ』という言葉が広がっており、SIMフリースマホが安い端末だ、と思っている人が多い。そのため、高性能な端末を相応の価格で提供したときに、高い、という印象をもたれてしまう。それゆえ、フラグシップモデルは投入しにくい」という。

 それでもHTCは挑戦する。「SIMフリースマホ市場で5万円を超す端末がない」としながらも、今回投入した「HTC Desire EYE」の税別価格は5万2800円。他社モデルと比べると高額製品だ。だが、同社の製品は顧客満足度が高い。「使って頂ければ、きっと満足して頂ける」という自信もある。

 さらにサポート体制も万全の準備を整えた。ユーザーの近くにショップがあり、何かあればすぐ相談に出向くことができるキャリア展開と異なり、SIMフリースマホは購入後、どこで相談したらいいのか分からないケースが少なくない。

 「SIMフリースマホの電話相談口を設けた。修理受け付けも実施している。お客様のお住まいの場所によって異なるが、最短4~8営業日で修理し、お戻しできる体制を敷いた。売ったら売りっぱなしではなく、少なくとも2年以上使って頂けるようにサポートしていく」と力強く語る。

 「ASUSは、1年も前にSIMフリースマホ市場に参入され、1年分のノウハウを蓄積された。1年の差をすぐに追いつけるとは思っていない。参入から1~2か月は苦しいだろう。しかし、端末の性能、サポート体制には自信があるので、いずれは追いつきたい」と玉野社長は決意を新たにする。

 徹底したフィールドテストによる安全性、しっかりしたサポートによる安心感、高い技術力が生み出す端末の満足度。これらを武器にHTCはSIMフリースマホ市場にチャレンジする。(BCN・山下彰子)

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