究極の携帯オーディオプレーヤー「HDP-R10」、その真価を探った!

レビュー

2012/08/31 19:51

 音楽をより手軽に、高音質で楽しみたいという人が増えている。街なかでは高級ヘッドフォンを使っている人をよく見かけるし、家電量販店の店頭でも、携帯オーディオに接続して信号を増幅し、音質を向上させるポータブル・ヘッドフォン・アンプの製品数が多くなっている。8月30日、このアンプを内蔵した携帯オーディオプレーヤー「iBasso Audio HDP-R10」がヒビノインターサウンドから登場した。

ヒビノインターサウンドの「iBasso Audio HDP-R10」

高音質ニーズが高まる よりよい音源を求めよう



 携帯オーディオに、高級ヘッドフォン/イヤホンをつなげて音楽を楽しむ人が多くなっている。しかし、携帯オーディオには根本的なソースの問題がある。携帯オーディオで再生できるファイルの多くはMP3やAACなどの圧縮音源なので、元の音質がそれほどよくないのだ。

 例えば、音楽CDが収録している音楽ファイルは、量子化16ビット/サンプリング周波数44.1KHzという規格でデジタル録音されている。携帯オーディオに取り込むときに、WAVやAIFFといった非圧縮のファイル形式にすれば、このクオリティをほぼ損なうことなく高音質を楽しむことができる。

 しかし音楽制作の現場では、さらに高い音質環境が一般的。レコーディングスタジオでは、24ビット/96kHz、あるいは192kHzといった環境で作業を行っている。こうしたCDを超えた非常に大きな情報量を持つ音楽データは、「ハイレゾリューション音源」と呼ばれる。CDや圧縮音源では再現不可能なレンジが広くきめ細かいサウンドがもち味で、レコーディングしたスタジオの空気感やミュージシャンのプレイアビリティが生々しく伝わってくる。

 写真に例えると、画素数が桁違いに大きく、色域が広いので、ディテールの再現力にすぐれている、といった感じだ。しかし現場のこうしたサウンドも、CDに収録する時点でダウンコンバート(小さなデータへの変換)されてしまう。

 ハイレゾリューション音源は、最近は海外を中心にダウンロードできるウェブサイトが少しずつ増えている。ジャンルはクラシックが中心だが、ロックやポップスでも一部の先鋭的なアーティストが自分のウェブサイトでハイレゾリューション音源を提供している。ユーザーの高音質志向が高まれば、もっと多くのジャンルに波及していくだろう。

 しかし、ハイレゾリューション音源を入手しても、再生できる環境が整っていなければ意味がない。ここで紹介する「iBasso Audio HDP-R10」は、最高24ビット/192kHzに対応したハイレゾリューション音源対応の携帯オーディオだ。

高級パーツを惜しみなく組み込んだ妥協のない設計



 iBasso Audioは、iPod対応のヘッドフォンアンプなどを開発しているメーカー。「HDP-R10」の開発は、このiBasso Audioとプロ音響機器を広く扱っているヒビノインターサウンドが共同で行っているので、携帯オーディオといえども、さまざまな部分でプロ志向の妥協のない設計が施されている。

 手に持つと、ちょうど手のひらサイズ。重さは260gと、従来の携帯オーディオと比べるとかなりずっしりしているが、この後に述べていくスペックを考えると、むしろ「よくこの大きさ・重さで収めた」という印象を受ける。きょう体はマグネシウム合金とアルミニウム合金で、美しいヘアラインの仕上げは高級感がある。

ほどよい大きさで操作感もいい

 OSはAndroid 2.3.1で、スマートフォンのようなインターフェースで誰でも簡単に扱うことができる。操作面ではまったく不便を感じなかった。Android対応の音楽プレーヤーアプリをダウンロードして使うのもいいが、内蔵の「HD Music Player」はハイレゾリューション音源に対応しているし、既存のMP3ファイルなどもハイレゾリューションにアップコンバートする機能を備えているので、基本的にはこのソフトをメインに使えばいい。

プレイリスト画面(左)と再生時の画面。アートワークも表示できる

 ハイレゾリューション音源を最大限に生かすために、アナログ部分にはハイエンドオーディオ並みの高級パーツを採用している。例えば、DAコンバータにはカナダ・ESSテクノロジの「ES9018」を、オペレーションアンプ(オペアンプ)には米テキサスインスツルメンツの「OPA627」を採用している。これらはいずれも数十万円クラスの高級オーディオが採用しているパーツで、携帯オーディオが搭載している例は聞いたことがない。この二つのパーツの原価で、ちょっとした携帯オーディオが買えてしまうほどなのだ。

 コスト見合いでしかたがないのだが、多くの携帯オーディオは、こうした音に直接関わってくるパーツが非常に貧弱だ。音の出口にこだわらなければ美しいサウンドが得られないのはあたりまえで、こうした高級パーツを採用したことからも、開発陣の意気込みが伝わってくる。

 特にオペアンプは、クオリティの高いパーツを使うとそれだけ消費電源も大きくなってしまうのだが、「HDP-R10」はハイレゾリューション音源の再生でも連続9時間というハイパワーを誇る。電源には4800mAhの大容量リチウムポリマーバッテリを採用。これも、一般的に使われているリチウムイオン電池よりも安全性が高く、それだけコストがかさむパーツだ。電源の安定はそのまま音質の安定にもつながるので、ここも妥協できなかったポイントなのだろう。

空気感までリアルに再現 息づかいさえも感じ取れる



 肝心のサウンドはどうだろう。まずハイレゾリューション音源の再生だ。周波数レンジが大きく広がっていることもあって、CDよりも透明感を感じさせる。いままで気づかなかったボーカリストの息づかい、アコースティック楽器の倍音、さらには演奏しているスタジオの広さや空気感までリアルに感じられる。

 音場が締まったことでリズムの切れがよくなり、低域も量感を保ちながらタイトに聴かせてくれる。全体に演奏者が身近に感じられ、いままでベールに隠れていたスタジオで行われているプレイが、ぐっと近づいた印象だ。ヘッドフォン経由だけでなく、自宅のオーディオセットに接続してスピーカーで鳴らしても、その印象が変わることはなかった。

専用のマウントベース「Nrmb」。アルミ合金の削り出しでずっしりと重く、音質に影響しにくい。裏面にはケーブルを引き回しやすいようにスリットが入っている

 また、圧縮したAAC音源をアップコンバートして聴いたところ、圧縮音源独特ののっぺりしたメリハリに欠けるサウンドにうまく凹凸を与えてくれるというか、特にダンゴ状になりがちな中域の解像度がアップしたような感じを受けた。これはファイルのクオリティが上がったこともあるだろうが、それよりも質のよいDAコンバータやオペアンプを経由したことが大きいだろう。MP3などの音源も、「HDP-R10」を通すことでかなり印象が変わるはずだ。

アナログ出力端子部(左)とデジタル出力端子部。アンプと接続するときは、Line OutよりPhone端子のほうが低インピーダンスで出力も強い。その場合、GainはMid以下で使うといい

 まだハイレゾリューション音源が普及の初期段階にある状況で、ヒビノインターサウンドがこの製品を出してきたのは、かなり挑戦的な試みだ。しかし、リリースが発表されると同時に、インターネット上ではかなりの反響を呼んだ。よりよい音を求める人は、たくさんいるのだ。

 実勢価格は8万8000円前後で、これは携帯オーディオとしてはかなり高い部類に入る。しかし、ハイレゾリューション音源プレーヤーとして考えれば、頑張った価格だと思う。高級パーツのコストを考えると、この数倍の値付けもできるクオリティだ。いい音を持ち歩きたい人にも、自宅のオーディオセットに組み込んでじっくり使いたい人にも、十分価値のある携帯オーディオだ。(ITライター・巽英俊)